処分
解雇
#出勤停止処分
#解説
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
出勤停止処分とは、就業規則違反など問題行動を起こした社員に対して、一定期間の出勤を禁止する懲戒処分のことです。この期間中は給与が支払われないため、社員にとっては重い処分といえます。
そのため、出勤停止処分を受けた社員が会社に反発し、労働組合を通じて処分の取り下げを求めたり、処分の無効を訴えて裁判を起こしたりするケースは多いです。
出勤停止処分を行う場合は、その有効性について注意深く検討したうえで行うことが重要です。
この記事では、出勤停止処分を行うときの注意点について解説していきます。
目次
出勤停止処分とは?
出勤停止とは、就業規則や業務命令などに違反した社員へのペナルティとして、一定期間の出勤を禁止する懲戒処分のことです。
出勤停止期間は労務の提供がないため、ノーワーク・ノーペイの原則により、給与を支払う必要はありません。また、勤続年数にも算入されないことが通例です。
一定期間の給与が支払われないため、減給よりも重い処分といえます。
出勤停止の期間について法律上のルールはありませんが、一般的には7日~30日程度と定める企業が多いです。ただし、あまりにも長すぎると重すぎる処分として無効と判断されるリスクがあります。処分対象の行為と停止期間のバランスがとれるよう慎重に検討する必要があります。
懲戒処分の中での位置付けと重さ
多くの企業では、就業規則において、軽い順から以下の内容で懲戒処分を定めています。
- 戒告・けん責・訓告(文書での指導)
- 減給(給与の減額)
- 出勤停止(一定期間の出勤禁止)
- 降格処分(役職の引き下げ)
- 諭旨解雇(退職届の提出を勧告)
- 懲戒解雇(制裁としての解雇)
出勤停止は、懲戒処分の中では中程度の重さとなります。
軽い懲戒処分から段階的に進める場合は、戒告やけん責、訓告、減給の次のステップとして出勤停止が行われることが多いです。
ほかの処分との関係性ですが、減給には一定の上限額があるため、出勤停止の方が重い処分となります。
また、出勤停止は一時的な減収ですが、降格処分では、再び昇格しない限り給与額を元に戻せないため、より重い処分といえます。
出勤停止と自宅待機の違い
出勤停止と同じく、会社の判断で社員を出勤させない処分として「自宅待機」があります。 自宅待機とは、人事権の行使として、会社が社員に業務命令として自宅での待機を命じることです。
以下のような正当な理由があれば、会社の裁量で自宅待機を命令することが可能です。
- 社員の不正行為やハラスメントが発覚し、その調査を行うため
- 感染症の感染拡大を防ぐため
- 事業所が災害などで使用不能になったため
自宅待機では、たとえ社員の問題行為の調査が目的であっても、社員へのペナルティの意味合いは持ちません。制裁として行われる出勤停止処分とは性質が異なるため、給与(休業手当)を支払う必要があります。
出勤停止処分を行うケース
出勤停止は社員へのペナルティであるため、就業規則上の根拠が求められます。 どのようなケースで出勤停止処分を行うかについては、あらかじめ就業規則に明記しておかなければなりません。一般的には、以下のケースで出勤停止処分が行われることが多いです。
- 遅刻や無断欠勤が繰り返される場合
- 重大な業務命令違反
- 悪質なパワハラなどのハラスメントを行った場合
- 私生活で犯罪を行った場合
- 会社の社会的信用を著しく失墜させた場合
- 軽微な就業規則違反を繰り返し、戒告やけん責、減給などの懲戒処分を行っても、改善されない場合
軽微な就業規則違反の繰り返しや、ハラスメント、刑事犯罪など、会社の秩序を著しく乱す行為が対象となります。
出勤停止処分中の給与の扱い
出勤停止期間中は、原則として無給です。
会社と社員との間には雇用契約が成立しているため、社員の労働の見返りとして給与を支払うのが基本です。出勤停止期間については、社員側の落ち度で働けない状態となっているため、会社は給与を支払う義務を負いません。
また、出勤停止処分では、減給の懲戒処分のような金額の上限は適用されません。
例えば1ヶ月の間、出勤停止となった社員に対しては、その月の給与を全く支払わなくても問題ありません。
ただし、給与や賞与の支払日がたまたま出勤停止期間中にあたる場合に、そのことを理由に支払いを拒否することは認められないためご注意ください。
停止期間中の有給休暇は認められない
出勤停止期間中に、処分を受けた社員が有給休暇を取得することは認められていません。
有給休暇は法律で労働者の権利として認められたものですが、労働義務のある日に限って取得できるものと定められているからです。
そもそも出勤停止期間中は労働義務がない日であるため、消化していない有給休暇が残っていたとしても、有給休暇を取得することはできません。
もしも社員が出勤停止期間中について、有給休暇の取得を申し込んできたとしても、会社は応じる必要はありません。
出勤停止処分の期間の目安
出勤停止処分の期間について定めた法律はありません。
社員の問題行為の内容や悪質性などを踏まえて、会社の判断で決定します。
出勤停止の平均的な日数は7日から30日程度ですが、悪質な場合は、数ヶ月にわたることもあります。
例えば、以下の裁判例では、いずれも出勤停止処分が合法と判断されています。
- 女性派遣社員に性生活の話など言葉によるセクハラを続けた(出勤停止10日間)
- 仕事で知り合った女性へのつきまとい(出勤停止6ヶ月間)
- 人事考課の面談中に上司に暴行(出勤停止3日間)
- 遠方の工場への3ヶ月間の出張命令を拒否(出勤停止9日間)
- 仕事を放棄し顧客から契約を打ち切られた(出勤停止7日間)
不相応に長すぎると、重すぎる懲戒として無効となるリスクがあるためご注意ください。
なお、出勤停止において土日祝日はカウントされないのが原則です。
例えば、土日休みの会社で出勤停止8日とする場合、月曜から翌週の水曜まで出勤が禁止されます。
出勤停止処分の手続きの流れ
出勤停止処分の手続きは、以下の手順で行います。
- 就業規則を確認
まず就業規則に懲戒処分として「出勤停止」が定められているか、社員の行為が就業規則に記載された「出勤停止事由」に当たるかを確認しましょう。また、出勤停止日数の上限や始末書の提出など処分内容の確認も必要です。- 事実確認・調査
処分の対象となる問題行為の証拠を収集しましょう。メールや動画、録音データ、周囲の社員の証言などが挙げられます。ある程度の事実関係が把握できれば、対象者本人にもヒアリングを行います。- 弁明の機会の付与
適正手続きの観点から、出勤停止に先立って本人に弁明の機会を与えることも重要です。
どのような行為について処分を検討しているかを説明した上で、社員の言い分を聴取しましょう。- 懲戒処分の決定
社員の弁明内容を検討し、出勤停止処分を行うか否か決定します。- 出勤停止処分通知書の交付
出勤停止処分を決定したら、社員に出勤停止処分の理由を記入した処分通知書を交付します。
出勤停止処分を行う際の注意点
就業規則に沿って手続きをする
出勤停止処分を行う場合は、就業規則に沿って手続きを進めることが必要です。
例えば、就業規則に「弁明の機会を与える」「懲戒処分は賞罰委員会の決議を経て決定する」などの記載があるときは、このとおり行う必要があります。
また、出勤停止期間の上限日数や始末書の提出などが定められている場合は従わなければなりません。これらのルールを守らずに出勤停止処分を行うと、裁判などで無効と判断されるおそれがあるためご注意ください。
また、そもそも出勤停止処分を行うには、就業規則に懲戒処分として「出勤停止」が定められていて、社員の行為が就業規則に記載された「出勤停止事由」に当たる必要があります。これらを満たさなければ、出勤停止処分を行えません。
処分の公平性を吟味する
懲戒処分は、違反行為の内容や程度が同じであれば、同等の処分でなければなりません。
特別な理由もないのに、社員によって処分の重さを変えたり、過去の自社の対応と異なる決定をしたりしてはいけません。
裁判例でも、100回の出張旅費の不正受給を理由に懲戒解雇した事案につき、行為の態様は過去に出勤停止3ヶ月とされた他の社員と同程度であり、処分のバランスを欠くとして無効と判断しています(札幌高等裁判所 令和3年11月17日判決)。
公平性を保つためにも、懲戒の記録は必ず残し照会できるようにしておくことが必要です。
また、過去の同様の事案よりも重い処分を下す場合は、なぜ重い処分となるのか客観的な証拠を確保し、その理由を説明できるよう準備しておくことも大切です。
二重処罰はしない
1回の問題行動に対して、2度の懲戒処分を行うことは認められません。
このルールを、二重処罰の禁止(一事不再理の原則)といいます。
懲戒処分は制裁罰であるため、刑事罰における二重処罰の禁止のルールが適用されるためです。
例えば、社員が遅刻を繰り返したことでけん責処分を受けて、処分終了となったとします。会社はその後、さらに出勤停止処分を下すことはできません。
他方、1つの問題行動に対して懲戒処分を下す一方、適格性がないことが判明したとして、人事措置として降格や異動などを行うことは、懲戒処分ではないため認められます。
懲戒処分を行う際の注意点について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
さらに詳しく懲戒処分を行う際に注意すべき3つのポイントとは?出勤停止処分により退職金や賞与を減額・不支給にできる?
就業規則に規定を設けていたとしても、出勤停止処分を理由に退職金を減額・不支給とすることは認められる可能性が低いです。
裁判例では、退職金は在籍中の給与の後払いの性質があるため、たとえ懲戒解雇であっても、在籍中の功績をすべて消し去るほどの悪質な行為でない限り、退職金の不支給は不適切と判断される傾向が強いからです。
他方、賞与の金額については会社の裁量が広く認められています。そのため、賞与の減額については、懲戒処分としてではなく、査定期間中の出勤停止処分を考慮して、次期の賞与を減額することは認められると考えられます。
出勤停止処分が違法・無効になるとどうなる?
出勤停止処分のやり方を誤ると、社員が撤回を求めたり、処分の無効を主張して裁判を起こしたりするリスクがあります。
出勤停止処分が裁判で無効と判断されると、会社は社員に対し、出勤停止期間中に支払わなかった給与全額を支払わなければならなくなります。また、違法な出勤停止処分により精神的苦痛を受けたとして慰謝料など損害賠償を請求される可能性もあります。
さらに、社内の秩序維持のために行った出勤停止処分が法律に違反したことになり、処分対象者だけでなく、周囲の社員に対しても面目が立ちません。
そのため、出勤停止処分を行う場合はその法的な有効性を慎重に検討しながら、適切に対応を進める必要があります。
出勤停止処分が無効になるケース
出勤停止処分を行う際は、懲戒処分についての法律のルールを守ることが必要です。
社員の行為の内容などを踏まえて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効となります(労契法15条)。
例えば、以下のケースでは、処分が無効になる可能性があります。
- 問題行為が軽微なのに長期間出勤停止させるなど重すぎる処分
- 違法な業務命令拒否に対する出勤停止処分
- 就業規則に定めがない事由での出勤停止処分
- 適正な手続き(事実関係の調査や弁明の機会の付与など)を行わなかった出勤停止処分
- 過去の事案とのバランスを欠く出勤停止処分
過去の事案や裁判例と社員の行為を比べて、処分に正当な理由が認められるか慎重に検討することが重要です。
出勤停止処分の有効性を争った判例
事件の概要
【平成26年(受)第1310号 最高裁判所第1小法廷 平成27年2月26日判決】
Y社は、女性派遣社員Aらに対し1年にわたり性的発言を繰り返したことを理由に、管理職の職員Xらに出勤停止1ヶ月などの懲戒処分と、人事上の措置として降格を行ったところ、Xらはこれらの処分は相当性を欠くとして、無効を求めて裁判を起こした事案です。
裁判所の判断
裁判所は以下を理由に、本件の出勤停止処分と降格は有効であると判断しました。
- Xらが1年にわたり繰り返した発言は、Aらに強い不快感を与えて職場環境を悪化させているため、セクハラに該当する。
- XらはAから明確に拒否されていないと主張するが、セクハラは被害者が嫌悪感を抱きながらも、職場の人間関係の悪化をおそれて、加害者への抗議や会社への申告を控えることが多い。
- XらはY社のセクハラへの方針を認識する機会がなく、事前に警告も受けていなかったと主張するが、Y社ではセクハラ禁止文書の周知や、セクハラ研修の毎年参加の義務付けなど対策を十分に講じていたことから、XらはY社の方針を当然に認識すべきであり、Xらのセクハラは第三者のいない場所で行われているため、Y社が警告することも困難であった。
ポイント・解説
裁判所は、職場内でのセクハラを厳しく評価し、Xらに行った出勤停止や降格は、いずれも社会通念上の相当性が認められるとして有効と判断しています。
身体的な接触がない言葉によるセクハラであっても、出勤停止1ヶ月という重い懲戒処分が有効とされた点がポイントです。
また、本件判決では、全社員にセクハラ防止研修受講の義務付けや、セクハラ禁止文書の周知などを行った会社の取組みが評価されています。法的リスクを避けるためにも、会社として日頃から積極的なハラスメント防止対策に取り組むことが重要です。
出勤停止処分については弁護士にご相談ください
出勤停止は社員にとって重い処分であるため、処分をめぐって、労使トラブルに発展するケースは多いです。
出勤停止処分を行う場合は、処分の理由について十分な証拠をつかんだうえで、就業規則に沿って正しい手続きのもとで進めることが重要です。また、処分の内容が重すぎないかの検討も求められます。
適切に懲戒処分を進めるには、労働関連法の視点を踏まえたリーガルチェックが不可欠です。
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この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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