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未払い残業代を請求されたらどうする?会社側がすべき5つの反論ポイント

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

社員からの未払い残業代請求は、何の前触れもなくある日突然くるものです。

残業代請求の対応には気が進まないかもしれませんが、会社が放置してしまうと、裁判などに発展して多額の金銭の支払いが命じられるリスクがあるため注意が必要です。
また、もめたくないからと、とりあえず請求額をすべて支払うという対応も望ましくはありません。

このページでは、社員から未払い残業代請求された場合にどのように対処すべきか、会社側が検討すべき5つの反論、やってはいけない対応などについて解説していきます。

未払い残業代とは?

未払い残業代とは、会社が労基法上支払義務があるにもかかわらず、支払っていない残業代をいいます。
労基法37条では、会社が社員に対し1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超える時間外労働や、深夜労働(22時~5時)、休日労働をさせた場合は、割増賃金を支払うことを義務付けています。

これらの割増賃金が未払いになっているか、支払われていても不当に低い場合の賃金債権を未払い残業代と呼びます。

未払い残業代を放置すると、労働基準監督署による立入り調査が入ったり、社員から労働審判や裁判を起こされるリスクがあるため注意が必要です。

従業員から未払い残業代を請求された場合の対応

社員から残業代を請求された場合は、会社として放置することなく、まずは未払い残業代を計算し直した上で、和解と反論のどちらで対応するかを検討することが必要です。
以下で具体的な対応について見ていきましょう。

未払い残業代を計算する

未払い残業代があるか否かは、残業代を計算し直してみればわかります。
請求額が適切かどうかを判断するためにも、タイムカードや勤怠記録等を確認し、実際に支払い義務のある残業代がいくらあるかを計算することが必要です。

ただし、残業代の計算は労基法のルールに従う必要があり複雑で、そもそも残業代請求の権利があったのかという問題も生じる場合があります。社員が主張する残業時間が使用者の指揮命令下に置かれた労働時間であったのか、固定残業代として支払い済みであるのか、残業代の支払い対象とならない管理監督者であるのかといった問題です。

これらを適切に判断し、法律に従った正確な残業代を計算するには、労働法の専門家である弁護士に依頼することがおすすめです。

和解と反論のどちらで対応するかを検討する

未払い残業代の再計算が終わったら、会社として和解と反論どちらで対応するかを検討する必要があります。
社員の未払い残業代請求について会社として反論の余地がある場合は、労働審判や裁判を起こして徹底的に争うべきでしょう。

他方、社員の請求が法的に正しく、裁判を起こしても社員の請求が認められる可能性が高いような場合は、請求額をそのまま支払うか、お互いが合意して決めた一定の和解金を支払って和解するのが望ましいです。

裁判は労力や時間がかかりますが、和解に安易に応じると社内に情報が漏れて、他の社員からのさらなる残業代請求を招くリスクがあります。両方のメリット・デメリットを考慮し、慎重に判断することが必要です。

他の社員への波及防止に努める

未払い残業代の請求を受けたことが社内に広まると、他の社員からも未払い残業代を請求されるリスクがあります。

残業代を請求された場合には、単純に残業代を支払って終わりというわけではなく、これまでの労務管理に問題がなかったかどうか見直すことが必要です。

今後の残業代請求リスクを減らすために、賃金・労働時間管理制度を見直し、残業代の未払いを予防する必要があります。例えば、賃金規程や就業規則の見直し、給与体系や給与の計算方法の見直し、労働時間管理の強化、定額残業制や残業の申請制の導入、管理監督者に当たるものの明確化といった対策が有効です。

未払い残業代を請求された際に会社側がすべき5つの反論ポイント

未払残業代を請求された際は真摯に対応し、請求内容が法的に正しい場合はすぐに支払うべきです。ただし、仮に不当・過大な請求であれば会社としても反論する必要があります。
会社が検討すべき反論として、以下が挙げられます。

  • 残業代請求権の時効を過ぎている
  • 従業員が主張している労働時間に誤りがある
  • そもそも残業を禁止していた
  • 残業代が発生しないはずの管理監督者である
  • 固定残業代(みなし残業代)として支払い済みである

順を追って見ていきましょう。

【反論①】残業代請求権の時効を過ぎている

残業代については、給与支払日の翌日からカウントして3年で消滅時効が完成します(2020年3月31日以前に発生した残業代は2年で消滅時効が完成)。

もし請求されている未払残業代のうち全部または一部につき時効が成立しているならば、「残業代請求権の時効を過ぎている」と反論することが可能です。

もっとも、時効が過ぎているだけでは支払い義務は免除されません。残業代の支払い義務を消滅させるためには、会社として時効の利益を受けることを相手に通知する必要があります。これを「時効の援用」といいます。社員に対して「消滅時効を援用する」旨を記入した通知書を送ることが一般的です。

【反論②】従業員が主張している労働時間に誤りがある

2つ目の反論として、「従業員が主張している労働時間に誤りがある」というものが挙げられます。

残業代の支払い対象となる時間は、使用者の指揮命令下に置かれた労働時間であるため、社員の自由な行動が保障されていた時間は労働時間にあたりません。

そのため、例えばタイムカードの打刻時間中に仕事とは関係のない作業をしていたり、通勤ラッシュを避けるために早めに出勤したり、喫煙休憩をとっていたりした場合は、使用者の指揮命令下に置かれた労働時間ではないため、その時間分の残業代は認めないという反論が可能です。

ただし、待機時間や仮眠時間など業務の必要があればすぐに業務に従事するべき状況下の時間は休憩ではなく労働時間にあたるため注意が必要です。

【反論③】そもそも残業を禁止していた

会社は残業を禁止する命令を出していたのに、社員が勝手に残業したならば、使用者の指揮命令下に置かれた労働時間ではないため、残業代請求は認められないと反論できる余地があります。

ただし、残業禁止の命令は軽く口頭で指示しただけでは足りません。以下のように明確に残業を禁止し、残業を回避するための対策を講じていたことが求められます。

  • 文書やメールで残業禁止を明確に指示していた
  • 残業を行う社員に対して注意指導していた
  • 業務の分配など残業削減対策をとっていた
  • 終業時間後に残務がある場合の対応も指示していた(管理職への引き継ぎなど)

また、残業を禁止しながら事実上残業が暗黙のうちに認められていたり、仕事の状況からして残業が不可避であったりする場合は、残業代が生じるとして反論できない場合があるためご注意ください。

【反論④】残業代が発生しないはずの管理監督者である

労基法41条は「監督もしくは管理の地位にある者」、つまり管理監督者には割増賃金を支払う必要はないと定めています。そのため、請求する社員が管理監督者にあたる場合は、未払い残業代を支払う義務はないと反論することが可能です。

ただし、管理監督者に該当するには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 経営者と一体といえるほどの人事労務権限を有していること
  • 労働時間の規制になじまない勤務態様であること
  • 賃金等の労働条件が一般社員よりも優遇されていること

課長や部長などの役職名ではなく、勤務実態から判断されます。管理監督者としての実質を備えていない場合は、未払い残業代を支払わなければなりません。

また、管理監督者であっても深夜労働をさせた場合は、深夜割増賃金を支払う必要があるためご注意ください。

管理職から未払い残業代を請求された場合の支払い義務について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

さらに詳しく管理職から未払い残業代を請求されたら支払い義務はある?

【反論⑤】固定残業代(みなし残業代)として支払い済みである

固定残業代(みなし残業代)とは、あらかじめ一定時間の残業をしたとみなして、毎月定額で支払う残業代のことです。固定残業制を導入している会社でこれを適切に運用している場合は、「固定残業代として支払われた部分は支払い済みである」と反論することが可能です。

ただし、前提として固定残業制が法律上有効であることが求められ、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 固定残業制の導入について労使の合意があること
  • 基本給等と固定残業代を明確に区分して記載すること
  • 固定残業代が時間外労働の対価として支払われていること
  • 固定残業代を超える時間外労働が発生した場合は別途残業代を支払うこと

裁判等で固定残業制が無効と判断されると、基本給に固定残業代が含まれ、残業代は1円も支払っていないとされかねないため、有効性について確認しておくことが重要です。

未払い残業代請求に関する判例

会社側の反論が認められた裁判例

【平29(受)842号 最高裁判所第一小法廷 平成30年7月19日判決】

(事件の内容)

本件は、薬局Yの従業員Xが、固定残業代として支払われている手当(月10万弱)は、固定残業制の要件を満たさず無効とし、未払い残業代の支払いを求めてYを訴えた事案です。YがXに交付した毎月の給与明細書には、時間外労働時間や時給単価が未記載でした。

(裁判所の判断)

裁判所は以下を理由に、Yが支払っていた業務手当は時間外労働に対する賃金の支払いにあたるとして、未払い残業代請求は認められないと判断しました。

  • ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、①雇用契約書の記載内容、②会社の社員に対するその手当や割増賃金に関する説明の内容、③社員の実際の労働時間等の勤務状況などを考慮して判断すべきである。
  • 本件の雇用契約書や賃金規程、採用条件確認書において、業務手当が時間外労働の対価として支払われることが明記され、他の社員との間で作成された確認書にも同様の記載があった。
  • 社員Xに支払われていた業務手当は、1ヶ月の平均労働時間(157.3時間)をベースに計算すると約28時間分に相当し、実際の時間外労働の時間と大きくかけ離れてはいない。

(判例のポイント)

給与明細に時間外労働の時間数が書かれていないなどの事情がありながらも、固定残業代の有効性が認められて会社側が勝訴した判例です。

もっとも、残業管理を手抜きしていいというわけではなく、裁判所が固定残業代の有効性の判断において、社員への説明内容や実際の勤務状況を重視している点に注意する必要があります。

固定残業代を採用する会社は、雇用契約書や賃金規程に定額の手当が固定残業代として支払われることや、具体的にいくらが固定残業代部分にあたるのか等を明記し、雇用時に社員に説明し理解を得ておくことが必要です。また、固定残業代を支払っているという主張が妥当とはいえないほど実際の残業時間が過大である場合は、固定残業代の支払いが無効とされる可能性があるためご注意ください。

会社側の反論が否定された裁判例

【令2(ワ)1916号 京都地方裁判所 令和4年5月11日判決】

(事件の内容)

本件は、Y法人が運営する保育園の管理職として働いていた社員Xが、退職後に未払い残業代などの支払いを求めてYを提訴した事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は主に以下を理由に、社員からの未払い残業代請求を認めました。

  • 一人担任の保育士は休憩時間でも仕事場を離れられず、連絡帳の記載など必要な業務を行うだけでなく、食事指導として園児と共に食事していたこと、Xがこれらの保育士の担当業務を肩代わりしていたことから、Xの休憩時間は労働時間であったと判断される。
  • シフト表の週平均労働時間が常時40時間を超えるため、1ヶ月単位の変形労働時間制は無効である。
  • Xは職員の採用に関わったことがなく、残業前提のシフトに拘束されて勤務し、月給も40万円程であるため、経営者との一体性や労働時間の裁量、相応しい待遇は認められず、管理監督者には当たらない。
  • 年俸規程では、基本給の全額が時間外・深夜割増手当の算定のベースとなるとされているため、基本給の中に1ヶ月あたり15時間分の時間外手当が含まれているかのような雇用契約書の記載は無効である。

(裁判例のポイント)

会社側は、残業時間が過大に計上されていることや、変形労働時間制を採用していること、管理監督者に該当すること、固定残業代の合意があったことなどを主張して争いましたが、裁判所はこれらをすべて否定し、社員側の請求を大筋で認めました。

会社の労務管理体制に不備があると、突然多額の未払い残業代請求を受けるおそれがあります。未払い残業代請求を防ぐには、事前の予防策がとても重要です。

例えば、就業規則や賃金規程の見直し、残業削減対策、勤怠管理システムを利用した労働時間の客観的な管理、管理監督者となっている社員の勤務態様の把握・労働条件の見直しといった対策が求められるでしょう。

未払い残業代の請求の対応を弁護士に依頼するメリット

会社自身で未払い残業代請求に対応することももちろん可能ですが、会社の利益という観点で考えると弁護士に依頼するのが有用です。メリットとして、以下が挙げられます。

  • 残業代請求に応じるべきか判断してもらえる

    残業代請求に応じるかどうかについては、労働時間や管理監督者の該当性、固定残業制の有効性など高度な法的判断が求められます。弁護士であれば労働法や裁判例、実務上の知識などをもとに適切に判断することが可能です。

  • 正確な残業代を計算してくれる

    残業代の計算は労基法のルールに従い行う必要があるため、大変複雑です。弁護士であればこれらを代行して行い、正しい残業代を計算することが可能です。

  • 裁判に発展した場合も対応してくれる

    弁護士は裁判のプロであるため、未払い残業代請求における裁判所の事実認定の方法を熟知しています。そのため、労働審判や裁判へと進んだ場合もスムーズに対応可能です。

未払い残業代を請求されたときにやってはいけないこと

社員から未払い残業代を請求されたときに、会社として絶対にやってはいけないことがあります。
以下で詳しく見ていきましょう。

従業員からの残業代請求を無視する

残業代請求を無視すると、社員の怒りを招いて、労働基準監督署に通報されたり、労働審判や裁判を起こされたりするおそれがあります。

また、労働審判や裁判になると、未払い残業代だけでなく遅延損害金を請求される場合があります。

請求する社員が在職中である場合は年6%、すでに退職している場合は年14.6%もの遅延損害金が発生します。裁判等が長期化すればその分遅延損害金も膨れ上がります。

さらに、裁判で会社の行為が悪質であると判断された場合は、ペナルティとして未払い残業代の額と同額までの範囲で付加金の支払いを命じられることがあります。

残業代請求を無視すると、結果として会社側がしっぺ返しをくらうことになるため、真摯に対応することが必要です。

従業員から請求された金額を全て支払う

社員側の請求する金額を全面的に認めるのが適切であるとは限りません。

社員の計算方法や請求額が間違っていたり、そもそも請求自体が認められないケースもあるからです。会社として正確な未払い残業代の金額を確認したうえで支払うことが必要です。

未払い残業代を従業員から請求された場合はなるべく早く弁護士にご相談ください。

未払い残業代を請求された場合に、会社内部で対応し解決を目指すことはもちろん可能です。
しかし、会社だけの判断で対応することは得策ではありません。

会社が社員と直接交渉すると、お互い感情的になってしまい、関係性にさらなる亀裂が入るリスクがあります。また、残業代請求が適正なものであるのか、会社として法的に反論できる余地はないか、和解の落としどころをどこにするかといった点を判断するには、法的知識や実務上の経験が必要不可欠です。

この点、労働法のプロである弁護士であればこれらをすべてカバーし、残業代請求に適切に対応することが可能です。

未払い残業代を社員から請求された場合は、なるべく早く労働法務に精通する弁護士に相談することをおすすめします。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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