就業規則
#副業
#労働条件
#退職
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
就業規則は、従業員の働き方や職場のルールを定める会社の重要な文書であり、適切に運用されることで法的効力を持ちます。
そのため、内容の周知や改定は慎重かつ適切に行う必要があります。しかし、必要な手続きを怠ったり、内容に問題がある就業規則では法的効力が認められず、思わぬトラブルを招く可能性すらあります。
会社の秩序を守るためにも、就業規則は法律に則って適切に作成・運用することが肝要です。
本稿では、就業規則の効力や効力を発生させるための要件、退職後の効力、実際にどこまで効力が認められるかなど、知っておくべきポイントを網羅的に解説していきます。
目次
就業規則の効力とは
就業規則は、会社の秩序を維持したり、従業員の労働条件等を定めるものであり、主に以下のような法的効力を持ちます。
- 従業員の労働条件を規律する効力
- 従業員の労働条件を変更する効力
- 労働契約の最低基準を決定する効力
これらの法的効力について、以下で詳しく解説していきます。
従業員の労働条件を規律する効力
就業規則は、従業員の労働時間、賃金、休日、休暇、服務規律、懲戒など、労働条件全般を規律する効力を持ちます。
これは、労働契約法第7条に定められており、就業規則が合理的な労働条件を定め、かつ従業員に周知されている場合、その内容が個々の労働契約の内容となることを意味します。
具体的には、就業規則に「始業・終業時刻は午前9時~午後6時」と定められていれば、従業員は原則としてこの時間帯に勤務する必要があります。
また、「遅刻・欠勤を繰り返す従業員は減給処分とする」と定められていれば、懲戒事由に該当する従業員は減給される可能性が生じます。
このように、就業規則は個々の労働契約を補充する役割を担い、労働条件の基準を明確にします。ただし、就業規則の内容が労働基準法等の法令に違反する場合等は、その効力が制限されることがあります。
従業員の労働条件を変更する効力
就業規則が従業員の労働条件を変更する効力とは、会社が就業規則を変更することで、従業員個々の労働条件を変更できるというものです。
労働契約法10条では、就業規則の変更が合理的な場合には、労使間の個別合意がなくとも変更内容が個々の労働契約にも反映されるとしています。
例えば、会社が業務上の必要性などの合理的な理由を踏まえて就業規則を改定し、その内容が社会的に見ても妥当と認められる場合は、従業員の同意がなくても新たな就業規則の内容が労働条件となります。
ただし、労働条件を従業員にとって不利益な方向に変更する場合は高いハードルがあります。
就業規則の不利益変更が認められるには、その変更内容の必要性や変更内容が社会通念上相当であることや、従業員への十分な説明と同意等を踏まえて厳しく判断されます。
労働契約の最低基準を決定する効力
就業規則には、労働条件の最低ラインを決める効力があります(労働契約法第12条)。
これは、会社が定めた就業規則の内容が、個別の契約よりも従業員にとって有利な場合にはその有利な条件が優先的に適用される、ということを意味します。
例えば、契約書に書かれた賃金よりも、就業規則に定められた賃金水準の方が高ければ、個別契約の賃金は無効となり、就業規則の賃金水準が適用されます。
反対に、個別契約の内容が就業規則よりも有利な場合は、契約書の内容が優先されます。ただし、就業規則や労働契約の内容は、労働基準法などの法律を下回ることはできません。
労働基準法は、労働者の権利を守るために労働条件の最低基準を定めているため、労働基準法に反した内容は即無効となり、法律の水準が強制適用されます。
就業規則は会社のルールブックであるため独自の内容が含まれるものですが、労働基準法などの法律を遵守した内容である必要があります。
就業規則の効力を発生させる要件
就業規則の効力を実際に発生させるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。具体的には、以下のポイントを押さえて作成することが大切です。
- 絶対的必要記載事項:労働時間や賃金、休日など、就業規則に必ず記載しなければならない項目が盛り込まれていること
- 相対的必要記載事項:退職金や表彰・制裁など、会社が独自に定める事項があれば、それも記載されていること
- 労働条件の合理性:内容が社会通念上、従業員にとっても妥当で無理がない範囲であること
- 意見聴取:作成や変更の際には、労働組合もしくは従業員の過半数を代表する者から意見を聞くこと
- 周知義務:すべての従業員がいつでも就業規則を確認できるようにすること
- 労働基準監督署への届出:従業員が常時10人以上いる事業場は、作成または変更後に管轄の労働基準監督署へ届け出ていること
これらの要件を満たしていない就業規則は、作成していても法的拘束力が認められない可能性があります。就業規則を形骸化させないためにも、これらの手順や規定内容は慎重に取り扱うようにしましょう。
就業規則の効力はいつから発生する?
就業規則の効力が発生するタイミングは、会社がその内容を従業員に伝えた日、つまり「周知した日」からとなります。
たんに就業規則を作成したり、労働基準監督署に届け出ただけでは効力は発生しません。
周知とは、全ての従業員に対して、就業規則の全文を掲示したり、配布したり、電子データで閲覧できるようにするなどをいいます。
自由に就業規則の内容を確認できる状態にして初めて、就業規則に定めたルールが会社内で効力を持つようになります。
もし、適切に周知が行われていない場合には、たとえ内容が法律に則っていても就業規則の効力が認められない可能性があります。
就業規則の効力は退職後も及ぶのか?
退職した従業員に対して、就業規則の効力は原則として及びません。つまり、会社を辞めた後は通常、就業規則による制約を受けることはありません。
しかし、例外として「競業避止義務」や「秘密保持義務」については、一定の場合、退職後も効力が認められる場合があります。
競業避止義務とは、従業員が退職後に会社の競合他社で働いたり、自ら同業のビジネスを始めるなど、会社の利益を不当に侵害してはならないという義務です。
ただし、従業員の退職後の職業選択の自由を制約してしまう反面もあるため、競業避止義務はその制限が必要かつ合理的な範囲でなければならないとされています。
つまり、従業員の不利益が大きい等と判断された場合には、競業避止義務は無効になります。
また、秘密保持義務は、従業員が業務で知り得た会社の機密情報や顧客情報などを、退職後も外部に漏らさないことを求める義務です。
競業避止義務に比べて秘密保持義務は比較的広く認められており、適切に定められていれば就業規則に基づき退職後も守るべきとされています。
就業規則の届出や周知をしていない場合の効力
就業規則を作成した際、労働基準監督署への届出がなくても、その規則自体の効力が直ちに失われるわけではありません。
つまり、届出がされていなくても、一定の条件を満たせば就業規則は有効とされます。
就業規則の有効性に必要なのは、従業員への周知です。適切に周知がされていない就業規則は、たとえ労働基準監督署に届出がされていたとしても、法的効力を有しません。
周知義務とは、就業規則を従業員がいつでも見たり確認できるように、会社内に掲示したり、書面で配布したり、パソコンなどで閲覧できるようにすることを指します。
従業員がきちんと規則の内容を把握できる体制を整えていない場合、会社が就業規則を根拠として従業員へ主張することはできませんので、必ず周知を徹底しましょう。
周知違反は罰金の可能性がある
就業規則を作成した場合、会社には労働基準監督署への届出と、従業員への内容の周知という2つの義務が課せられています。
これらの義務を守らなかった場合には法令違反となり、罰則を受ける可能性があります。
ただちに罰則を受けるケースは稀ですが、労働基準監督署からの是正勧告に応じないなど悪質性がみられれば、30万円以下の罰金が科されることもあります。
しかし、周知義務違反のリスクはこれだけではありません。
届出や周知を怠っていた場合、就業規則の有効性が認められず、会社と従業員の間でトラブルが発生した際も会社側の言い分が認められず、不利になるおそれがあります。
就業規則の周知義務違反に関する判例
(平成29年(ワ)第42089号・平成31年3月25日・東京地方裁判所)
人材派遣会社であるY社に勤務していたXらが、Y社の就業規則に反し、退職後に競業他社へ就職し、業務執行社員に就任しました。
さらにY社から人材を引き抜きY社の取引先へ派遣するなどを行い、Y社の顧客を奪う行為であるとして、Y社はXに対し不法行為に基づく損害賠償請求を行いました。
しかし、Y社では就業規則を社内PCの共有フォルダに電子ファイルとして保管してはいたものの、従業員に対して保存場所や内容の確認方法を従業員に説明していたとはいえず、就業規則の周知義務は認められませんでした。
就業規則の周知が適切に行われていなければ法的拘束力を有することにならず、本件では守秘義務や競業禁止規定は従業員に対して効力を持たないと判断されました。
就業規則を有効に運用するには、適切な周知方法が不可欠となります。
電子データによる周知も一般的となっていますが、その際には保管場所や閲覧方法等を従業員へ説明し、就業規則へのアクセス方法を紙面で交付するなどを行っておくとよいでしょう。
労働条件における就業規則の優先順位
労働条件の定めは契約書や就業規則などに記載されていることが多いですが、これらのルールには優先順位があります。従業員と雇用契約を締結する場合の労働条件について、どの基準が上位にくるかは次の通りです。
- 【法令】:労働基準法や最低賃金法など、強制力のある法律です。全ての労働契約や規則より優先される最低基準です。
- 【労働協約】:会社と労働組合との間で結ばれる約束事で、法令の範囲内で労働条件を定め、就業規則や個別契約より上位となります。
- 【就業規則】:会社が定める職場全体のルールです。従業員全員に適用されます。
- 【労働契約】:会社と従業員が個別に交わす契約です。ただし、上記①~③に反する内容は認められませんが、上回る条件であれば可能です。
例えば、就業規則で労働基準法を下回る低い賃金や、法定外の長時間労働を定めたとしても、その部分は無効となり、法令や労働協約の内容に沿って補正されます。
就業規則はどこまで効力が認められるか?
就業規則は会社の働くルールを定めるものですが、その効力が認められるためには、内容が社会一般的に見て合理的であり、かつ法律に違反していないことが大前提です。
不合理な内容や法律の最低条件を下回るルールを設けた場合は、その部分は無効となります。
具体的には、法定労働時間を超える長時間労働や、最低賃金を下回る給与水準などは法に反するため効力をもちません。
退職を制限する規定は無効?
就業規則で従業員の退職を過度に制限する規定は、基本的に無効とされています。これは、労働者には自分の意思で仕事を辞める自由が憲法で認められているからです。
たとえば、「一定期間は絶対に退職できない」や「退職した場合に高額な違約金を払わせる」などのルールは、過度の制限となるため認められません。
例外的に、業務の継続に配慮して「退職する場合は1ヶ月以上前に申し出ること」といった引継ぎ等の手続きのために規定することは可能ですが、民法に定められた2週間という期間を超えて無理強いすることはできません。
従業員の意思を不当に縛る内容は、法的にも無効となりますので、就業規則を作る際にも注意しましょう。
副業を制限する規定は無効?
就業規則で「副業を全面的に禁止する」といった一律の禁止規定は、無効とされる可能性が高いでしょう。
なぜなら、従業員が勤務時間外にどのように過ごすかは会社の支配が及ぶところではなく、原則自由であると考えられているためです。
全面禁止のルールは、従業員の生活やキャリアの選択肢を不当に制限するものとなり、近年の社会的背景にもそぐわないといえるでしょう。
ただし、例外として「会社の業務に支障をきたす場合」や「会社の秘密情報が漏れる恐れがある場合」、「競合他社での勤務によって会社の利益を損なう場合」などは、副業を制限することができると考えられます。このような場合には、会社として副業を認めることはできないと就業規則に定めることは、合理的といえます。
ただし、副業の制限内容は、必要最小限にとどめておいたほうがよいでしょう。
副業の禁止について、詳しくは以下のページをご覧ください。
さらに詳しく副業禁止に違反した従業員を解雇できる?認められないケースや注意点など正社員以外にも就業規則の効力は及ぶ?
就業規則は、正社員だけのものではありません。アルバイト、パート、契約社員、派遣社員など、雇用形態に関わらず、会社で働くすべての人に適用させることができます。
就業規則の中で、誰にどのルールを適用させるかを任意事項として定めることも可能です。
ただし、アルバイトやパートなど、正社員以外の従業員に正社員の就業規則を適用せず、労働時間や賃金など、労働条件に関する一律のルールを定めるためには、別途、アルバイトやパート専用の就業規則を作成する必要があります。
アルバイトやパート専用の就業規則がないと、正社員と同じ就業規則が適用されることになります。
その場合、アルバイトやパートには適用できないような規定(例えば、転勤に関する規定など)も適用されることになりかねません。
従業員の雇用形態に合わせて、適切な就業規則を作成・運用することで、労使間の誤解やトラブルを防ぐことができ、スムーズな労務管理に繋がります。
従業員10人未満の会社でも効力は発生する?
従業員が10人未満の会社は、法律上は就業規則を作成する義務はありません。しかし、10人未満であっても、就業規則を作成し、内容を従業員に周知し、届出するなど必要な手続きを踏んでいれば、法的拘束力は発生します。
就業規則を作成することで、会社内のルールや労働条件を明確にし、労使トラブルを予防したり公正な職場環境が整うなどの効果が期待できます。
人数が少ない会社であっても、就業規則を作成・運用することをおすすめします。
有効な就業規則を作成するなら弁護士にご相談ください
就業規則は、会社のルールを定めた非常に重要な書類です。
社内の規律保持や従業員の労働条件の明確化などの効果がありますが、内容に不備や法令違反があると、その部分については無効と判断されてしまいます。万が一、不適切な就業規則を運用していた場合、労使間で認識の齟齬が生まれるなど労働トラブルや訴訟に発展するおそれもあります。
こうしたリスクを避けるためにも、法的に有効で実態に合った就業規則を作成することが非常に重要となります。
就業規則を作成する際は、弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士に依頼することで、複雑な法律や度重なる法改正にも対応したアドバイスが受けられ、会社の状況に適したルールづくりが可能となります。弁護士法人ALGでは、数多くの就業規則作成や労務相談の実績があり、経験に基づいて適切な対応を行います。
就業規則の運用や作成にお悩みがあれば、お気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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