労災
#期間
#調査
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労災事故が発生すると、労働基準監督署による詳細な調査が行われる可能性があります。労災調査は、労災認定の可否を判断し、労働災害の再発を防止するための重要な手続きです。
会社の対応次第で調査の進行や認定に大きな影響を及ぼす可能性もあるため、調査が行われた場合には適切に対応しなければなりません。もし、誤った対応があれば「隠ぺい」や「虚偽」と疑われるリスクもあります。
本稿では、労災調査の流れや必要となる資料、会社が注意すべきポイント、社内体制の整備といった実務的な対応策まで分かりやすく解説します。
目次
労災の調査とは?
労災の調査とは、従業員が労災保険の給付を申請した際に、労働基準監督署が事実関係を確認するために行う手続きです。
調査の目的は、事故や疾病が業務に起因するかどうかを判断して適切に労災認定を行うこと、また、労災事故の再発防止につなげることにあります。
具体的には、会社に対して就業規則や出勤簿、安全衛生体制に関する書類などの提出を求めるほか、労働者本人や同僚、上司など関係者への聞き取り調査が実施されます。これらの調査結果を総合的に検討し、労基署長が労災認定の可否を決定します。
労災の聞き取り調査で聞かれる内容
労災の聞き取り調査では、事故の内容や背景を確認するために幅広い質問が行われます。
具体的には、事故が発生した日時や場所、当時の作業内容、事故に至った原因や経緯が中心となります。さらに、その原因が業務とどのように関連しているか、業務上の指示や作業環境との関係についても詳しく確認されます。また、会社から提出された書類に不明確な点がある場合には、その補足説明を求められることもあります。
調査内容はケースごとに異なりますが、いずれも事実関係を正確に把握し、労災認定の判断材料とするために行われます。
労災の調査の流れ
労働基準監督署が行う労災調査の流れは通常、以下の順に行われます。
- 労基署から資料提出要請の文書が届く
- 関係資料を集めて提出する
- 使用者報告書を提出する
- 聞き取り調査の実施
- 調査結果復命書が作成される
- 労災認定の判断
①労基署から資料提出要請の文書が届く
| 具体例 | |
|---|---|
| 会社の基礎情報に関する資料 |
|
| 事故当時の従業員の勤務状況がわかるような資料 |
|
| その他労災認定に参考となりそうな資料 |
|
従業員から労災申請が行われ、労働基準監督署で受理されると、おおむね3週間ほどで会社宛に資料提出を求める案内文書が届きます。ここでは、事故の状況や労働条件を確認するために必要な書類の提出が求められます。
内容はケースごとに異なりますが、出勤簿や就業規則、賃金台帳、雇用契約書などが典型例といえるでしょう。あわせて「使用者報告書」の提出も依頼されますので、こちらも期限内に対応することが大切です。
②関係資料を集めて提出する
労基署から資料提出を求められた場合は、必ず提出期限内に対応しなければなりません。提出の遅延は調査の長期化や不信感につながりますので、やむを得ない事情がある場合は、速やかに労基署へ連絡し相談しましょう。
提出を求められる資料は事案によって異なりますが、一般的には勤務時間の記録、賃金台帳、健康診断結果などが対象となります。特にこれらは過去3年半程度の期間をまとめて提出するよう指示されることが多くなっています。
もし、勤務時間内に対象従業員が業務外の対応を行っていたなど、労災認定に影響する事実があれば、その点も合わせて報告するようにしましょう。
③使用者報告書を提出する
労基署からの要請に基づき、会社は「使用者報告書」を提出する必要があります。この書類は、労災発生の背景を確認するための重要な資料となりますので、正確に記述しましょう。
使用者報告書には、以下のような事項を記載します。
- 事業の概要(業種、規模、従業員数など)
- 労災申請者の勤務形態(正社員・契約社員・派遣など)や労働条件(労働時間、休日、賃金体系など)
- 労災申請者の勤務評価
- 事故発生時の作業内容や指揮命令系統
- 労災申請者の健康状態や他者からの体調変化の気づき等
- 心理的負担となったと思われる業務内外の出来事
- 労災申請に対する会社としての意見
これらは他の提出資料と同様に、必ず期限内に提出しなければなりません。記載内容について不安や疑問があれば、事前に弁護士へ相談し、リーガルチェックを受けると安心でしょう。
④聞き取り調査の実施
提出資料等だけでは事実認定が難しい場合、関係資料や使用者報告書を提出してからおおむね2~3ヶ月後に、労働基準監督署による聞き取り調査が行われることがあります。
聞き取り調査では、労災申請をした従業員本人だけでなく、同僚や上司などの関係者からも事情を聴取し、提出資料の内容と照合しながら事実関係を確認します。聞き取り調査の目的は、事故が業務に起因するかどうかを客観的に判断するためであり、聞き取り内容は事案によって異なります。
虚偽や曖昧な回答は不信感を招き、かえって会社に不利な結果を招くおそれもあります。
⑤調査結果復命書が作成される
労基署による聞き取りや資料確認が終わると、調査官は「調査結果復命書」を作成します。
復命書とは、業務の結果報告書であり、労災調査においては、以下の調査内容を整理し、調査官が労働基準監督署長へ提出する行政文書になります。
- 請求書記載内容についての確認調査
- 実地調査
- 関係者の事情聴取
- 症状調査照会
⑥労災認定の判断
労災調査の最終段階では、労働基準監督署が収集した資料や聞き取り結果をもとに、事故や疾病が業務に起因するか否かを総合的に判断し、労災認定の可否を決定します。ただし、この認定結果は会社に直接通知されることはありません。
通知先は労災申請を行った従業員本人であり、会社側が結果を知るには、従業員から報告を受ける必要があります。認定の有無は会社の責任や対応方針にも影響するため、結果を把握しておくことは非常に重要です。また、認定結果を確認した後は、速やかに社内体制の見直しや再発防止策の検討に取り組むことが大切です。
労災の調査にかかる期間はどれぐらい?
労災調査にかかる期間は、事故か病気かによって大きく異なります。業務中の転倒や機械による怪我、または死亡事故などの場合は、業務との関連性が比較的明確といえます。そのため、必要資料の確認や関係者への聞き取りも限定的で済み、数ヶ月程度で調査が終了するケースが多いでしょう。
これに対し、過労死や脳・心臓疾患、うつ病などの精神疾患では、「業務と疾病の因果関係」が複雑となり、様々な調査を要します。具体的には、長期間の勤務記録や時間外労働の実態、医療記録、生活状況などが調査対象となります。そのため半年から1年以上かかることも珍しくありません。
労災の調査で嘘をついたらどうなる?
労災調査において、会社が調査に応じなかったり、虚偽の説明を行った場合は「労災隠し」とみなされ、労働安全衛生法違反として罰則の対象となりかねません。
軽微な嘘や説明の不十分さなどが直ちに刑事罰に直結するわけではありませんが、意図的に事実を隠したり、資料を改ざんするなど悪質な行為が認められれば、重い処分を受ける可能性があります。
労災調査で不誠実な対応を行えば、行政からの監督強化にも繋がり得ます。短期的な不利益を避けようとして虚偽等の対応をすることは、結果的に会社に大きなリスクをもたらすため、労災調査には誠実に対応しましょう。
労災認定された際の企業への影響
従業員から損害賠償請求される可能性がある
労災が認定された場合でも、労災保険で補償されるのは治療費や休業補償、逸失利益などに限られ、また、治療費以外は損害の全額は補償されないことから、損害のすべてをカバーすることはできません。
そのため、従業員は慰謝料のほか、休業損害や逸失利益などの保険で補償されない部分について、会社に対し、損害賠償請求を行う可能性があります。
特に、安全配慮義務違反が認められた場合には、会社が民事上の責任を負うことになります。ただし、従業員側にも過失があると判断された場合には、過失相殺により賠償額が減額されることもあります。
従業員への解雇が制限される
労災が認定された場合、従業員が治療のために休業している期間中はもちろん、休業が終了した後30日間についても法律で解雇が制限されています。これは労働基準法第19条に基づく規定であり、労災による休業中の労働者が不利益に扱われることを防ぐための仕組みです。
したがって、会社は対象従業員に私傷病休職制度を適用することはできず、通常の私傷病による欠勤とは区別して対応しなければなりません。もし、この期間に解雇を行ってしまうと、解雇は無効となり、会社は従業員から不当解雇による損害賠償請求を受ける可能性があります。
企業のイメージダウンにつながる
重大な労災事故が発生すると、新聞やテレビ、インターネットなどで報道されることも多くなっています。
もし、広く世間に労災事故の事実が広まれば、会社の社会的評価やブランドイメージに深刻な影響を及ぼす可能性もあるでしょう。特に死亡事故や大規模な災害は注目度が高く、会社の安全管理体制に対する信頼が大きく損なわれる結果となり得ます。
また、労災認定されると、「安全に働けない職場」という印象がつき、既存の従業員の離職や新たな人材の採用に支障をきたす可能性が考えられます。
労災の調査に対して会社がとるべき対応
労災の調査に対して、誠実に対応することはもちろんですが、その他に講じる手段としては以下のような対応が考えられます。
- 社内調査を徹底する
- 会社の意見を書面で伝える
- 弁護士に相談する
各対応内容について以降で解説していきます。
社内調査を徹底する
労災が発生した場合、労基署任せにするのではなく、まずは会社自身が事実関係を正確に把握することが重要です。
そのためには、事故当時の状況を知る従業員や上司など社内関係者へのヒアリングを行い、さらに出勤簿や作業手順書、安全教育記録といった関連資料を丁寧に確認する必要があります。
社内調査が不十分なまま労基署に報告すると、誤った情報を伝える可能性があり、結果として「隠ぺい」や「虚偽報告」を疑われるリスクが生じます。
会社の意見を書面で伝える
聞き取り調査前の使用者報告書で会社の基本的な見解は記載しますが、労基署による聞き取り調査が行われた後に、その内容を踏まえて会社として補足すべき点や誤解を正す必要が出てくることは十分考えられます。もし、追加で伝えておくべき内容があれば、必ず労基署に意見を伝えましょう。
この際、口頭で説明しても記録に残らない可能性が高いため、会社側の見解として書面で提出することが大切です。書面での提出は、後日の確認や証拠としても有効であり、調査官に対して誠実な姿勢を示す手段にもなります。
弁護士に相談する
労災調査は、会社にとって法的リスクを伴う重要な手続きです。そのため、労災調査は慎重に対応する必要があり、適切に判断しなければなりません。
事案によっては社内対応が難しいこともありますので、その場合は早めに弁護士へ相談しましょう。弁護士に相談することで、労基署への資料提出や聞き取り調査への対応を法的観点からサポートしてもらうことができます。
さらに、労災事故の内容によっては、労働安全衛生法違反として刑事事件化する可能性や、従業員や遺族から損害賠償請求を受けるリスクもあります。弁護士はこれらを見据え、事前に会社として取るべき対応や主張の整理を行い、将来的なトラブルを最小限に抑える戦略を立てることが可能です。
労災の調査はなるべく早く労働問題に詳しい弁護士法人ALGにご相談ください
労災調査は、会社にとって大きな負担であるだけでなく、対応を誤れば損害賠償や企業イメージの低下につながるため、慎重な対応が求められます。
特に、労働安全衛生法や労働基準法などの専門的な解釈が絡む場面では、自社で対応することは難しいことも多いでしょう。そのため、労災調査で適切な判断や対応を行うには、専門家のアドバイスが非常に重要となります。
弁護士法人ALGでは、これまで多くの労働問題に対応してきた経験を活かし、会社の立場に寄り添ったアドバイスを行っています。早期にご相談いただくことで、調査対応の方針を明確にし、リスクを最小限に抑えることができます。少しでも疑問点があれば、ぜひ私どもへご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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