労災
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#申請手続き
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
従業員が労働災害に遭った際、会社が労災保険の休業補償等の申請をサポートするケースも多いため、申請手続きや補償内容に関する正しい知識が必要となります。
申請の不備や提出漏れがあれば、被災した従業員の生活を支える給付金の支給を滞らせてしまうことになります。このような事態になれば、従業員は会社に対して不信感を抱き、労使トラブルに発展する可能性も考えられるでしょう。
本稿では、休業補償給付の要件や具体的な申請の流れ、会社が負担すべき範囲などについて分かりやすく解説していきます。
目次
労災の休業補償とは
労災保険の休業補償とは、業務や通勤を原因とした負傷や疾病の療養のために働くことができず、会社から賃金を受けられない場合に労災保険から支給される所得補償です。業務上の労災については、休業補償給付、通勤時の労災については休業給付と呼ばれます。
休業4日目から「休業(補償)給付」として給付基礎日額の60%、「休業特別支給金」として20%が支給され、合わせて給付基礎日額の80%が支給されます。なお、休業(補償)給付は非課税所得のため、年末調整で計算に含めないよう注意しましょう。
会社には、従業員の申請手続きに協力する「助力義務」が課されています(労災保険法施行規則23条1項)。事業主の証明欄に対応するだけでなく、従業員が手続きを行うことが困難な場合には、請求を代行する等のサポートも必要になります。
休業補償の給付要件
休業(補償)給付を受けるためには、労災保険法に定められた以下の3つの要件をすべて満たさなければなりません。
- 業務または通勤を原因とする負傷や疾病により療養していること
ケガや病気が業務災害(業務起因性・遂行性)または通勤災害によるものであると認められる必要があります。 - 療養のために労働することができないこと
自己判断ではなく、医学的見地から、労働不能であると医師が判断する必要があります。 - 療養中に賃金を受けていないこと
会社から賃金が支払われている場合は、原則として休業補償の対象外ですが、休業(補償)給付の額に満たない場合は、差額が支給されます。
これらの要件を満たし、かつ休業が4日以上にわたる場合には、4日目から休業(補償)給付の支給対象となります。なお、最初の3日間については待機期間と呼ばれ、業務災害に限り、会社は労働基準法上の休業補償義務を負います。
休業補償の給付期間
休業(補償)給付は、労働不能となった休業4日目から開始され、「治癒(症状固定)」と診断された場合に支給打ち切りとなります。「治癒(症状固定)」しても、障害が残ったり、1年6ヶ月経過しても「治癒(症状固定)」に至らず、いまだ療養が必要な場合には、休業補償から障害補償や傷病補償へ切り替わるケースもあります。
「治癒(症状固定)」とは、症状が治癒した、または症状が安定し、これ以上治療を続けても症状の改善が期待できない状態を指します。骨折であれば、たとえ疼痛が残っていたとしても骨癒合しており、これ以上の改善が見込めないのであれば、休業(補償)給付は打ち切られます。
また、完全に骨癒合していなくても、事務作業等で業務に復帰できるのであれば、労務不能にはあたらないため休業(補償)給付の支給は終了となります。
労災の休業補償の申請手続きをする人
正社員の場合
正社員本人もしくは遺族が申請書類を作成し、管轄の労働基準監督署へ提出します。ただし、会社が本人等に代わって書類を作成・提出することも可能です。
本人等が書類を作成する場合であっても、会社は災害や休業の事実を証明する「事業主の証明欄」を記載しなければなりません。スムーズに対応するためにも、労災事故の詳細はしっかりと把握しておきましょう。
事故が業務上であるか否かについて争いがあれば、事業主の証明欄への記載を拒否できます。その場合は、証明欄を空白として、従業員が申請することもできます。
アルバイト・日雇い労働者・派遣労働者の場合
アルバイトや日雇い労働者であっても、正社員と同様に労災保険の対象であり、会社は雇用形態を理由に申請を拒むことはできません。派遣労働者の場合は、派遣先の会社の労災保険ではなく、派遣元の労災保険が適用されるため、注意が必要です。
事故の詳細や事実確認等は派遣先の協力が必要であり、事故が起きた際は速やかに、派遣先から派遣元へ連絡することが大切です。
なお、労災事故が起きた際に労基署へ提出する「死傷病報告」については、派遣先・派遣元の両方に提出義務があります。
労災の休業補償の申請手続きの流れ
休業(補償)給付の申請手続は、休業が長期にわたる場合には、一度だけでなく複数回にわたり継続的に行う必要があります。申請手続きの流れは以下のとおりです。
- 休業(補償)給付支給請求書の作成
- 労働基準監督署への申請
- 支給の決定通知の受け取り
- 休業補償給付の振り込み
休業期間が1ヶ月以上の場合は、休業期間をまとめて申請することも可能ですが、休業(補償)給付は被災従業員の生活を支える給付であるため、1ヶ月ごとに請求を行うのが通例です。
なお、休業(補償)給付は従業員個人に発生する権利であるため、退職後であっても申請が可能です。ただし、労働不能のため賃金を受けない日ごとに2年の時効があるため、期限内に手続きする必要があります。
①休業補償給付支給請求書の作成
休業(補償)給付を申請する際は、業務災害であれば「様式第8号」、通勤災害であれば「様式第16号の6」を使用します。請求用紙は労働基準監督署の窓口で受け取れるほか、厚生労働省のホームページからダウンロードすることも可能です。
作成の際は、被災従業員の名前や事故の発生日、災害の発生状況等を正確に記載します。療養の事実や労働災害の事実関係を証明する、事業主証明欄および医師等の証明欄も正しく記載されていることを確認の上、所轄の労働基準監督署へ提出しましょう。平均賃金の算定根拠は、様式第8号別紙1(平均賃金算定内訳)を用いて算出し、提出します。
②労働基準監督署への申請
作成した請求書は、事業場を管轄する労働基準監督署の労災課へ提出します。提出方法は、窓口への持参や郵送、電子申請といった方法があります。
申請時の書類に不備があれば、書類の再提出や労働基準監督署からのヒアリング等が発生する可能性があり、支給決定までに時間を要するおそれがあります。スムーズに休業(補償)給付を受けるためにも、医師の証明内容や会社の勤怠記録等に齟齬がないかは提出前に確認すべきでしょう。
なお、同一の事故によって被災した従業員が障害厚生年金や障害基礎年金を受給した場合には、追加の添付書類が必要となります。適切に申請するには、従業員とコミュニケーションをはかり、漏れのないように対応しましょう。
③支給の決定通知の受け取り
申請書類提出後は、労働基準監督署で業務に起因する疾病であるのか等が調査され、必要に応じて追加書類や聴取が行われ、支給の可否が判断されます。支給もしくは不支給の決定については、従業員本人宛に決定通知が郵送され、会社には送付されません。
そのため、会社は決定内容を報告してもらうよう従業員へ伝えておくといった対処が必要となります。申請から給付決定までの期間は、概ね1ヶ月程度が目安とされていますが、複雑な事案では数ヶ月要するケースもあります。
審査の結果、不支給となった場合には、通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内であれば「審査請求」という不服申し立ての手続きが可能です。
④休業補償給付の振り込み
通常、支給決定通知から1週間程度で、従業員の口座に給付金が入金されます。休業(補償)給付が支給されるまでの目安は、申請から振込まで1~2ヶ月とされています。
ただし、精神疾患等の複雑な事案では、業務起因性の判断に専門医の意見が必要となる等、労災適用の判断に半年以上要するケースも少なくありません。給付までの期間が長引けば、従業員の生活に支障を来たすおそれもあります。状況に応じて、会社が休業(補償)給付相当額を従業員に立替え払いする「受任者払い制度」を検討しましょう。
この制度を活用する場合は、労働基準監督署へ受任者払申請書や委任状を提出します。審査後に会社が給付金を受け取る仕組みであるため、労災不認定の場合は、立替金を労働者から返還してもらう必要があります。
労災の休業補償の手続きに必要な書類
休業(補償)給付を申請する際は、通常、以下の書類が必要となります。
- 休業補償給付支給請求書(様式第8号)
厚生労働省や労働基準監督署で受けとるほか、ホームページからもダウンロードが可能です。通勤災害の場合は「様式第16号の6」の請求書を使用します。 - 賃金台帳
給付基礎日額の算定根拠として、休業前3ヶ月分の賃金支払を証明します。 - 出勤簿またはタイムカード
労働時間の確認や療養のための休業を確認する資料として提出します。 - その他、災害状況を補足する資料等
交通事故などの第三者による事故の場合は「第三者行為災害届」等が必要になることがあります。
事案によっては、さらに追加の添付資料を求められるケースもありますので、事前に労働基準監督署へ確認しておくとスムーズです。
医師による証明も必要
休業補償給付支給請求書には「診療担当者の証明」欄が設けられており、担当医等に、療養の事実や労務不能期間を記載してもらう必要があります。これは、休業が会社や本人の自己判断ではなく、医学的見地からの休業であることを証明するためのものです。証明を受ける際の証明書作成費用については、労災の療養補償で補填されます。
請求書の「療養担当者の証明欄」には、主に以下の内容を記載してもらう必要があります。
- 傷病の部位および傷病名
- 療養の期間および実日数
- 労働不能と認められる期間
- 療養担当者の氏名および医療機関名
休業補償を1ヶ月ごとに請求する場合は、その都度医師の証明が必要となるため、従業員へ通院時に書類を持参するよう促しましょう。
労災の休業補償給付額の計算方法
休業補償の給付額の算定基準となるのは「給付基礎日額」です。給付基礎日額は、事故発生日直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割って算出します。
休業4日目からは、休業(補償)給付(60%)と休業特別支給金(20%)をあわせた給付基礎日額の80%相当額が支給されます。給付基礎日額が1万円の労働者が4日間休業した場合に支給される給付金は以下のとおりです。
- 休業(補償)給付:1万円×60%×4日間=2万4000円
- 休業特別支給金:1万円×20%×4日間=8000円
待機期間である最初の3日間は労災保険の対象外であるため、会社が平均賃金の60%以上を支払わなければなりません。4日目以降については、労災保険からの休業(補償)給付によって平均賃金の60%が補償されるため、事実上、会社の補償義務は免除されるといえるでしょう。
労災の休業補償の会社負担はいくらか?
労災が発生した際、会社が負担すべき金額はケースによって異なります。休業開始から最初の3日間については労災保険から休業補償が給付されないため、会社が平均賃金の60%以上を支払わなければなりません。4日目以降は労災保険から給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+特別支給金20%)が支給され、会社負担は原則として不要となります。
ただし、会社に安全配慮義務違反などの過失がある場合は、給与全額を補償する必要があるでしょう。会社が負担する休業補償について、以下の2段階にわけて解説します。
- 待機期間中の場合
- 会社責任による労災発生の場合
待機期間中の場合
労災による休業の最初の3日間は「待機期間」と呼ばれ、この期間については労災保険からは給付が行われません。そのため、待機期間中については、業務災害であれば会社が平均賃金の60%以上の休業補償を行う義務があります。なお、通勤災害については待機期間中の休業補償は会社に義務づけられていません。
待機期間の3日間は所定労働日だけでなく、土日や祝日などの所定休日も含めてカウントするため、漏れがないようにしましょう。従業員が希望する場合は、待機期間中に年次有給休暇を取得させることも可能です。ただし、会社側が一方的に有給消化を強制することはできませんので注意しましょう。
会社責任による労災発生の場合
不十分な設備管理や過重労働の見過ごしなど、労災事故の発生に会社の安全配慮義務違反があれば、会社は民法上の損害賠償責任を負うことになります。その場合、労働基準法上の休業補償(60%)だけでなく、従業員への損害賠償として、給与の全額を支払う義務があると考えられます。
具体的には、労災保険からの休業補償給付(60%)で不足する残りの40%を会社が負担する必要があります。なお、特別支給金は所得補償としての給付ではないため、会社負担分を計算する際に控除することはできません。
事故の責任の所在によって会社の負担は大きく異なります。
労災の休業補償については弁護士にご相談ください
労働災害が発生した際、会社には労働基準法上の補償義務だけでなく、労災申請手続きの助力義務も求められます。慣れない手続きの中で対応を誤ると、従業員の不信感につながり、無用なトラブルに発展するおそれもあるでしょう。
特に、会社の安全配慮義務違反を疑われるようなケースでは、法的見解をもとに慎重に対応することが大切です。弁護士法人ALGは、労災問題に経験豊富な弁護士が在籍しており、労災申請のサポートだけでなく、損害賠償請求のリスクについてもアドバイスしております。
全国展開しているため、最寄りの支部でご相談いただけるほか、電話相談も可能です。労災の休業補償について少しでも不安があれば、まずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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