就業規則
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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
就業規則は、労働基準法などの法改正時や働き方の変更などの際に必ず必要となります。就業規則変更には従業員代表者の意見聴取や労働基準監督署(労基署)への届出、従業員への周知といった手続きが必要となるため、正しい知識をもつことが大切です。
もし、手続きを誤れば、就業規則の変更が「無効」と判断されたり、労務トラブルに発展するリスクが生じます。本稿では、就業規則変更の手続きの流れや見直すタイミング、注意すべきポイントなどをわかりやすく解説します。
目次
就業規則の変更手続きの流れ
就業規則の変更手続きは、基本的に以下の流れで行います。
- 就業規則変更の必要性を確認
- 変更内容の検討・不利益性の確認
- 従業員代表者からの意見聴取
- 就業規則の変更に必要な書類の準備
- 労働基準監督署への届出
- 従業員への周知
単に規則を書き換えるだけでは効力がなく、法的に有効とするにはこの手続きを踏み、従業員へ適切に周知することが不可欠です。
手続きの各ステップについて以降で詳しく解説していきます。
①就業規則変更の必要性を確認
就業規則は会社のルールブックであり、内容が実情に合っていないとトラブルの原因になります。
例えば、懲戒規定が曖昧なため懲戒処分が不当と争われたり、休職や復職の基準が不明確で紛争に発展するケースがあります。
また、法改正に対応していない規定を放置することも、労務リスクを伴います。法改正への対応、働き方の多様化、制度の不備解消など、目的に応じて適宜、就業規則を見直しましょう。
②変更内容の検討・不利益性の確認
就業規則を変更する際は、まず変更内容を具体的に検討し、条文として明文化することから始めます。
その際、現行の規定との整合性を確認し、矛盾や重複がないかを点検します。特に労働時間、賃金、退職金など労働条件に関わる部分は、変更によって従業員の不利益になる可能性があり、特に注意が必要です。
もし不利益変更に該当する場合は、従業員との合意、もしくは労働契約法第10条に基づく「合理性」が求められます。
合理性の判断は、変更の必要性、不利益の程度、代替措置の有無、労使交渉の経緯などを総合的に考慮して行われます。
③従業員代表者からの意見聴取
就業規則を変更する際には、労働組合がある場合はその組合、ない場合は従業員の過半数代表者から意見を聴取する必要があります。
ここで重要なのは、過半数代表者は会社の指名などではなく、投票や挙手など民主的な手続きで選出されていることが必要です。適正に選ばれた代表者に対し、会社は就業規則の変更案を提示し、その背景や目的を伝えた上で意見を求めます。
変更後の就業規則を労基署へ提出する際には、この従業員代表の意見をまとめた「意見書」を添付しなければなりません。意見書は賛否を問わず必要であり、反対意見が記載されていても届出は可能です。
④就業規則の変更に必要な書類の準備
変更後の就業規則を届出する際の就業規則変更届や意見書は、厚生労働省の公式サイトからダウンロードができます。届出する際には以下の書類を準備しましょう。
- 就業規則変更届(指定様式)
- 変更後の就業規則全文
- 従業員代表者の意見書
- 新旧対照表(任意)
新旧対照表は変更部分を分かりやすくまとめた一覧表です。届出は任意ですが、従業員への説明にも適していますので、可能であれば作成するとよいでしょう。
変更箇所が少ない場合などは規則全文の代わりに新旧対照表を提出することも可能です。
⑤労働基準監督署への届出
就業規則の変更に必要な書類を整えたら、所轄の労基署へ届出を行います。窓口に持参する場合は、就業規則変更届・変更後の就業規則全文・意見書をそれぞれ正副2部ずつ用意します。
1部には受領印を押してもらい会社控えとして保管しましょう。不備があればその場で指摘を受けられるため、初めての届出や不安がある場合は持参が望ましいです。
郵送による提出も可能ですが、その際は返信用封筒を同封して控えを返送してもらう必要があります。
さらに、近年ではe-Govを利用した電子申請も広く利用されており、移動や郵送の手間を省ける点で効率的です。
⑥従業員への周知
就業規則は、労働基準法106条第1項により労働者への周知が義務づけられています。
つまり、労基署へ届出をしても、従業員が内容を確認できなければ変更内容は無効とされる可能性があります。周知の方法としては、以下のいずれかが代表的です。
- 社内イントラネットに掲載するなどデジタルデータとして記録し、常時閲覧可能にする
- 書面を各従業員に交付する
- 事業場の見やすい場所に掲示または備え付ける
これらはいずれも「いつでも従業員が確認できる状態」であることが重要となります。また、必要に応じて変更に関する説明会を実施し、従業員の理解を深めるようにすることが望まれます。
「就業規則変更届」と「意見書」の記入例
就業規則の変更を届出する際には、労基署へ「就業規則変更届」と「意見書」を提出する必要があります。就業規則変更届には以下の内容を記載します。
【就業規則変更届】
- 就業規則の主な変更事項
- 労働保険番号
- 事業場名・所在地・使用者氏名
- 労働者数・業種
一方、意見書には次の事項を記載します。
【意見書】
- 従業員代表者名・職名
- 選出方法(投票など民主的手続き)
- 就業規則変更案に対する意見(賛否いずれも可)
- 意見書作成年月日
意見書は異議がなくても必ず添付が必要ですので注意しましょう。
また、各書式の参考様式は厚生労働省の公式ページからダウンロード可能です。
就業規則の変更や見直しが必要なタイミングは?
就業規則は一度作成すれば終わりではありません。社内体制の変更や法改正など様々な場面で見直しが必要となります。
一般的に就業規則の変更や見直しが必要となるタイミングは、以下の通りです。
- 法改正への対応が必要なとき
- 労働条件を変更するとき
- 新たな制度・働き方を導入するとき
- 組織変更や経営方針の転換があったとき
- 就業規則の不備や問題が発覚したとき
各ポイントについて、以降で解説していきます。
法改正への対応が必要なとき
就業規則は、社会や法律の変化に応じて見直す必要があります。特に労働基準法や育児・介護休業法など、労働関係法令は頻繁に改正されるため、就業規則を見直さずに放置すると現行法と矛盾することになります。
例えば、令和7年4月からは育児・介護休業法の改正により「子の看護休暇」の対象年齢や取得事由が拡大され、その10月以降も柔軟な働き方を実現させる措置などが義務化されました。
法改正に適切に対応することは、会社のコンプライアンスを守るだけでなく、従業員との信頼関係にも繋がりますので、適切に対処しましょう。
労働条件を変更するとき
従業員全体の労働条件を変更する場合、就業規則の改定を伴うことが一般的です。労働基準法第89条は、賃金や労働時間などの労働条件を就業規則の「絶対的必要記載事項」として規定しています。
そのため、これらを変更する場合は必ず就業規則にもその内容を反映させなければなりません。
例えば、賃金体系を変更する、退職金制度を見直す、所定労働時間の見直し、賃金の締日や支払日の変更等といったケースが該当します。労働条件の変更は、場合によっては従業員に不利益となる可能性もあるため、変更する際には注意して行いましょう。
新たな制度・働き方を導入するとき
会社がテレワークやフレックスタイム制、副業制度など新しい制度を導入する場合には、就業規則の改正が必要です。制度によっては、就業規則に明記されていなければ法的効力を持たないものもありますので注意しましょう。
また、制度の詳細を規定せず曖昧なまま運用してしまうと、賃金未払いなどに繋がるおそれもあり、労使トラブルの原因となり得ます。
例えば、テレワークでは勤務時間の管理方法や費用負担、副業では事前届出や競業禁止の範囲、フレックス制では清算期間やコアタイムの設定などを規定する必要があります。定年年齢を変更する場合も、退職規定を見直すなどの対応が必要です。
組織変更や経営方針の転換があったとき
会社がM&Aや部署の統廃合、経営状態の悪化に伴う方針転換を行う場合、従来の就業規則が実態に合わなくなることがあります。
例えば、合併により勤務場所や勤務体系が変わる場合、部署再編で役職や職務内容が大きく変わる場合、あるいは経営悪化に伴い評価制度や賃金体系を見直す場合などが考えられます。
もし、このような状況で就業規則を見直さずに放置すると、従業員との間で「規則と実態の乖離」が生じ、労務トラブルの原因となり得ます。
そのため、組織変更や経営方針の転換があった際には、必ず就業規則を点検し、必要に応じて改正することが重要です。
就業規則の不備や問題が発覚したとき
就業規則に不備があると、従業員とのトラブルなどの原因になる可能性があります。例えば懲戒処分の基準を曖昧に定めていた場合には、懲戒処分ができない、もしくは処分無効と判断されるリスクを伴います。
また、残業代の計算方法が間違えている場合には、未払い賃金問題に繋がってしまいます。そのほか解雇に関する規定についても、不備があればトラブルの元になり得るでしょう。
就業規則にこのような不備や問題が発覚した場合は、速やかに就業規則を見直して整備することが重要です。
従業員が就業規則の変更に同意しない場合の対応
就業規則の変更について、法律上は従業員の意見を聞くことを義務としていますが、同意までは要件になっていません。そのため、従業員が反対しても原則として就業規則の変更は可能です。
ただし、同意不要だからといって一方的に変更を進めれば、従業員の会社への不信感やトラブルにつながるおそれがあります。変更内容によっては、退職者が増加してしまう可能性も考えられます。
そのため、同意は得られずとも、説明会を開いて丁寧に説明するなど、従業員からの納得が得られるようにすることが重要です。場合によっては、個別に同意書を取り交わすことを検討してもよいでしょう。
就業規則を勝手に変更することはできるのか?
就業規則は会社の一方的な都合で勝手に変えられるものではありません。労働基準法により、就業規則変更時には従業員代表者等から意見を聴取し、その意見書を添えて労基署へ届出する必要があります。
また、単に変更後の就業規則を「周知」しただけでは法的効力をもたないケースもあります。周知の方法が、形式的で適切でない場合などは法的要件を満たしたことになりません。
また、就業規則の変更が労働条件に関わる不利益変更の場合には、労働契約法第10条に基づき「合理性」が求められます。
従業員に不利益があるような就業規則の変更はできるのか?
就業規則の変更が従業員に不利益となる場合、原則として個別の同意が必要です。
ただし、「合理性」が認められ、かつ変更後の就業規則を従業員へ周知したときは、同意がなくても有効とされます。合理性の判断基準には、次のような要素があります。
- 労働者が受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合などとの交渉の状況
これらを総合的に考慮し、合理的と認められる場合に限り、不利益変更は許容されます。逆に、合理性を欠く変更は無効となり、従業員から損害賠償請求を受けるリスクもあります。
不利益変更を伴う場合には、その必要性を十分に検討したうえで、対策を講じることが不可欠です。
就業規則を変更する際の注意点
就業規則を変更する際には、以下の点に注意が必要です。
- 就業規則を変更したら従業員に周知徹底する
- 届出期限はないが遅れると罰則がある
- 変更の手続きは事業場ごとに行う
各注意点について確認しておきましょう。
就業規則を変更したら従業員に周知徹底する
就業規則が法的効力をもつには、「労働者にその内容を周知する」ことが要件とされています。
つまり、労基署に届出をしても、従業員が内容を確認できなければ変更内容は法的拘束力をもちません。
また、従業員がいつでも内容を確認できる状態でなければ、実質的には周知されていないと判断されるおそれがあります。
近年ではデジタルデータによる周知も増えていますが、その閲覧が制限されている場合などは、周知したとはいえないでしょう。
届出期限はないが遅れると罰則がある
就業規則の変更については、労働基準法上、労基署へ届け出ることが義務付けられていますが、法律上、明確に「何日以内」といった期限は定められていません。
ただし、実務上は施行日までに提出するのが原則といえます。もし就業規則の届出を怠った場合には、労働基準法違反となりますので、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
就業規則の改正が完了したら速やかに労基署へ届出を行いましょう。なお、従業員が常時10人未満の事業場であれば、就業規則を作成しても届出は義務づけられていません。
変更の手続きは事業場ごとに行う
就業規則は、労働基準法上「事業場ごと」に適用されるため、変更手続きも各事業場単位で行う必要があります。
つまり、本社と支店で同じ規則を用いていても、原則としてそれぞれの事業場が労基署へ個別に届出をしなければなりません。また、従業員代表者の意見聴取も各々で実施する必要があります。
ただし、規則の内容が全事業場で同一であるなど一定の要件を満たす場合には、本社で一括届出を行う制度も認められています。
この場合は、本社を管轄する労基署へ通常の書類に加えて、各事業場の所在地等を記した届出事業場一覧表を添付する必要があります。
就業規則の変更の有効性が争われた判例
事件の概要
(平成21年(ワ)46930号・平成24年3月21日・東京地方裁判所・第一審)
本事案は、国際総合空港貨物輸送を行うY社に雇用されていた従業員XらがY社の行った就業規則の変更は不利益変更にあたるとして、その法的効力を争った事件です。
Y社は経費節減施策の一環として、会社の休日を4日間削減し、それに伴い就業規則を変更しました。また、就業規則変更に先立ち、従業員に対して対象となる4日間の休日を廃止し、恒常的に通常の労働日とする旨を伝えました。
その後、社内パソコンから従業員であれば誰でも閲覧できる状態で変更後の就業規則全文を掲載し、周知としました。この就業規則の変更に対し従業員Xらは、休日を削減するという不利益変更は不当であるとしてY社を訴えました。
裁判所の判断
本事案について裁判所は、所定休日が廃止されたことにより、年間所定労働時間が増加し、賃金カットと同様の効果が生じていることから、就業規則の変更は不利益変更にあたるとしました。
また、労働者の受ける不利益の程度について、必ずしもその程度は小さいとはいえないと判断しました。加えて、Y社の経費削減施策の必要性は認められても、労働者へ不利益を受忍させる高度な必要性までは認められないとしました。
変更後の就業規則の内容の相当性についても疑問が残ることや、労働組合等との交渉経緯などを踏まえ、裁判所は、労働契約法第10条の合理性の要件を満たしているとはいえないと判示しました。
労働者との合意なく、かつ合理性が認められない就業規則の変更には法的拘束力が生じないとして、就業規則変更による休日の廃止は無効という判決になりました。
ポイント・解説
本事案では判断の枠組みとして、労働契約法9条および10条を踏まえて、就業規則変更の例外対応の有効性を判断しています。
労働者との合意なく、就業規則の不利益変更を行うには、以下の点について合理性を要するとしており、不利益変更を行う場合には、その全てについて慎重な検討が必要となります。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他就業規則の変更に係わる事情
本事案でY社はこれらの合理性の検討を行っていましたが、裁判所においては認められず、結果として就業規則の変更は無効となりました。
合理性の判断には高度な専門知識が必要となるため、就業規則の不利益変更が必要な場合は、早めに労働問題に精通した弁護士へ相談することが重要となります。
就業規則の変更についてご不明な点は弁護士にご相談ください
就業規則は社内体制を健全化するためのルールブックであり、法改正や働き方の変化に応じて定期的に見直すことが大切です。
もし、不備や不適切な規定を放置すれば、労働基準法違反や無効リスク、さらには従業員との紛争に発展するおそれがあります。
そのため、変更時には最新の法令を確認し、従業員代表者の意見聴取や労基署への届出など、正しい手続きを踏むことが必要となります。
就業規則の変更の際には、専門知識を持つ弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGでは、労務問題に精通した弁護士が多数在籍し、就業規則のリーガルチェックはもちろん、変更手続きや不利益変更のリスクなど幅広く対応しておりますので、安心してご相談頂けます。就業規則の変更についてご不明点があれば、ぜひ私どもにご相談下さい。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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