就業規則
#休職中
#入社前
#退職後
#閲覧
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
就業規則は社員の働き方や労働条件を明文化する重要なルールブックです。
就業規則には社員への周知義務が定められており、社員が閲覧できる状況でなくては効力が認められません。
また、せっかく作成しても社員が内容を知らないと、「そんなルールがあるとは聞いてない」「聞いていないのに罰せられた」などの不満を招き、トラブルとなるおそれもあります。
このページでは、就業規則の正しい閲覧方法や、閲覧を求められた場合の対応方法などについてご説明します。
目次
就業規則の閲覧は会社の義務
就業規則は、社員がいつでも見られるようにしておく必要があります。これは会社の義務です。
労働基準法第106条では、会社が就業規則などのルールを社員に「周知(しらせる)」することを義務づけています。この「周知」とは、社員が「見たいときにすぐ見られる状態」にしておくことを意味します。
そのため、就業規則にパスワードをかけたり、特定の人しか見られないようにして、社員が自由に見られない状態にするのは認められません。
もしこの義務を守らなかった場合、労働基準監督署から注意や指導を受けることがあります。さらに悪質な場合は、30万円以下の罰金が科される可能性もあります。
また、就業規則が社員にきちんと伝わっていないと、その規則自体が無効と判断されるリスクもあります。たとえば、懲戒処分や手当の支給条件などが就業規則に書かれていても、それが社員に知られていなければ、会社はそのルールを使えないこともあります。
就業規則の作成・周知義務がある会社の要件
常時10人以上の社員を雇用する事業場は、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出て、社員に周知する義務があります(労基法89条、106条)。また、内容を変更した場合も同じ義務があります。
常時雇用する社員の数は、本社や支社、工場など事業場ごとに判断されます。この社員には、正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなども含まれます。
たとえば、会社全体で常時10人以上の社員を雇用していても、事業場単位で9人以下であるならば、就業規則の作成・届出義務は生じません。また、忙しい時期だけ10人以上雇用するケースも同じです。
他方、一時的に9人以下となる場合でも、年間を通じて平均的に10人以上雇用していれば、就業規則の作成・届け出義務が生じます。
就業規則の閲覧方法
会社の就業規則は、以下のいずれかの方法で、社員が閲覧できるようにしなければなりません(労働基準法施行規則52条の2)。
- 見やすい場所への掲示
- 書面の交付
- データの共有
以下で詳しく見ていきましょう。
見やすい場所への掲示
就業規則を職場の見やすい場所に掲示する方法です。
たとえば、就業規則のコピーをファイリングして、机や書棚に置いておくことがあげられます。
社員の誰もが自由に出入りできる場所であれば、作業場だけでなく、休憩室や食堂、会議室、更衣室などでも問題ありません。
なお、同じ事業場でも建物が異なる場合は、原則として建物ごとに掲示する必要があります。
掲示による方法はコストをかけずに周知できるのがメリットですが、就業規則を変更した場合は掲示のやり直しが求められるため労力がかかります。そのため、小規模の事業場に適した周知方法といえます。
書面の交付
入社時や就業規則の変更時などに、就業規則のコピーを一人ひとりの社員に配布する方法です。
すべての社員に就業規則の周知を徹底できるのがメリットです。
ただし、就業規則を変更した場合は、そのつど書面を再交付しなければならないため手間がかかります。また、個人に就業規則を配布すると、コピーも簡単にできてしまうため、社外に漏えいされるリスクが高まります。書面で配布するときは、管理を徹底するよう周知する必要があります。
就業規則の持ち出しを禁止したい企業や、社員数が多い企業においては、見やすい場所への掲示かデータ共有で周知するのが望ましいといえます。
データの共有
就業規則をデジタルデータ化して、クラウド上で共有する方法です。
たとえば、就業規則のPDFを社内のイントラネットにアップロードしたり、共有フォルダに格納したりする方法があげられます。大切なのはすべての社員がアクセスできる状態にすることです。
データ共有のメリットは、就業規則の一元管理ができることです。紙の掲示や配布と異なり、就業規則の見直しがあった場合でも容易に変更できます。
ただし、情報漏えいを防ぐためにも、アクセス制限やパスワード設定、ダウンロード制限や印刷制限などのセキュリティ対策を講じる必要があります。
【ケース別】労働者から就業規則の閲覧を求められた場合の対応
入社前の内定者や休職者、退職者、第三者から就業規則の閲覧を求められた場合の対応方法について、以下で解説していきます。
入社前の場合
入社前の内定者から「就業規則を見せてほしい」と求められた場合、会社は基本的にその要望に応じる必要があります。これは、単なる配慮ではなく、法律に基づいた対応です。
労働契約法では、会社が新入社員に就業規則を適用するためには、その内容が事前にきちんと伝えられている、つまり「周知されている」ことが条件とされています。さらに、厚生労働省の通達でも、就業規則が労働契約に反映されるためには、労働契約が結ばれるまでにその内容を周知しておく必要があると明記されています。
このように、就業規則を新入社員に適用したいのであれば、入社前の段階でその内容を内定者に伝えておくことが求められます。つまり、内定者に対しても、就業規則を適用することを前提に、その内容をしっかりと周知しておく必要があります。
休職中の場合
休職中の社員から就業規則の閲覧を求められたら、会社は原則としてこれに応じる義務があります。
休職中であっても、会社に所属している限り、就業規則を閲覧する権利が保障されているからです。
就業規則の周知の方法としては、職場の見やすい場所への掲示・備え付け、社員一人ひとりへの配布、電子データの共有などの方法が認められています(労基法施行規則52条の2)。
そのため、会社としては通常の社員と同じく、オフィス内での掲示や会社のパソコンモニターでの閲覧などにより就業規則を周知すれば問題ありません。休職者の求めに応じて、自宅に郵送するなど特別に対応する義務までは負わないといえます。
退職後の場合
退職した元社員から就業規則の閲覧を求められたとしても、会社は原則として応じる義務はありません。
たとえば、退職した社員が、不当解雇の訴えや残業代請求、退職後の競業禁止義務の確認のために就業規則の閲覧を求めることがあります。
このような場合でも、退職後に会社の就業規則の閲覧を認める法的義務はありません。
会社が就業規則を周知させる義務を負うのは、あくまでも現在雇用している社員に対してのみです。
したがって、閲覧に応じるかどうかは会社の判断で決めることになります。
もっとも、会社が就業規則を閲覧させる必要はないとしても、元社員が労働基準監督署に開示請求をすることにより、就業規則の開示を受けられる場合があります。
他社など第三者の場合
会社と関係のない第三者から就業規則の閲覧を求められた場合、会社は原則として拒否することが可能です。
会社には社員に対して就業規則を閲覧させる義務がありますが、雇用契約を結んでいない第三者に対して開示する義務はないからです。就業規則は社内向けのルールを定めたものであり、社外秘として扱われることが通例です。
ただし、会社のウェブページなどに就業規則を任意で公開することは自由です。この場合であれば、第三者も閲覧できることになります。
労働基準監督署で可能な就業規則の閲覧について
会社が就業規則の閲覧を拒否したとき、社員は労働基準監督署に対して就業規則の開示を求めることができます。
社員10名以上の事業場が就業規則を作成・変更したときは、労基署に届け出る義務があります。
そのため、労基署は就業規則を持っているはずです。
この場合、以下の2つの要件を満たす場合は、労基署が社員に就業規則を見せることがあります。
- 社員の働く事業場で就業規則の周知義務が果たされていないこと
- 会社に請求しても就業規則の閲覧を拒否されたこと
なお、退職済みの元社員については、在籍中の状況が上記の要件を満たす場合に、就業規則のうち会社と社員でトラブルになっている部分に限っての閲覧が認められています。
就業規則の閲覧を拒否した場合のデメリット
会社が社員からの就業規則の閲覧を拒否すると、深刻なデメリットが生じます。
周知義務を果たしていないとして、30万円以下の罰金処分や、就業規則の効力が認められないリスクが生じます。このほかにも、どのようなトラブルが起こり得るのか確認しましょう。
会社のルールがあいまいになる
就業規則の閲覧を拒否するデメリットとして、服務規律があいまいになることがあげられます。
服務規律とは、社員が会社で働くうえで守るべきルールや行動規範をまとめたものです。
社員が安心して働ける環境を整え、トラブルを未然に防ぐために重要なものです。
内容は会社によってばらつきがありますが、以下を定めるケースが多いです。
- セクハラやパワハラの禁止
- 会社の機密情報を外部に漏らさないこと
- 業務上の指揮命令に従うこと
- 会社への誹謗中傷の禁止
- 副業の可否
- 働くうえでの身だしなみなど
服務規律は就業規則で定めるのが通例ですが、社員に就業規則を見せないと服務規律の内容が確認できず、ルールのない会社と同じ状態になってしまいます。
問題社員へ懲戒処分ができない
就業規則を閲覧させないと、社員に問題行為があったとしても、懲戒解雇などの懲戒処分を与えることができません。
これは、裁判例上、会社が社員を懲戒するには、あらかじめ就業規則に懲戒処分の種類や懲戒処分の事由を定めて、社員に周知する必要があると考えられているためです(最高裁判所 平成15年10月10日判決 フジ興産事件)。
懲戒処分は、問題行動を起こした社員に対してペナルティを科すことで、他の社員に同様の行為をしないように促し、職場の秩序を維持するのに役立ちます。
このような懲戒処分ができないことになることは、会社経営において大きなデメリットになるおそれがあります。
給与の減額ができない
勤務成績の不良などを理由に社員を降格させて給与を減額することは、就業規則に定めがなければ、認められません。
給与の減額は労働者にとって重大な不利益変更にあたるため、あらかじめ就業規則にそのことが記載され、かつ社員に周知されている必要があると判断されているからです(東京地方裁判所 令和5年12月14日判決)。
就業規則が周知されていなければ、就業規則としての効力が認められないため、成績に釣り合わない高額の給与を支払い続けるなどの問題が生じてしまいます。
もっとも、給与の減額は就業規則が周知されている場合でも容易にできるわけではありません。正当な理由がある場合に、就業規則のルールを守って行う場合のみ認められる可能性があります。
定年退職による契約終了ができない
就業規則では定年についても定めることが一般的です。
雇用契約書で定年を定めていない場合、就業規則が周知されていなければ、定年のない雇用契約になります。
その結果、社員が高齢になって働くのが難しい状況になっても、本人から退職の申し出がない限り、原則として雇用し続けなければならなくなります。
退職について本人と合意できれば問題はないのですが、そうでないときは解雇せざるを得なくなり、不当解雇トラブルにつながるおそれがあります。
また、会社と社員との間で「何歳まで働けるのか」「再雇用の基準はどうなっているのか」といった認識にズレが生じて、争いとなるリスクも高まります。
欠勤・遅刻・休職などへ対応できない
就業規則には欠勤や遅刻についてのルールを定めることが通例です。
就業規則を周知させないと、欠勤や遅刻が発生したときの手続きや控除額の計算方法などがあいまいになり、社員とトラブルが発生するおそれがあります。
また、多くの企業では就業規則に休職制度を定めています。
会社が認める休職の期間や、休職中の給与、復職を認める条件、休職期間中に復職ができない場合は自然退職または解雇になるなどを定めているケースが多いです。
就業規則を周知しなければ、休職についてのルールがあいまいになり、休職に関して争いとなる可能性があります。
副業や禁止行為の制限ができない
会社で働きながら副業をする人は増えています。
しかし、社員が副業を長時間行った結果、本業の仕事がおろそかになったり、競合他社に会社の機密情報が漏えいしたりする危険性があります。
これらのリスクを避けるためには、副業を許可制にして、副業の時間や業務内容を確認したうえで、許可するか否か判断するシステムを就業規則で定める必要があります。
就業規則が周知されていなければ、副業についてのルールは存在せず、副業は社員の自由に任せられている状況となります。その結果、無断で副業されて社員のパフォーマンスが低下したり、競合他社に情報が漏れたりするなどの不利益を受けるおそれがあります。
就業規則の閲覧に関する企業の注意点
就業規則を社員に閲覧させるときの注意点として、以下が挙げられます。
- 就業規則を閲覧させる労働者の範囲
- 就業規則の閲覧時にコピーを求められた場合
- 就業規則を紛失してしまった場合
就業規則を閲覧させる労働者の範囲
就業規則は、事業場で働くすべての労働者が閲覧できるようにする必要があります。
正社員や契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象です。
特定の社員だけ、管理職だけなど一部の社員だけに周知している場合は、就業規則が無効となるためご注意ください。
もっとも、業務委託や請負契約を結んでいる方は、一般的には自社の社員とはいわないため、就業規則を周知する必要はありません。
また、派遣社員についても、派遣社員の雇用主は派遣元であるため、周知義務はありません。
ただし、派遣元の就業規則に「派遣先の就業規則の遵守」などの内容が明記されている場合は、適用される部分を周知することが望ましいと考えられます。
就業規則の閲覧時にコピーを求められた場合
就業規則の閲覧時に、コピーの交付にまで応じる義務はありません。
就業規則を社内専用のWEBサイトに掲載していても、コピー制限をかけている企業もあります。
コピーに応じるかどうかは会社の判断に任せられます。
なお、就業規則のコピーに応じると、社員が外部に持ち出してしまうことが可能となります。コピーを第三者に渡したり、ネット上に出したりする社員が出てくる場合もあります。
就業規則を社外秘としたい場合は、就業規則に定めて、あくまでも会社内でのみ閲覧可能と制限するなどの対応が求められます。また、就業規則の重要性や持ち出しによるリスクを社員に伝えて、理解を得ることも大切です。
就業規則を紛失してしまった場合
就業規則のデータを紛失した場合、速やかにデータを復旧しなければなりません。
就業規則が手元にないということは、現状で社員への就業規則の周知ができておらず、労働基準法に違反することになるからです。また、労働基準監督署に届け出ているから再発行してもらえるのではないかと思われがちですが、労基署では就業規則の再発行はしてくれません。
そのため、データ復旧のめどがたたない場合は、就業規則を再作成し、再度労基署に届け出る必要があります。
就業規則のデータは、紛失を防ぐためにバックアップを必ず取り、原本は厳重に保管しましょう。
データで保管する場合は、パスワードを設定するなど、不正アクセスや改ざんを防ぐ対策も必要です。
就業規則の閲覧におけるご不明点は弁護士にご相談ください
就業規則には周知義務があり、すべての社員が閲覧できるようにしなくてはなりません。
閲覧できないと、就業規則の効力が認められない、懲戒処分ができないなど多くのリスクを受ける可能性があります。
就業規則のベースは「法律」ですので、就業規則の閲覧についてご不明な点がある場合は、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGには、労働法務を得意とする弁護士が多く在籍しており、就業規則についての専門知識やノウハウが蓄積されています。
就業規則の閲覧方法のアドバイスはもちろんのこと、法的トラブルを未然に防ぐ就業規則の作成まで、幅広いサポートを提供することが可能です。ぜひご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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