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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
休業や死亡をともなう労働災害が発生した場合、会社は労働基準監督署に報告する義務があります。
正確な報告は被災者への補償を確実にするとともに、再発防止策の立案に欠かせない重要なプロセスです。
労災の報告を怠ると法違反となるだけでなく、会社としての信頼を損なうおそれがあるため、社内体制を整え速やかに対応することが求められます。
そこで、この記事では、労災報告時に労働基準監督署に提出すべき書類や、報告の流れなどについて解説していきます。
目次
労災発生の報告義務とは?
一定の労働災害が発生した場合、会社は労働安全衛生法に基づき、労働基準監督署に報告する義務があります(労働安全衛生規則96条、97条)。
これらの報告の目的は、労災の発生状況や原因を把握し、再発防止策の検討に活用し、社員の安全を守ることにあります。
労災の報告義務の対象となるケースとして、社員が労働災害等により死亡または休業した場合や、事業場内で火災や爆発など特別な事故が発生した場合があげられます。
労災保険を使用するかどうかにかかわらず、労働基準監督署へ報告しなければならないため注意が必要です。
労災の報告義務に違反した場合の罰則
労働基準監督署への報告が求められる労働災害が発生したにもかかわらず、報告をしなかったり、嘘の報告をしたりした場合は、50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法120条5号)。悪質なケースでは、会社名の公表や業務停止命令といった行政処分を受けることもあります。
いかなる理由があっても、労災を隠す行為は法令違反であり、刑事罰の対象となります。労災隠しが発覚すると、会社の社会的信用の失墜にもつながりかねません。労災事故が発生した場合は、指定された期限内に労働基準監督署に正確な報告を済ませることが不可欠です。
労災報告時に労働基準監督署に提出する書類
労災が発生した時に会社から労働基準監督署に提出すべき書類として、以下があげられます。
- 労働者死傷病報告書
- 労災事故報告書
それぞれ詳しく見ていきましょう。
労働者死傷病報告書
労働者死傷病報告書とは、労働災害等で社員が死亡または休業したときに、会社が労働基準監督署に提出する法定の報告書のことです(労働安全衛生規則97条)。
傷病名や労災が発生した原因などを記載します。提出先は災害が発生した事業場を管轄する労基署です。
提出が求められるのは、以下のケースです。
- 労働災害での負傷、窒息、急性中毒により死亡・休業したとき
- 就業中に負傷、窒息、急性中毒により死亡・休業したとき
- 事業場内や附属建設物内での負傷、窒息、急性中毒により死亡・休業したとき
- 事業の附属寄宿舎内での負傷、窒息、急性中毒により死亡・休業したとき
労働局の運用基準では、精神疾患や心疾患・脳疾患の労災についても、提出義務があると判断されています。
労働者死傷病報告書は、休業4日以上か未満かに応じて、フォーマットや提出期限が異なります。
| 様式 | 提出期限 | |
|---|---|---|
| 休業日数が4日以上の場合 死亡の場合 |
様式23号 | 遅滞なく(1週間~2週間以内に)提出 |
| 休業日数が4日未満の場合 | 様式24号 |
3ヶ月ごとに、最後の月の翌月末日までに提出 ●1~3月に発生した場合 4月末日まで ●4~6月に発生した場合 7月末日まで ●7~9月に発生した場合 10月末日まで ●10~12月分に発生した場合 1月末日まで |
労災が発生しても社員が仕事を休まなかった場合や、通勤中の事故については、労働者死傷病報告書の提出義務が免除されます。
2025年1月より電子申請が義務化、新様式へ変更
労働者死傷病報告は、2025年(令和7年)1月1日より電子申請が原則義務化され、それに伴い報告書の様式も変更されました。ただし、電子申請が難しい場合は、当面は書面での報告でも可能です。
労働者死傷病報告書の主な変更点として、以下があげられます。
- 休業4日以上の様式
「事業の種類」「被災者の職種」の部分が手入力から選択式(コード入力)に変わりました。また、「災害発生状況および原因」の記入欄が5つに分割され、災害発生状況をより詳しく書く形式に変更されています。 - 休業4日未満の様式
従来不要だった「労働保険番号」「被災者の勤続期間」「国籍・在留資格」「親事業場名」「災害発生場所の住所」などの記載欄が新たに設けられました。
労働者死傷病報告書の新様式のダウンロードや書き方については、以下の厚生労働省HPをご覧ください。
労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます(令和7年1月1日施行)【厚生労働省】
労災事故報告書
労災事故報告書とは、事業場内で火災や爆発など特定の事故が発生したとき、労働基準監督署への提出が求められる書面です(労働安全衛生規則96条)。事故発生時の状況や原因を具体的に記入します。
ケガ人の有無にかかわらず、事業場を管轄する労基署に提出しなければなりません。
提出が求められる事故として、主に以下があげられます。
- 事業場や附属建物内の事故
(火災や爆発、遠心機械・研削といしなど高速回転体の破裂、機械集材装置などの切断、建設物・附属建設物・機械集材装置・煙突などの倒壊) - ボイラーや第一種・第二種圧力容器の破裂、煙道ガスの爆発など
- クレーンの逸走や倒壊など
- エレベーターやリフトの昇降路の倒壊、搬器の墜落など
- ゴンドラの逸走、転倒など
労災を労働基準監督署に報告する流れ
労働災害の発生を労働基準監督署に報告する手順は、以下のとおりです。
- 初動対応
- 労災の状況を把握し、原因を調査する
- 労働基準監督署に報告する
- 再発防止に向けた取り組みをする
➀初動対応
労働災害が発生した場合、まずは被災者の応急手当てを最優先に行い、医療機関に搬送しましょう。
できれば、被災者を労災指定病院に行かせるのが望ましいですが、それが難しい場合は通常の病院でも構いません。ただし、その場合は労災であることを必ず病院に伝え、健康保険は使わないよう注意しましょう。
重大な労災が発生した場合は、警察や労働基準監督署にも連絡し、その後の対応を指示してもらいます。また、安全衛生担当者や管理職へ報告するとともに、被災者の家族にも状況を速やかに通知しなければなりません。
また、労災保険給付の申請は通常、社員本人や家族が行いますが、負傷や入院で手続きが困難な場合には、会社が代行して申請手続きを進める必要があります。
②労災の状況を把握し、原因を調査する
次にすべきは、労災の状況確認と原因調査です。
労基署による調査に備えて、労災発生時の状態をそのまま保存し、被災者や目撃者、関係者から聴き取り調査を行います。
事故発生時の状況や作業内容、使用機械、環境などを詳しく記録し、労災の原因を調査しましょう。
労災の発生原因として、設備や機械の欠陥といった物的要因や、社員のミスによる人的要因が考えられます。そして、これらを引き起こした原因として、安全管理体制の不備もあげられます。
原因調査では、目に見える直接的原因だけでなく、その裏に隠れた間接的原因まで徹底的に掘り下げることが大切です。たとえば、社員が危険な行動をとった背景に、作業手順の未整備などフロー上の問題がないかも確認し、原因を究明します。
③労働基準監督署に報告する
社員が労働災害等により死亡または休業した場合は、「労働者死傷病報告書」を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。
休業4日以上の場合は、遅滞なく(約1週間から2週間以内)提出する必要があります。
また、休業4日未満の場合は、1月から3月までなど3ヶ月ごとに取りまとめて、最後の月の翌月末日までに報告します。報告書の提出が1ヶ月以上遅延すると、遅延理由書の提出が求められることがあるためご注意ください。
報告書では『災害発生状況および原因』と『現場の略図』の記載が特に重要です。これらは労災認定や会社の責任判断に大きく影響するため、正確な記載が求められます。
④再発防止に向けた取り組みをする
労災の発生後は、会社として事故原因を徹底的に分析し、その結果を踏まえて再発防止策を策定・実行することが必要です。
再発防止策の例として、以下があげられます。
- 社員に安全な作業手順を周知・徹底する
- 管理職向けに再教育研修を行う
- 定期的にヒヤリハット報告会を開催し、事故につながりかけた事例を共有する
- リスクアセスメントを行い、作業ごとの危険度を評価・改善する
- 作業手順書や設備配置を見直し、作業環境の継続的な改善を行う
- 機械設備や安全装置、保護具などの点検頻度を高める
- 労災防止措置を講じる(機械に囲いや覆いを設置、安全な作業床や手すりの設置など)
- 社員の健康管理や過重労働の防止
【ケース別】労働者死傷病報告書の報告義務
ここでは、ケースごとの労働者死傷病報告書の報告義務について解説していきます。
技能実習生の労災
技能実習生は、労働者として日本の労働関係法が適用されます。
そのため、技能実習生が労働災害等により死亡・休業したときは、日本人社員と同じく労基署に労働者死傷病報告書を提出しなければなりません。
休業が4日以上であれば様式23号を速やかに提出し、3日以下の休業であれば様式24号を3ヶ月ごとにまとめて提出します。様式23号を提出するときは、職種欄に職種とともに「技能実習生」と記入し、実習生であることをはっきり示す必要があります。
また、外国人技能実習生も労災保険の対象となるため、手続きの支援が求められます。
派遣社員の労災
派遣社員が労働災害等で死亡または休業した場合、派遣先と派遣元どちらも労働者死傷病報告書を作成し、所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。
まず、派遣先の会社が労働者死傷病報告書を労基署に提出し、そのコピーを派遣元に送付します。派遣元の人材派遣会社はそのコピーを参考に、労働者死傷病報告書を作成し、労基署に提出します。
派遣スタッフの労災には、派遣元の労災保険が適用されますが、派遣先も労災報告や原因の調査、再発防止策を講じる義務があります。また、派遣元では、被災者の労災保険給付の手続をサポートしなければなりません。
出張先や現場での労災
社員が出張先や現場で労災に遭った場合も、労働者死傷病報告書を提出しなければなりません。
提出先は事故現場を管轄する労基署ではなく、被災者が勤務する事業場を管轄する労基署になります。
なお、建設現場での労災発生については注意が必要です。
建設業では工事現場を事業場とみなすため、被災した建設現場を所轄する労基署に報告書を提出する必要があります。下請・元請や工事の規模の大小を問いません。
不休の場合や通勤中の労災
労働災害が発生しても、被災した社員が治療後に仕事を休まなかった場合は、「労働者死傷病報告書」を提出する必要はありません。
ただし、火災や爆発、建物の倒壊、クレーンやエレベーターの事故など、特定の重大な事故については、休業の有無にかかわらず「労災事故報告書」の提出が必要です。
また、通勤中の事故は就業中の労災とは扱われないため、「労働者死傷病報告書」の提出義務はありません。ただし、通勤災害も労災保険の対象となるため、別途、労災保険給付の手続きを行う必要があります。
労災報告後に行われる労働基準監督署の調査
死亡事故や重大な労災が発生した場合、報告書などから法違反の疑いがある事故については、労働基準監督署による立入り調査が行われます。調査の目的は、労働安全衛生法違反の有無の確認や、労災保険給付の適用判断、労災の原因調査、再発防止策の検討などにあります。
災害発生の報告を受け次第、労働基準監督署の監督官や産業安全専門官などが速やかに現場へ赴きます。現地では、事故前の現場環境、被災状況、発生原因を中心に調査が行われます。
調査中に法違反が原因と判断された場合は、司法審査に切り替えられます。調査の結果は都道府県労働局や厚労省労働基準局に上申されます。
企業側に求められる対応
会社は労働基準監督署による調査や事情聴取に真摯に対応する必要があります。
再発防止のための是正勧告が出された場合は、必ず改善措置を講じなければなりません。
また、労働安全衛生法等に違反していると認定された場合、関係者に対して労働基準監督署への出頭命令が下されることがあります。
もっとも、事実に反した調査結果が出されることがないよう、会社として指摘すべき事実は的確に伝える必要があります。必要に応じて追加の証拠資料も提出すべきでしょう。
とくに被災者以外に目撃者がいない場合、被災者本人の供述が事実確認の最重要資料となります。
現場に残された機材などの状況と供述が矛盾していないかを精査し、疑わしい点がある場合は、意見書を作成して労基署に提出することが必要です。
労働災害再発防止書の提出
労働災害再発防止書は、労働基準監督署から作成・提出を指示されたときに提出するものです。
書式の最新版は厚生労働省のウェブページに掲載された「労働災害再発防止書様式例」でご確認ください。
また、ケースによっては労働基準監督署から「労働災害再発防止のための自主点検サイト」を使った自主点検表の作成・提出を求められることがあります。
もっとも、厚生労働省は、会社が厚生労働省の再発防止書のひな型を活用して、労災の原因究明や、再発防止策の策定を行うことを勧めています。厚生労働省からの要請の有無にかかわらず、会社で自主的に再発防止書を作成するのが望ましいでしょう。
労災発生時の労働基準監督署への報告義務については弁護士へご相談ください
労災発生時の労働基準監督署への報告は法的義務であり、怠ると罰則が科されます。
また、報告書は、労災の原因調査や被災社員への補償額を算定する際の重要な資料となります。
誤った内容を報告すると、会社や責任者が労働安全衛生法違反で処罰されたり、過大な賠償責任を負うリスクもあります。これらのリスクを避けるためにも、労災発生時の報告については、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
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この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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