ハラスメント
#ハラスメント
#パワハラ
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
パワーハラスメント(以下、パワハラ)が法制化され、社会のハラスメント防止に対する意識はより高まったといえます。
認知度が向上したことによって、パワハラが発生した場合には、企業イメージや採用へ大きな影響を及ぼします。
パワハラ対策は企業にとって喫緊の課題の1つといえるでしょう。
では、パワハラが発生した場合、会社はどのような責任を負うことになるでしょうか。また、どのように対処すべきでしょうか。
本稿では、パワハラ問題が起きた場合の会社の法的責任や対処法について解説していきます。
目次
職場でパワハラが発生したときの会社の責任は?
2019年の労働施策総合推進法改正により、会社にはパワハラ防止の措置義務が課されました。
これらの義務を怠り、職場でパワハラ問題が起こってしまった場合、会社は以下のような民法上の責任を問われる可能性があります。
- 使用者責任
- 債務不履行責任
- 不法行為責任
- 労災補償責任
各項目について、以降で解説していきます。
使用者責任
使用者責任とは、従業員が業務の執行に関連して第三者に損害を与えた場合、その従業員の行為に対して、会社が一定の責任を負うことを指します。
これは会社が従業員と雇用関係にあり、指揮監督する立場であるため生じる責任です。
使用者責任が問われるケースとしては、上司によるパワハラが原因で従業員が精神疾患を発症したり、自殺してしまったなどがあります。
ただし、会社が十分な注意を払っていても事故が発生し、その損害を防ぐことができなかったであろうことを証明できた場合には、使用者責任を免れるとされています。
従業員が会社に関係なくプライベートで行った行為などについては使用者責任を問われる可能性は低いと考えられます。
債務不履行責任
会社は従業員に対して、安全で働きやすい職場環境を提供する義務(安全配慮義務)を負っています。
会社がこの義務を怠った結果、パワハラが発生し、従業員が精神的もしくは身体的な被害を受けた場合には、会社は安全配慮義務違反となり、債務不履行責任を問われることになります。
債務不履行責任が問われるケースとしては、パワハラ行為の相談があったにもかかわらず、調査や処分をせずに放置した場合や、行為者への注意・指導が不十分だったなどのケースがあります。
不法行為責任
不法行為とは、他人の権利や利益を侵害する行為です。
パワハラは、被害者の尊厳や人格を侵害する行為であり、不法行為に該当します。問題となった行為がパワハラと認定され、かつ損害が生じているのであれば、加害者や会社は、不法行為による損害賠償責任を負うことになります。
例えば、社内でパワハラが起こっているにもかかわらず、会社が是正せず、放置した場合には、パワハラを助長し、被害者保護の義務を怠ったとして不法行為責任に問われる可能性があります。
労災補償責任
労災とは、業務に起因して、従業員が負傷したり病気を発症するなど、労働に関連した災害の総称です。
労災が発生した場合、たとえ過失がなくても会社は労災補償責任を負うことが労働基準法や労災補償保険法で定められています。
業務上行われたパワハラ行為によって、被害者が身体的な傷害を負った、もしくは精神的な疾患を発症したなどがあれば、労災として認められる可能性があります。
労災として認定されれば、パワハラ行為に関して会社は労災補償責任を負うことになります。
パワハラが会社に及ぼす影響やリスクとは?
パワハラが会社に及ぼす影響は、社内だけに留まりません。もしパワハラ体質の会社であるなどの噂が社外に広まれば、会社は大きなリスクを抱えることになります。
パワハラ発生による主なリスクや影響は以下のような事象が考えられます。
- 就業環境の悪化による人材の流出
- 信頼関係の瓦解などによる生産性の低下
- パワハラが外部に漏れることによる社会的信用の失墜など、企業イメージの低下
- 損害賠償請求などの法的リスク
これらのリスクは単一ではなく、複合的に引き起こされる可能性があります。
人材の流出や企業イメージの低下によって採用難となれば、人手不足への拍車も懸念されます。そうなれば、ますます生産性が低下し、残業が増えるなど、いわゆるブラック化といった負のループを引き起こすおそれもあります。
パワハラは、会社にとって大きなリスクをもたらす重大な課題です。パワハラを防止し、発生時には迅速に対処することが、会社の継続的な成長に必要となるでしょう。
詳しくは以下のページをご覧ください。
さらに詳しくハラスメントが発生した際に会社へ与えるリスクパワハラで会社の責任が問われた場合の対処法
パワハラが発生した場合、会社は被害者となった従業員から労働審判や裁判などで法的責任を問われる可能性があります。
その場合には、事実関係の迅速な把握や、被害者側の意向確認など適切な対応が必要となります。
特に労働審判では短期解決を目的としているため、よりスピーディーな対処が求められるでしょう。
また、パワハラで問われる責任は被害者からの法的責任だけではありません。労働基準監督署から是正勧告や指導を受ける可能性も考えられます。
これらの対処には専門知識を踏まえた適切な対応が不可欠です。もし、対応に不備があれば問題が増悪するおそれもあります。
パワハラで会社の責任が問われた場合には、早期に弁護士へ相談し、法的アドバイスを受けることをおすすめします。
会社が講ずべきパワハラ防止措置について
2019年に改定施行された労働施策総合推進法改正により、パワハラを防止する措置が義務化され、会社が講ずべき措置についても明確化されました。
義務化された防止措置は以下の通りです。
- 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
- 相談者等のプライバシー保護に必要な措置と周知
- 相談したことなどを理由とした不利益取扱いの禁止とその周知
そのほか、パワハラ防止のためには、以下の対応が望ましい取組として掲げられています。
- 複数のハラスメントの複合的発生に対し、一元的に相談可能な体制整備
- パワハラの原因となる要因解消に向けた取組
- パワハラ禁止方針の対象者に、他社の従業員や就活生・フリーランス等を含める
- カスハラへの取組
特に、カスハラについては近年注目が高まっており、早期の対応が望まれる風潮にあります。専門家を交えて検討すべき課題といえるでしょう。
詳しくは以下のページをご覧ください。
さらに詳しくハラスメントの8つの防止策パワハラで会社の責任が問われた裁判例
パワハラの発生で会社の責任が問われるのは正社員に関してだけではありません。
アルバイト店員であっても、保護すべき労働者である以上、パワハラの被害者とならないよう会社には措置義務が適用されます。
社員からアルバイトへのパワハラが認定され、使用者責任が問われた事件を紹介します。
(令和2年(ワ)第9755号・令和3年6月30日・東京地方裁判所・第一審)
アパレル店を経営するA社の店舗に勤務するアルバイト店員Xは、同店舗の準社員2名から継続的な嫌がらせを受けていました。
Xは、準社員らの行為はパワハラであるとし、A社に対しても使用者責任または職場環境配慮義務違反であるとして損害賠償請求を行いました。
裁判所は、準社員らの行為はXの拒絶反応を面白がるなどの目的で行われた人格権侵害であり、パワハラであると認定しました。
また、準社員らの嫌がらせは業務の執行につき行われた行為であり、A社も使用者責任を負うとして、Xに連帯して慰謝料の支払いを命じました。社員とアルバイト店員では、ときに待遇差が人間関係の優位差に繋がることもあります。
社員はアルバイト店員を教育するなどの立場ではありますが、その行為がパワハラに繋がらないよう会社には十分な社員教育が求められます。
パワハラと会社の責任に関するQ&A
パワハラと会社の責任に関する相談に多いトピックスを以下にまとめています。ぜひ、ご参考下さい。
取締役や社長がパワハラをした場合、会社は責任を負いますか?
パワハラの行為者が取締役や社長であっても、パワハラが「その職務を行うについて」行われた場合には、会社はパワハラ行為について責任を負うことになります。
一従業員が行為者である場合とは異なり、取締役等は会社を代表して業務を行う立場にあります。
彼らの行為は会社に帰属することになり、会社は行為者と連帯して被害者に対する責任を負います。
通常、行為者が従業員であった場合には懲戒処分などを行いますが、行為者が取締役などの場合は、役員の解任等の検討を行うことになります。
パワハラの不法行為責任に時効はありますか?
不法行為責任を基に損害賠償請求をする場合、民法で時効が定められています。
不法行為責任に関しては、①損害及び加害者を知った時から3年、もしくは②不法行為の時から20年が原則となっています。
ただし、パワハラのように、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求では特則が適用されるケースが多いでしょう。
被害者にケガや精神疾患の発症があるなど、特則が適用される場合には、①損害及び加害者を知ってから5年、もしくは②不法行為の時から20年が時効となります。
会社がパワハラを見過ごしていた場合、法的責任を問われますか?
会社がパワハラを見過ごした場合、法的責任を問われる可能性は十分にあります。
会社には、従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する安全配慮義務があり、この義務に違反していると判断されるおそれがあります。また、従業員が業務に関連してパワハラを行っているのであれば使用者責任も問われるでしょう。
黙認する行為がパワハラの助長となっていれば、会社自体の不法行為責任を問われることもあり得ます。
パワハラで会社の責任が問われたらお早めに弁護士にご相談ください。
パワハラが引き起こす負の影響は多岐に渡ります。
パワハラの防止措置の体制を構築することはもちろんですが、パワハラが発生した場合の対処も非常に重要です。
パワハラが発生したら、十分な調査、行為者の処分、再発防止策の考案など様々な対処が必要となります。それらを講じたとしても、パワハラによる法的責任の可能性をゼロとすることは難しいかもしれません。
もし、法的責任を問われた場合には、対応を誤ると多大な損害を被るリスクもあります。
会社の責任を問われた場合には、早急に弁護士へ相談することを強くおすすめします。
弁護士法人ALGでは、数多くのパワハラ事案に対処してきた豊富な実績があります。様々な業種の企業に対し、ハラスメント研修を実施するなど、予防法務からトラブル対応まで行っております。
パワハラで会社の責任が問われたら、まずはお気軽にご相談下さい。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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