契約
#契約社員
#雇用契約書
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
雇用契約書は、会社と労働者の間で労働条件が合意されたことを示す重要な書類です。特に、期間の定めのある契約社員では更新や無期転換に関する事項等、正社員とは異なる項目もあるため作成には注意が必要です。
雇用契約書で条件を明確にしておくことは、労働基準法の遵守という点で重要であるだけでなく、「雇い止め」や「待遇差」を巡るトラブル防止にも繋がるでしょう。
本稿では、法改正を踏まえた雇用契約書の作成ルールや、明示事項、無期転換等、契約社員の雇用契約について会社が注意すべきポイントを分かりやすく解説します。
目次
契約社員とは
一般的に、契約社員とは雇用期間が限定される「有期雇用労働者」を指します。正社員とは違い、あらかじめ定めた「1年」や「6ヶ月」といったタイミングで契約終了となります。
季節的な業務への対応や特定のプロジェクトの場合には有期雇用の契約社員として雇用する場面も多いでしょう。契約社員の労働条件は、会社が業務内容等を踏まえて、契約期間や賃金等を個別に定めることが一般的です。
無期転換ルールにより、期間の定めのない無期雇用契約社員という形態も増えてきましたが、実務において慎重な判断が求められるのは有期雇用のケースでしょう。本稿では、期間の定めがある「有期雇用」の契約社員を前提に解説を進めていきます。
契約社員と正社員の違い
正社員と契約社員の決定的な違いは、「雇用期間の定めの有無」にあります。正社員は定年まで雇用が継続する「無期雇用」が基本ですが、契約社員はあらかじめ雇用期間を限定する「有期雇用」となります。
正社員は将来的な活躍を期待して、幅広い職務を経験させるケースが多い一方、契約社員は特定の専門業務やプロジェクト単位等、職務範囲が限定的な傾向にあります。そのほか、賞与や昇給といった給与体系や福利厚生等も異なるでしょう。
契約社員とパートタイマーに法的に明確な違いはありませんが、労働時間の差が顕著といえます。契約社員はフルタイム勤務が多く、パートタイマーは短時間のシフト制で勤務することが多いでしょう。
契約社員の雇用契約書を作成する場合のルール
契約社員を雇用する際は、雇用契約書に給与や労働時間等の労働条件を明確にして交付しなければなりません。契約社員の雇用契約書を作成するにあたっては、正社員とは異なる点がありますので、特に以下の事項に注意して作成しましょう。
- 契約期間
- 無期転換
- 契約更新の有無と更新基準
- 所定労働時間
- 労働条件
- 同一労働同一賃金
- 正社員登用の基準
契約期間
契約社員との雇用契約では、契約期間に法律上の制限が定められています。労働基準法により、1回の契約期間の上限は原則として3年と定められています。3年を超える期間で契約したとしても、法的に3年に短縮され、それ以降の期間は無効となります。
ただし、以下のケースに限り、例外的に最長5年までの有期雇用契約が認められています。
- 高度な専門知識、技術、経験を有する専門職(博士号保持者や公認会計士など)を、その専門能力を必要とする業務に就かせる場合
- 満60歳以上の労働者と契約する場合
専門知識を有していても、その能力が必要となる業務に従事していなければ、契約期間の上限は通常と同じく3年となります。
無期転換
労働契約法の改正により導入された「無期転換ルール」とは、同一の使用者にて有期雇用契約の更新が通算5年を超えた場合、労働者の申し込みによって無期労働契約(無期雇用)に転換される制度です。
なお、部署異動等があっても同じ法人で勤務していれば契約期間は通算されますので注意しましょう。
2024年4月の法改正により、無期転換ルールに基づく以下の2点が労働条件の明示事項として追加されました。
- 無期転換申込機会
- 無期転換後の労働条件
無期転換は、労働者からの申込によって成立するため、申込があれば会社は拒否できません。また、無期転換ルール回避のために、無期転換申込権発生前に雇止めを行う等はトラブルになるおそれもあるでしょう。契約社員を雇用する際は、無期転換ルールへの対応も合わせた検討が必要です。
契約更新の有無と更新基準
有期雇用契約においては、契約更新の有無を明示しなければなりません。一般的には、「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」「契約の更新はしない」のいずれかで明示することが多いでしょう。
更新を有りとする場合には、判断の根拠となる基準も併せて示します。「契約満了時の業務量」「勤務成績・態度」「能力」「会社の経営状況」など、客観的な項目を記載しましょう。
有期雇用契約では、契約期間中は「やむを得ない事由」がない限り解雇が認められず、期間満了時の「雇止め」も法的に制限される場合があります。
2024年4月の改正により義務化された、更新回数や通算期間の上限の有無を明確にすることはトラブル防止にも繋がりますので、必ず記載しましょう。
所定労働時間
契約社員の所定労働時間は、労働基準法に基づき原則「1日8時間以内」かつ「1週40時間以内」(法定労働時間)の範囲内で設定しなければなりません。
雇用契約書には、始業・終業の時刻、休憩時間、休日を具体的に記載しましょう。変形労働時間制やフレックスタイム制を適用する場合には、その内容に応じた所定労働時間を記載します。
また、「所定労働時間外の労働(残業)の有無」に関する明示も重要です。残業が発生する可能性がある場合は明記し、「36協定」を締結しましょう。
契約社員は正社員と異なる勤務時間(シフト制や短時間勤務等)が多くなっていますので、正社員用の雇用契約書を使い回したりしないよう注意が必要です。
労働条件
契約社員の労働条件を決定する際、その内容が就業規則で定める労働条件を下回らないか確認しましょう。契約社員にも就業規則が適用される場合、就業規則を下回る労働条件は無効となり、就業規則の基準が適用されます。
ただし、以下のケースでは就業規則による労働条件の適用はありません。
- 就業規則内に「本規則は正社員のみに適用する」といった適用範囲の規定があり、契約社員が含まれない場合
- 社員数が10名未満等、就業規則を作成していない場合
上記のケースでは、雇用契約書に記載された内容が直接的な労働条件の根拠となります。適用される就業規則があれば、就業規則と契約書で労働条件が異なっていると無用の混乱を招いてしまいます。それぞれの整合性は必ず確認するようにしましょう。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、正社員とそれ以外の労働者との間で、不合理な待遇差を設けることを禁止する制度です。
会社には、基本給や賞与、福利厚生等のあらゆる待遇について、その目的や性質に照らして適切なバランスを図る「均衡待遇」と、職務内容が同一であれば差別的取扱いを禁止する「均等待遇」が求められます。
どの程度の待遇差が許されるかは、「職務内容」「責任の程度」「配置変更の範囲」の3つの要素で判断されます。職務内容等に明確な違いがあれば、基本給や賞与に差があっても認められやすい傾向にあります。
しかし、通勤手当等の職務内容に関与しない項目の待遇差は不合理と判断されやすいでしょう。正社員と契約社員で待遇差を設ける場合には、項目ごとに「なぜ差があるのか」を客観的に説明できるようにしておくことが大切です。
正社員登用の基準
契約社員との雇用契約において、正社員登用の有無や登用の基準についての明示義務はありません。しかし、将来的な正社員登用を期待して入社する社員も少なくないと考えられます。
パートタイム・有期雇用労働法では、正社員登用を推進する措置を講じることも努力義務とされていますので、正社員登用制度については明確にしておくべきでしょう。
登用制度がある場合は、「勤続年数」「評価点」「登用試験の合格」等、具体的な要件を明記します。登用制度がないのであれば、「正社員登用制度なし」と記載しておけば、誤解を防げるでしょう。
正社員登用が決まった際は、無期雇用の内容に即した新たな雇用契約書を交わさなければなりません。給与体系や責任の範囲等が大きく変わる点もあるため、労働条件の変更点を丁寧に説明し、再確認するようにしましょう。
契約社員の雇用契約書と労働条件の明示事項
労働基準法15条により、会社は労働者を雇用する際、賃金や労働時間等の労働条件を明示する義務が課されています。
記載すべき労働条件には絶対的明示事項と相対的明示事項があり、これらを網羅した内容でなければなりません。労働条件の明示方法は、原則として書面の交付(労働者が希望した場合はメール等も可)によって行います。
労働条件は「労働条件通知書」または「雇用契約書」のいずれの形式で明示しても問題ありません。
労働条件通知書は会社が一方的に労働条件を通知する書類であるのに対し、雇用契約書は、労使双方の合意を証明する署名捺印入りの書類です。実務上は、必要な明示事項をすべて記載し、署名捺印欄を設けた1つの書面として作成することが多いでしょう。
絶対的明示事項
「絶対的明示事項」とは、労働基準法に定められた、労働契約の締結時に必ず書面で交付しなければならない項目のことです。絶対的明示事項について明示漏れがあると労働基準法違反となるだけでなく、労働条件を巡って契約社員とトラブルになるおそれもあります。
絶対的明示事項には、正社員との共通事項に加えて、契約社員に対してのみ義務づけられた項目もあります。契約社員の雇用契約書を作成する際は、これらの特有の項目が網羅されているかを必ずチェックしましょう。
すべての労働者
すべての労働者に対して、書面で必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」は以下の項目です。
- 労働契約の期間に関する事項
- 就業の場所および従事すべき業務に関する事項
- 始業・終業時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇などに関する事項
- 賃金の決定方法、支払時期、昇給等に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
雇用契約の際に明示すべき労働条件は、労働基準法に詳細が定められており、会社が自由に明示事項を選択できるわけではありません。上記の事項は、すべての労働者に対して明示する義務があり、記載が一つでも欠けていると労働基準法違反となります。
2024年4月から、「就業場所・業務の変更の範囲」については、雇入直後だけでなく将来的に変わり得る範囲についても記載するとされました。それぞれの項目について漏れがないか、交付前に必ず確認するようにしましょう。
有期雇用労働者(契約社員・パート社員など)
2024年4月の法改正により、契約社員等の有期契約労働者については、以下の事項を新たに追加で明示する必要があります。
- 更新上限の有無と内容
通算契約期間や更新回数に上限を設ける場合は、その内容を明記します。更新上限を新設・短縮する際は、事前に理由の説明が必要です。- 無期転換申込機会
無期転換申込権が発生する更新のタイミングで、「無期雇用への転換を申し込める」旨の明示が必要です。- 無期転換後の労働条件
無期転換申込権が発生する際に、転換後の労働条件を具体的に示す必要があります。
なお、無期転換後の労働条件に関して、他の正社員等の従業員とのバランスを考慮した事項の説明が努力義務となりました。無期転換の際には、均衡を考慮した労働条件を設計しましょう。
相対的明示事項
「相対的明示事項」とは、会社としてその制度を設けていれば、労働条件として明示しなければならない事項のことです。絶対的明示事項とは異なり、制度がなければ記載不要となります。相対的明示事項の主な項目は以下の通りです。
- 退職手当に関する事項
退職金の対象者、計算方法、支払時期など。- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与、最低賃金に関する事項
ボーナスの有無や計算方法、特定の最低賃金設定について。- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全および衛生に関すること
作業の安全や健康診断、職場の衛生管理に関するルール。- 職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰および制裁に関する事項
- 休職に関する事項
契約社員には退職金や賞与を支給しないケースもありますが、その場合は誤解を防ぐためにも、雇用契約書に「支給しない」と明記しておきましょう。
雇用契約書のひな形・テンプレートの活用と注意点
契約社員の雇用契約書を作成する際は、正社員と明示事項が異なるため、事前に正社員や契約社員、パートといった雇用形態別にひな形を用意しておくとスムーズでしょう。
厚生労働省では、2024年4月の法改正に対応した「労働条件通知書」のテンプレートを公開しています。契約社員の明示事項にも対応した書式となっているため、契約書のベースとして活用できるでしょう。
ただし、そのまま運用すると社内体制と矛盾が生じ、思わぬリスクを招くおそれがあります。自社のひな形として活用する場合には、自社のルールや業務内容、更新の上限設定等、実態を反映した内容に調整して運用するようにしましょう。
契約社員の雇用契約書については弁護士にご相談ください
契約社員の雇用契約書は単なる事務書類ではありません。労働条件の合意を証明する重要書類であり、雇い止めや無期転換等、様々なトラブル防止に必要となります。雇用契約書の作成には、明示事項の網羅や法改正の遵守、就業規則を踏まえた制度の反映等が必要です。
これらの点に不足や矛盾があれば、労働基準法違反や法的トラブルを招く可能性もあります。弁護士に相談すれば、法的観点から契約書作成のアドバイスが得られるため、安心して雇用契約を結ぶことができるでしょう。
弁護士法人ALGでは、労務に精通した弁護士が多数在籍しており、2024年4月の法改正への対応はもちろん、貴社の業種や就業実態等を踏まえたアドバイスが可能です。雇用契約書について少しでも疑問点等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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