降格
#管理職
#降格
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
管理職としての能力に問題があれば、降格などの処分を検討せざるを得ない場合もあるでしょう。降格などの人事権は、ある程度会社の裁量に委ねられる傾向にあります。しかし、無制限で認められるわけではなく、妥当性が無ければ、不当処分として裁判などに発展するおそれもあります。
降格処分を行う際には、制度を整備し、適切なプロセスを踏むことが大切です。このページでは、管理職の降格が違法となるケースや処分のポイント、注意点等について解説していきます。
目次
- 1 管理職の降格は違法なのか?
- 2 管理職における降格人事の種類
- 3 管理職の降格人事が認められるケース
- 4 管理職の降格処分が違法となるケース
- 5 管理職の降格が違法とされた判例
- 6 管理職の降格処分を適正に進める6つのポイント
- 7 管理職の降格を実施する際の手順
- 8 管理職の降格でトラブルを防ぐためにも労働問題に強い弁護士法人ALGにご相談ください。
- 9 管理職を降格できる?違法となる可能性は?
- 10 管理職における降格人事の種類
- 11 管理職の降格処分が違法となるケースとは?
- 12 管理職の降格人事が認められるケース
- 13 管理職の降格処分を適正に進める4つのポイント
- 14 管理職の降格を実施する際の手順
- 15 管理職の降格でトラブルを防ぐためにも労働問題に強い弁護士法人ALGにご相談ください。
管理職の降格は違法なのか?
管理職の降格が直ちに違法と判断されるわけではありません。なぜなら、会社は人事権を有しており、業務上の必要性に基づく降格処分については一定程度の裁量が認められているからです。
管理職であっても、規律違反や職務怠慢など、客観的に見て合理的といえる理由があり、降格処分が社会通念上も相当であれば有効です。正当な理由のない降格や、会社都合等で恣意的に行われた降格は、権利濫用として不当処分になるおそれがあります。
違法と判断されれば、会社は損害賠償責任を負うことになります。賠償額は管理職の給与水準になるため、金銭的負担が大きくなる可能性があるでしょう。
法的リスクのみならず、不適切な処分は他の従業員に不信感等の悪影響を及ぼす懸念もあります。降格処分の判断は慎重に行わなければなりません。
管理職における降格人事の種類
管理職を降格する方法として、以下の2種類が挙げられます。
- 人事異動としての降格
- 懲戒処分としての降格
いずれも同じ降格処分ですが、その性質や有効性の判断の仕方が異なります。
人事異動としての降格
人事異動としての降格は、能力不足や組織再編など、業務上の必要性に基づいて会社が行う配置転換の一種です。降格には、降職(解任)と降格(降級)があり、いずれも管理職としての実績やスキルを評価したうえで実施されます。主な違いは以下のとおりです。
- 降職(解任)
役職を解いて、部長から課長に、など下位の役職へ変更することです。降職は、職位の変更処分であるため、給与の減額は必ずしも発生するわけではありません。- 降格(降級)
給与の等級引き下げなど、待遇変更の措置を指します。降格は、給与の減額を伴っているため、処分の有効性については降職よりも厳しく判断される傾向があります。
懲戒処分としての降格
懲戒処分としての降格は、問題行為に対する制裁として行われます。例えば、規律違反(パワハラや社内規則違反など)を行った管理職に制裁として降格を行うケースが挙げられます。
懲戒処分は就業規則に懲戒に関する規定があり、かつ就業規則が周知されていなければ行えません。降格の対象となる行為が、懲戒事由に該当している必要もあります。
また、処分の重さとしても、降格が社会通念上相当でなければ、懲戒権の濫用として違法になるおそれがあります。懲戒の種類には、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等があります。
降格は懲戒の中で比較的重い処分となるため、慎重に判断してください。有効性については人事異動による降格よりも厳しい判断となります。
管理職の降格人事が認められるケース
管理職に対する降格人事は、会社の人事権として適切な範囲内であれば問題ありません。ただし、人事権であれば無制限に有効というわけではなく、降格が法的に有効となるには、客観性のある合理的な基準が必要です。
降格人事が認められる主な基準は以下の3つのケースに分類されます。
- 能力不足
- 勤務態度が悪い
- 社内規則違反
能力不足
管理職は部下を指揮・監督し、マネジメントする能力が求められます。
管轄部署の売上げの低下やトラブルの増加など、部下への指導が不適切であり、管理職としての役割を果たしていないと判断された場合は、人事権行使として降格の対象になると考えられます。
ただし、能力不足を理由に降格するには、事前の指導が必要です。例えば、降格させる前に管理職としての能力不足を補う研修を行うなど、改善の機会を与えることが求められます。
勤務態度が悪い
管理職は部下の模範となるべき存在です。必要に応じて部下を注意指導し、改善を促す役割を担っています。そのような立場にもかかわらず、勤務態度が悪い、職場の秩序を乱すといった振る舞いがあれば、会社として見過ごすことはできないでしょう。
管理職の勤務態度の不良は、職場の規律や従業員の士気に及ぼす影響が大きいため、以下のようなケースでは、降格人事の対象になると考えられます。
- 会社から与えられた仕事をしない
- 度重なる遅刻や早退、無断欠勤
- 勤務時間中の私用が多い
- 頻繁に職場を離れる
遅刻や無断欠勤などは、何回行えば降格になるという基準を設けることは困難です。まずは管理職に繰り返し注意指導を行い、それでも改善されない場合に降格を実行すべきでしょう。
社内規則違反
会社が定める社内規則違反や法律違反が判明した場合は、懲戒権を行使して降格人事を行うことが可能です。
例えば、ハラスメント行為や会社の機密情報の漏えい、取引先との金銭的不正、違法な残業命令、横領などの犯罪行為が挙げられます。
特に管理職に多いのが、部下へのパワハラが理由となるケースです。パワハラは労働施策総合推進法(通称、パワハラ防止法)によって会社に防止措置が義務づけられており、会社はパワハラ行為に対して適切に対処しなければなりません。従業員から告発があった場合は、パワハラの証拠を用意することで、懲戒処分を科すこともできます。
ただし、最近では少し注意されただけでパワハラされたと騒ぐなど、部下からの逆パワハラも増えています。適切な指導の範囲であったか否か慎重に判断することが必要です。
管理職の降格処分が違法となるケース
管理職の降格処分は、以下のようなケースでは違法となる可能性があります。
- 降格の根拠を示すことができない
- 降格の根拠が不当である
- 職位や賃金が極端に下がる
降格の根拠を示すことができない
給与の減給を伴う降格人事や、懲戒処分としての降格は就業規則に根拠となる規定が必要です。降格を行う前に、まずは規定が整備されているか確認しましょう。
もし、降格人事や懲戒処分に関する規定が不十分であれば、根拠としてなり立たない可能性があります。また、処分を決定するに至った事実関係についても曖昧なままであれば、根拠としては不適格でしょう。
特に懲戒処分は従業員の不利益が大きいため、根拠の必要性は人事権に比べて厳しく判断されると考えられます。
降格の根拠が不当である
懲戒処分、人事権いずれであっても降格の根拠が不当である場合には、違法と判断され無効になります。降格処分の根拠が不当となるケースには以下のようなものがあります。
- 退職させることを目的とした降格
- 有給休暇の取得等、従業員の正当な権利行使に対する降格
- 妊娠・出産・育児休暇の取得をきっかけとした降格
- 就業規則の規定に沿わない降格
上記は例示ですので、これ以外の事由であっても根拠に正当性のない降格処分は違法と判断され得ます。降格処分の判断材料となるか不安があれば弁護士へ相談してから処分を検討しましょう。
職位や賃金が極端に下がる
職位が2段階以上下がるような大幅な降格の場合には、給与の減額幅も大きくなることが想定されます。
このような極端な降格は、会社に多大な損害を与えるなど極端な事例でなければ、適正とみなされることは難しいと考えられます。
また、減額する給与内容によっても判断が異なります。役職手当の減額は、その役職から退くことによるものですので、認められる判例が多くなっています。
しかし、基本給の減額には人事評価の基準が合理的であることや、就業規則に定めがあることなど高度な合理性が求められます。
役職手当に比べると、基本給の減額は違法と判断される可能性は高くなっています。
管理職の降格が違法とされた判例
管理職の降格では、賃金の減額幅が一般の従業員に比べて大きくなるケースが多いでしょう。不利益の程度が大きいため、不当処分としてトラブルに発展する事例も少なくありません。管理職の降格による賃金減額が認められず、無効と判断された日本HP事件をご紹介します。
事件の概要
(令和4年(ワ)4703号・令和5年6月9日・東京地方裁判所・第一審)
パソコン等の製造販売を業とするY社で、Xはマーケティング部門の管理職として勤務していました。Xは、年次評価において、直属の上司から役割に必要な期待値や成果を下回っていると評価され、業務改善プログラムが実施されました。しかし、次年度の年次評価においても改善がみられなかったため、Y社はXを降格し、降給に関する規定に基づき賃金を減額しました。降格処分および賃金の減額は不当であるとして、XはY社を訴えました。
裁判所の判断
本事案では、管理職の能力不足を理由とした降格が行われ、基本給が減額されました。降格処分を行うにあたり、Y社は年次評価およびその評価に基づいた指導を行いましたが、改善に至らなかったため、処分実施するというプロセスを経ています。
降格に伴う賃金の減額については、降給の規程があるものの、職務の具体的内容や給与レンジ等は定められておらず、減額の根拠としては不十分と判示されました。
さらに、根拠とする資料は労働基準監督署へ届出されておらず、周知の事実ではあっても就業規則の一部とは認められませんでした。
これらの事実を踏まえて裁判所は、賃金を労働者の不利益に変更するには、双方の合意または就業規則等の明確な根拠に基づいていることが必要であるとして、本事案では、合意なく、かつ根拠不十分として、降格による減給は無効と判断しました。
ポイント・解説
管理職から非管理職へ降格する場合、役職手当の有無で対処するケースもありますが、本事案のように基本給を減額するケースもあります。基本給を減額するには、給与テーブルや給与レンジといった明確な基準が就業規則等に定められていなければなりません。
本事案では、Y社は社内イントラネットで公表していた「給与変更ガイド」を根拠としましたが、具体性が乏しく、労働基準監督署への届出もないため、減額の根拠として認められませんでした。
降格処分の適切性に注意することはもちろんですが、処分に付随する減給についても慎重に対処する必要があります。減給は従業員の生活を圧迫しかねない不利益ですので、確かな根拠に基づいているか否かは必ず確認しましょう。
管理職の降格処分を適正に進める6つのポイント
管理職の降格処分を適正に進めるには、以下の6つのポイントに注意して行いましょう。
- 就業規則に明記する
- 証拠を集めて保管しておく
- 降格処分の前に注意指導を行う
- 弁明や改善の機会を与える
- 減給を伴う降格は慎重に判断する
- 人事権や懲戒権を濫用しない
就業規則に明記する
降格処分が認められるには、明確な根拠を示すことが必要です。まずは就業規則に人事権としての降格、懲戒処分としての降格が明記されているか確認しましょう。
給与の減額を行うのであれば、その点についても点検が必要です。もし、規定がなければ、就業規則の整備に取り掛かりましょう。
また、規定されているだけでは足らず、就業規則が従業員へ周知されていなければ、効力をもちません。就業規則の運用状況についても確認が必要です。
証拠を集めて保管しておく
降格処分が権利濫用ではないことを証明するために、降格を決定するに至った事実関係に関する証拠を集めておきましょう。客観的な証拠を収集し、会社側の正当な理由を証明できるようにしておきます。
証拠としては、始末書や指導書などの書面が一般的ですが、管理職とのやり取りの記録などがあれば、時系列に沿って整理しておきましょう。規律違反があれば、その違反行為がわかる書面や写真、第三者の証言等も有効です。
このような証拠は、管理職とトラブルになった場合に重要な証拠となりますので、必ず捨てずに保管しておきましょう。
降格処分の前に注意指導を行う
懲戒事由に該当する行為や、管理職として不適格な行動があったとしても、いきなり降格処分を行うと違法とみなされる可能性があります。
悪質性の高いトラブルでなければ、まずは、丁寧に注意指導を行い、改善の機会を与えましょう。改善が見られない場合は、段階的に処分を重くしていきます。処分については、就業規則に明記された処分内容に基づいて検討します。一般的には、けん責、減給、出勤停止を経て降格処分とするケースが多いでしょう。
弁明や改善の機会を与える
様々な証拠等を踏まえて降格処分を行うとしても、一方的に決定することは避けるべきです。従業員に弁明の機会を与え、従業員側の事情を把握したうえで処分内容を決定しましょう。
また、従業員に改善の機会を与え、反省や改善の意欲があるならば、必要に応じて降格処分を再検討することも大切です。
弁明の機会を与えない場合、降格のような重い懲戒処分では違法と判断されるケースも多くなっています。特に就業規則に、弁明の機会の付与が手続きとして規定されている場合には、必ず行うようにしましょう。
減給を伴う降格は慎重に判断する
減給を伴う降格は、従業員にとって不利益変更にもあたるため、単なる職位の引き下げよりも厳しく判断されます。特に基本給を減額する場合には、以下のような要件を満たしているか確認をしましょう。
- 就業規則に基本給を減額する根拠規定がある
- 基本給減額の決定に合理性があり、かつ手続きが適正に行われている
- 人事評価が公正で、不合理でない
これらの要件に不備があれば、違法と判断されるリスクがあります。減給を伴う降格の判断については、弁護士へ相談することをおすすめします。
人事権や懲戒権を濫用しない
人事権や懲戒権は、会社が無制限に行使できる権利ではありません。人事権や懲戒権が不当に行使されていれば、権利の濫用とみなされ、降格処分は無効となります。会社は、業務上の必要性や就業規則等の根拠に基づき、適切に実施しなければなりません。
不適切な処分は、裁判などのトラブルにも発展するため、慎重に対応しましょう。以下のような場合は、権利の濫用に当たる可能性があります。
- 業務上の必要性がなく、上司の個人的な感情や報復目的で、降格させる対象者を選定した
- 軽微なミスに対して降格処分を実施した(問題行為と処分の重さの不均衡)
人事権や懲戒権は、適切に実施されていれば社内の秩序を安定させる公正な処遇といえます。処分を実施する際に不安があれば、弁護士へ相談することをおすすめします。
管理職の降格を実施する際の手順
降格処分は、制度に関する規定が備わっており、降格が合理的であると客観的に判断できることが必要です。降格を実施するには以下のような手順が求められます。
- 事実関係の調査や把握
- 注意・指導
- 就業規則の確認・処分の検討
- 処分対象者へ周知
①事実関係の調査や把握
降格処分の根拠となる事実を明確にするため、証拠収集を行いましょう。事実関係を正確に把握し、降格となる理由を時系列順に説明できるようにしておくと良いでしょう。
調査を行うことで、根拠となる事実が明確になれば、紛争化した際に役立つだけでなく、処分決定に対する社内の従業員の納得性も高まります。
②注意・指導
処分の対象となる問題があったとしても、いきなり降格処分を行うと、会社の指導義務を果たしていないとみなされ、違法となる可能性が高まります。
管理職であっても、まずは注意指導を行い、改善を促しましょう。管理職へ会社が問題視している点を伝え、業務日報や指導票を活用することによって改善の機会を設けます。
管理職の様子を一定期間、観察し改善傾向を確認しましょう。注意・指導を繰り返しても反省や改善が見られないようであれば、処分の実施もやむを得ないといえるでしょう。
③就業規則の確認・処分の検討
降格処分を実行する前に、就業規則の内容を確認しましょう。人事権による降格であっても就業規則に規定されていなければ基本給を減額するような処分はできません。
また、懲戒処分による降格も規定が必要です。いずれの降格も規定があるのであれば、問題点の重大性を踏まえて選択してもよいでしょう。
懲戒処分は裁判で厳しい判断となる傾向があり、管理職本人に与える影響も大きいため、人事権による降格を選択することが多くなっています。
④処分対象者へ通知
対象管理職へ処分内容を通知し、弁明の機会を与えます。一方的に処分を決定するのではなく、管理職の言い分にも耳を傾けましょう。
会社の調査で把握しきれなかった新たな事実が判明する可能性もあります。弁明の内容を踏まえて処分を再検討することは、行き過ぎた処分を防ぐことにも繋がるので、会社にとっても有益といえます。
弁明内容を確認した上で、特に変更の必要が無ければ、処分を実施しましょう。
管理職の降格でトラブルを防ぐためにも労働問題に強い弁護士法人ALGにご相談ください。
人事権や懲戒処分は会社の秩序を守るために必要な手続きですが、これらを適正に行うことは決して簡単ではありません。法的判断も伴うため、対処に慣れていない企業で対応するのは難しいといえます。対応が不適切であれば、紛争化するリスクも高くなってしまいます。
もし、管理職の降格を検討せざるを得ないのであれば、処分を決定する前にまずは専門家である弁護士へご相談ください。弁護士であれば、社内の制度整備状況の確認、処分の妥当性、処分後のリスクなど幅広いアドバイスが可能です。
弁護士法人ALGでは労働問題に精通した弁護士が多数在籍しており、様々な労務相談に対応しています。全国展開しておりますので、最寄りの支部でご相談頂けることはもちろん、電話でのご相談も可能です。ご不明点があれば、まずはお気軽にご相談ください。
管理職としての能力に問題があるようであれば、いつまでも管理職として扱うことは不適切です。健全な企業経営のためにも、降格を検討せざるを得ない場合もありますが、注意点があります。
降格などの人事権は会社にある程度裁量が認められていますが、無制限に行うことはできません。降格が妥当ではないのに決行すると、不当処分として違法と判断されるリスクがあります。
降格を行うには制度の整備やプロセスを踏むことが必要です。このページでは、管理職を降格する際の注意点について解説していきます。
管理職を降格できる?違法となる可能性は?
管理職であっても、適切に対処すれば降格処分は可能です。しかし、不適切な方法による降格処分は違法となり得ます。違法と判断されれば、会社は損害賠償等の責任を負うことになります。
特に管理職の給与は、一般職の従業員に比べると高額であるため、損害賠償等の金銭的負担は大きくなる可能性があります。
また、不適切な降格処分は法的リスクだけでは社内の従業員の信頼を失うことにも繋がります。従業員の定着率にも影響しかねませんので、降格処分は慎重に検討しましょう。
管理職における降格人事の種類
管理職を降格する方法として、以下の2種類が挙げられます。
- 人事異動としての降格
- 懲戒処分としての降格
いずれも同じ降格処分ですが、その性質や有効性の判断の仕方が異なります。以下で2つの違いについて見ていきましょう。
①人事異動としての降格
人事異動の降格には、降職(解任)と降格(降級)があります。いずれも今までの実績や、管理職としてのスキルを評価した上で行う、会社の人事権としての処分です。原則として、会社にある程度の裁量が認められています。主な違いは以下になります。
- 降職
役職を解いて、部長から課長に、など下位の役職へ変更することです。降職は、職位の変更処分であるため、給与の減額は必ずしも発生するわけではありません。- 降格
給与の等級引き下げなど、待遇変更の措置を指します。降格は、給与の減額を伴っているため、処分の有効性については降職よりも厳しく判断される傾向があります。
②懲戒処分としての降格
懲戒処分としての降格は、問題行為に対する制裁として行われます。例えば、規律違反(パワハラや社内規則違反など)を行った管理職に制裁罰として降格を行うケースが挙げられます。
懲戒処分は就業規則に懲戒に関する規定があり、かつ就業規則が周知されていなければ行えません。降格の対象となる行為が、懲戒事由に該当している必要もあります。
また、処分の重さとしても、降格が社会通念上相当でなければ、懲戒権の濫用として違法になるおそれがあります。懲戒の種類には、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等があります。
降格は懲戒の中で比較的重い処分となるため、慎重に判断してください。有効性については人事異動による降格よりも厳しい判断となります。
管理職の降格処分が違法となるケースとは?
管理職の降格処分は、以下のようなケースでは違法となる可能性があります。
- 降格の根拠を示すことができないケース
- 降格の根拠が不当であるケース
- 職位や賃金が極端に下がるケース
降格の根拠を示すことができない
給与の減給を伴う降格人事や、懲戒処分としての降格は就業規則に根拠となる規定が必要です。降格を行う前に、まずは規定が整備されているか確認しましょう。
もし、降格人事や懲戒処分に関する規定が不十分であれば、根拠としてなり立たない可能性があります。また、処分を決定するに至った事実関係についても曖昧なままであれば、根拠としては不適格でしょう。
特に懲戒処分は従業員の不利益が大きいため、根拠の必要性は人事権に比べて厳しく判断されると考えられます。
降格の根拠が不当である
懲戒処分、人事権いずれであっても降格の根拠が不当である場合には、違法と判断され無効になります。降格処分の根拠が不当となるケースには以下のようなものがあります。
- 退職させることを目的とした降格
- 有給休暇の取得等、従業員の正当な権利行使に対する降格
- 妊娠・出産・育児休暇の取得をきっかけとした降格
- 就業規則の規定に沿わない降格
上記は例示ですので、これ以外の事由であっても根拠に正当性のない降格処分は違法と判断され得ます。降格処分の判断材料となるか不安があれば弁護士へ相談してから処分を検討しましょう。
職位や賃金が極端に下がる
職位が2段階以上下がるような大幅な降格の場合には、給与の減額幅も大きくなることが想定されます。このような極端な降格は、会社に多大な損害を与えるなど極端な事例でなければ、適正とみなされることは難しいと考えられます。
また、減額する給与内容によっても判断が異なります。役職手当の減額は、その役職から退くことによるものですので、認められる判例が多くなっています。しかし、基本給の減額には人事評価の基準が合理的であることや、就業規則に定めがあることなど高度な合理性が求められます。
役職手当に比べると、基本給の減額は違法と判断される可能性は高くなっています。
管理職の降格人事が認められるケース
降格人事は、会社にある程度裁量が認められ、適切な範囲内であれば降格処分も問題ありません。ただし、単に気に入らないという理由で降格を行うことは認められず、正当な理由や適切なプロセスが必要です。以下で降格人事が認められるケースを見ていきます。
管理職の能力不足
管理職は部下を指揮・監督し、マネジメントする能力が求められます。
管轄部署の売上げの低下やトラブルの増加など、部下への指導が不適切であり、管理職としての役割を果たしていないと判断された場合は、人事権行使として降格の対象になると考えられます。
ただし、能力不足を理由に降格するには、事前の指導が必要です。例えば、降格させる前に管理職としての能力不足を補う研修を行うなど、改善の機会を与えることが求められます。
勤務態度が悪い
管理職は管理部署の規範となり部下をまとめて、必要な場合は注意指導して改善を求める役目を担います。勤務態度が悪く、職場の秩序を乱すような場合は、周りの社員に面目が立ちません。この場合は、降格人事の対象になると考えられます。職務怠慢の例として、以下が挙げられます。
- 会社から与えられた仕事をしない
- 度重なる遅刻や早退、無断欠勤
- 勤務時間中の私用が多い
- 頻繁に職場を離れる
遅刻や無断欠勤などは、何回行えば降格になるという基準を設けることは困難です。まずは管理職に繰り返し注意指導を行い、それでも改善されない場合に降格を実行すべきでしょう。
社内規則違反
会社が定める社内規則違反や法律違反が判明した場合は、懲戒権を行使して降格人事を行うことが可能です。
例えば、ハラスメント行為や会社の機密情報の漏えい、取引先との金銭的不正、違法な残業命令、横領などの犯罪行為が挙げられます。
特に管理職に多いのが、部下へのパワハラが理由となるケースです。パワハラは労働基準法や男女雇用機会均等法によって禁止されています。社員から告発があった場合は、パワハラの証拠を用意することで、懲戒処分を科すこともできます。ただし、最近では少し注意されただけでパワハラされたと騒ぐなど、部下からの逆パワハラも増えています。適切な指導の範囲であったか否か慎重に判断することが必要です。
減給が発生しない
降格人事は、必ずしもペナルティ目的で実施されるものではありません。例えば、人員の適性配置のために部署異動させる場合は、トラブル防止のため、役職を下げて配置するケースもあります。
このような場合は、給料の減額を伴わないケースが多いです。給料が減らず役職のみを外される場合は、社員に経済的なデメリットがないため、比較的自由に降格人事を行うことができると考えられます。
他方、減給が高額となればなるほど、降格が人事権の濫用に当たると判断されやすくなります。降格処分の無効を防止するため、減給の有無については慎重に判断することが必要です。
管理職の降格処分を適正に進める4つのポイント
降格処分を適正に進めるには、以下のポイントに注意しましょう。
- 明確な根拠を示す
- 降格処分の前に注意指導を行う
- 弁明や改善の機会を与える
- 減給を伴う降格は慎重に判断する
明確な根拠を示す
降格処分が認められるには、明確な根拠を示すことが必要です。まずは就業規則に人事権としての降格、懲戒処分としての降格が明記されているか確認しましょう。
給与の減額を行うのであれば、その点についても点検が必要です。もし、規定がなければ、就業規則の整備に取り掛かりましょう。
また、規定されているだけでは足らず、就業規則が従業員へ周知されていなければ、効力をもちません。就業規則の運用状況についても確認が必要です。
降格処分を決定するに至った事実関係についての証拠も集めておきましょう。始末書や指導票などの書面も捨てず保管しておくことが重要です。
降格処分の前に注意指導を行う
懲戒事由に該当する行為や、管理職として不適格な行動があったとしても、いきなり降格処分を行うと違法とみなされる可能性があります。
悪質性の高いトラブル等でなければ、まずは、注意指導を行い、改善の機会を与えるようにしましょう。改善が無い場合に、段階的に処分を重くしていくなども検討するとよいでしょう。
弁明や改善の機会を与える
様々な証拠等を踏まえて降格処分を行うとしても、一方的に決定することは避けるべきです。従業員に弁明の機会を与え、従業員側の事情を把握したうえで処分内容を決定しましょう。
また、従業員に改善の機会を与え、反省や改善の意欲があるならば、必要に応じて降格処分を再検討することも大切です。
弁明の機会を与えない場合、降格のような重い懲戒処分では違法と判断されるケースも多くなっています。特に就業規則に、弁明の機会の付与が手続きとして規定されている場合には、必ず行うようにしましょう。
減給を伴う降格は慎重に判断する
減給を伴う降格は、従業員にとって不利益変更にもあたるため、単なる職位の引き下げよりも厳しく判断されます。特に基本給を減額する場合には、以下のような要件を満たしているか確認をしましょう。
- 就業規則に基本給を減額する根拠規定がある
- 基本給減額の決定に合理性があり、かつ手続きが適正に行われている
- 人事評価が公正で、不合理でない
これらの要件に不備があれば、違法と判断されるリスクがあります。減給を伴う降格の判断については、弁護士へ相談することをおすすめします。
管理職の降格を実施する際の手順
降格処分は、制度に関する規定が備わっており、降格が合理的であると客観的に判断できることが必要です。降格を実施するには以下のような手順が求められます。
- 事実関係の調査や把握
- 注意・指導
- 就業規則の確認・処分の検討
- 処分対象者へ周知
①事実関係の調査や把握
降格処分の根拠となる事実を明確にするため、証拠収集を行いましょう。事実関係を正確に把握し、降格となる理由を時系列順に説明できるようにしておくと良いでしょう。
調査を行うことで、根拠となる事実が明確になれば、紛争化した際に役立つだけでなく、処分決定に対する社内の従業員の納得性も高まります。
②注意・指導
処分の対象となる問題があったとしても、いきなり降格処分を行うと、会社の指導義務を果たしていないとみなされ、違法となる可能性が高まります。
管理職であっても、まずは注意指導を行い、改善を促しましょう。管理職へ会社が問題視している点を伝え、業務日報や指導票を活用することによって改善の機会を設けます。
管理職の様子を一定期間、観察し改善傾向を確認しましょう。注意・指導を繰り返しても反省や改善が見られないようであれば、処分の実施もやむを得ないといえるでしょう。
③就業規則の確認・処分の検討
降格処分を実行する前に、就業規則の内容を確認しましょう。人事権による降格であっても就業規則に規定されていなければ基本給を減額するような処分はできません。
また、懲戒処分による降格も規定が必要です。いずれの降格も規定があるのであれば、問題点の重大性を踏まえて選択してもよいでしょう。
懲戒処分は裁判で厳しい判断となる傾向があり、管理職本人に与える影響も大きいため、人事権による降格を選択することが多くなっています。
④処分対象者へ通知
対象管理職へ処分内容を通知し、弁明の機会を与えます。一方的に処分を決定するのではなく、管理職の言い分にも耳を傾けましょう。
会社の調査で把握しきれなかった新たな事実が判明する可能性もあります。弁明の内容を踏まえて処分を再検討することは、行き過ぎた処分を防ぐことにも繋がるので、会社にとっても有益といえます。
弁明内容を確認した上で、特に変更の必要が無ければ、処分を実施しましょう。
管理職の降格でトラブルを防ぐためにも労働問題に強い弁護士法人ALGにご相談ください。
人事権や懲戒処分は会社の秩序を守るために必要な手続きですが、これらを適正に行うことは決して簡単ではありません。法的判断も伴うため、対処に慣れていない企業で対応するのは難しいといえます。対応が不適切であれば、紛争化するリスクも高くなってしまいます。
もし、管理職の降格を検討せざるを得ないのであれば、処分を決定する前にまずは専門家である弁護士へご相談ください。弁護士であれば、社内の制度整備状況の確認、処分の妥当性、処分後のリスクなど幅広いアドバイスが可能です。
弁護士法人ALGでは労働問題に精通した弁護士が多数在籍しております。全国対応も可能となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
企業の様々な労務問題は 弁護士へお任せください
会社・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受付けておりません
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
受付時間:平日 09:00~19:00 / 土日祝 09:00~18:00
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。