解雇
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#解雇
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
副業を禁止する会社で、社員による副業禁止違反が判明した場合に、解雇できるのかという疑問が生じるかもしれません。確かに、社員には本業に専念する義務があるため、厳しく処分したいというお気持ちは分かりますが、本来、副業は自由が原則です。本業に支障を与える場合や、企業秘密が流出するリスクがある場合など、正当な理由がない限りは、副業禁止違反を理由とした解雇は認められないと考えられています。
不当解雇によって会社が受けるダメージは大きいため、副業を行う社員を解雇する場合は、慎重な判断が求められます。
このページでは
- 副業禁止違反を理由とした解雇が認められるケース
- 解雇を検討する場合の注意点
などについて解説していきます。
目次
そもそも副業(兼業)を禁止することはできる?
就業規則などで会社が副業(兼業)を全面的に禁止することは困難です。なぜなら、憲法22条により職業選択の自由が保障され、副業を禁止する法律も存在しないためです。
ただし、正当な範囲内であれば、副業を禁止することができるというのが裁判所の考え方です。
副業は原則自由ではあるものの、すべての副業を一律に許可してしまうと、会社側に悪影響を与えるおそれがあるからです。例えば、社員が深夜に長時間のアルバイトを行うと、睡眠不足となり、集中力の低下やミスの増加を引き起こす可能性があります。このような会社に痛手となる副業については、就業規則などで制限または禁止することが認められています。
副業禁止違反を理由とした解雇が認められるケースとは?
過去の裁判例の動向から、副業禁止違反を理由とした解雇が認められるケースとして、以下が考えられます。
- 業務時間中に副業をしているケース
- 副業の影響で本業に支障をきたすケース
- 競合他社で副業をしているケース
- 本業の社会的信用を低下させるケース
以下で詳しく見ていきましょう。
①業務時間中に副業をしているケース
本業の業務時間中に隠れて副業を行うことは、職務専念義務に違反する行為であるため、解雇の対象となります。
例えば、テレワーク中のSEが、個人で請け負った仕事も同時に行っているような場合が挙げられます。
労働者は会社と雇用契約を結ぶことにより、契約によって決められた時間内において、会社の指揮命令に従って本業に専念しなければならないという「職務専念義務」を負うことになります。
就業時間内に副業を行うことは職務専念義務違反であり、かつ実際に本業でのパフォーマンスにも支障が生じているならば、正当な解雇理由として認められるものと考えられます。
②副業の影響で本業に支障をきたすケース
本業の業務時間外に副業していた場合でも、深夜や連日にわたる副業などを行い、本業の仕事に支障が生じている場合は、解雇の正当な理由となり得ます。
例えば、日中の時間帯を本業の会社で働き、その後夜に長時間の副業をすると、疲労がたまり、遅刻や欠勤、業務上のミスを繰り返すおそれがあります。このような本業の遂行に支障をきたす問題社員は、解雇の対象となります。
ただし、注意点として、本業を回せていないという問題点を本人に具体的に指摘し、注意指導の段階を踏んでから懲戒処分や解雇といったペナルティを下すことが必要です。何ら改善指導せずいきなり解雇すると、解雇無効となる可能性があるためご注意ください。
③競合他社で副業をしているケース
競合他社での副業については、意図するかしないかにかかわらず、本業の会社の機密情報が漏えいするリスクが高いため、解雇の正当な理由となり得ます。
労働者は会社と雇用契約を結ぶと同時に、会社に不利益となる行為をしてはならないという「競業避止義務」を負うことになります。競合他社で副業したり、自ら競合する会社を設立したりすることは競業避止義務に違反する行為であり、企業秘密の漏えいや顧客の横取りなど、会社に大きな損失を与えるおそれがあるため、解雇の対象となります。
また、競合他社での副業により、本業の売上を減少させていたことが判明したときは、副業していた社員に対する損害賠償請求を検討すべき場合もあります。
④本業の社会的信用を低下させるケース
本業の社会的信用を低下させるような副業についても、解雇の対象となります。
例えば、反社会的勢力との関連が疑われる会社での副業、詐欺など法違反となる副業、風俗などの副業を行っていた場合は、本業の社会的信用を傷つけるリスクが高いです。
例えば、高いモラルを求められる金融機関に勤務しながら、風俗店でアルバイトをしていることが広まると、会社の品位が損なわれ、売上げの減少につながる可能性もあります。
なお、どのような副業が社会的信用を低下させるかは、本業の業種や規模、副業の内容などによって異なります。解雇を検討する前に、対象の副業が企業イメージにどれほどの影響を与えるのか、慎重に判断することが必要です。
副業禁止違反を理由とした解雇が認められないケースとは?
一方で、副業禁止違反を理由とした解雇が認められないケースとして、以下が挙げられます。
- 本業への影響が少ない副業をしていたケース
- 社員の副業を黙認していたケース
以下で詳しく見ていきましょう。
本業への影響が少ない副業をしていたケース
就業規則で副業を禁止する目的は、副業を行うことで本業がおろそかになることを防ぐことにあります。
そのため、副業が就業時間外に行われており、かつ本業への影響力も少ない副業であれば禁止できず、解雇することも困難です。例えば、年に数回のアルバイトや趣味の手作り品の販売、家賃収入、株式投資といった本業に支障が生じる可能性が低い副業が挙げられます。
副業が本業に与える影響の大きさについては、普段の勤務態度や勤務成績、本業の就業時間中に副業を行っていないか、副業による疲労の蓄積が本業に支障を与えていないかなどの点を踏まえて判断する必要があります。
従業員の副業を黙認していたケース
たとえ就業規則に副業禁止の規定が設けられていたとしても、副業をしていることを会社として知りながら注意しなかった場合は、会社が副業を黙認していたと判断される可能性があります。副業を黙認していた場合は、解雇という厳しいペナルティを下すことが法的に困難となります。
裁判例でも、タクシー運転手が車の船積みの副業を会社に無断で行っていたことを理由に解雇された事案につき、裁判所は社内で管理職も含めて長年堂々と副業が黙認されていた事情を踏まえて、何ら指導せずいきなり解雇したことは冷酷であるとして、不当解雇と判断しています(広島地方裁判所 昭和59年12月18日判決参照)。
副業による解雇に関する裁判例
副業を理由とした解雇が認められた判例
【平23(ワ)25441号 東京地方裁判所 平成25年2月28日判決】
(事案の内容)
ポータルサイトの運営を行うY社で働いていた社員Xが、Y社を退職して競合他社を起業した元上司から依頼を受け、競合他社の仕事を請け負い、顧客の奪取に加担したことを理由に懲戒解雇されたことを不服として、Y社を提訴した事案です。
(裁判所の判断)
裁判所は、社員Xが1年にわたり継続して競業行為に加担したこと、その内容はY社の重要顧客に関するホームページのデザイン制作という顧客の奪取にまで及んでおり、さらにY社の就業時間内にY社のパソコンを使って行ったこと、その報酬として社員Xは10万円を受け取ることにしたこと、実際に上記加担期間中におけるY社の重要顧客からの売上げが落ち込んだといった事情を踏まえ、懲戒解雇は有効であると判断しました
(判例のポイント)
競業行為は会社に対する背信性の高い行為であるため、本件のように、懲戒解雇が行われるケースは少なくありません。競業行為を理由とする懲戒解雇の有効性については、競業行為の態様や会社に生じた影響、競業を行った社員の役職などを考慮して判断する必要があります。例えば、競業行為により実際に会社の売上げが減少した場合や、管理職の社員が競業行為を行ったような場合は、厳しい処分を持って臨むべきであり、懲戒解雇の有効性もより高まると考えられます。
社内に競業行為が疑われる社員がいる場合は、まずどのような態様で競業を行っているのか、実際に会社にどのような影響を与えているのかを十分に調査し、記録化して証拠として残しておくことが重要です。
副業を理由とした解雇が違法と判断された判例
【平19(ワ)12956号 東京地方裁判所 平成20年12月5日判決】
(事案の内容)
私立大学の教授が、大学側の許可を得ることなく語学学校講師などを兼職し、大学の講義を休講したことを理由として、大学から懲戒解雇された事案です。これを不服とした教授が解雇無効と主張して大学側を提訴しました。
(裁判所の判断)
裁判所は、以下を理由として、本件懲戒解雇を無効と判断しました。
- 兼業は使用者の権限が及ばない労働者の私生活上の行為である。
- 職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務提供に特段の支障を与えない程度・態様による兼業については、就業規則の兼業制限の規定への実質的な違反に当たらないものと考えられる。
- 本件の大学教授による副業は夜間や休日に行われており、本業への支障がなかったことが認められる。
(判例のポイント)
就業規則の兼業禁止規定違反を理由に、大学が教授に対して行った懲戒解雇の有効性について争いとなった裁判例です。
裁判所は、兼業は原則として労働者が自由に行うことのできる行為であると認めた上で、兼業禁止規定に違反するケースを狭く解釈し、職場秩序や仕事への支障の大きさを実質的に考慮して、懲戒解雇の有効性を判断した点に特徴があります。兼業禁止違反を理由に懲戒処分を行う場合は、実質的な観点から労働者の兼業が就業規則違反に当たるかどうかを慎重に検討する必要があります。
副業をしていた従業員を懲戒解雇する際の注意点
副業禁止規定に違反した社員への懲戒解雇が有効となるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 就業規則の懲戒解雇事由に該当すること
- 規律違反の証拠があること
- 懲戒解雇を行うことが問題行為の内容と比べて重すぎないこと(労契法15条)
- 弁明の機会を与えること
懲戒解雇を行う場合は、本業に与える影響や会社の被る損失、改善指導歴、過去の会社の類似事案への対応との公平性などを考慮して判断する必要があります。本業への支障が少ない副業であるのに、いきなり懲戒解雇を行うことはできません。まずは譴責など軽い懲戒処分を下して様子を見ることが適切です。また、解雇を行う前に、必要な指導を行うことで改善を目指すことも求められます。
不当解雇と判断されると、会社に高額の金銭の支払いが命じられる可能性があるため、解雇は慎重に検討しましょう。
解雇以外に副業をしていた従業員を処分する方法
解雇以外に副業をしていた社員を処分する方法として、懲戒処分や退職勧奨などが挙げられます。
懲戒処分
懲戒処分の種類として、譴責、戒告、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などが挙げられます。
問題の程度に応じた処分を選択しなければ、不当な処分と判断されます。例えば、副業が原因で数回遅刻したが、反省して今後は止めると約束したような軽微な事案では、譴責や戒告など軽い処分が妥当です。退職勧奨
会社が社員に退職を勧めて、合意による退職を目指すことです。
本人の同意を得て辞めてもらうため、解雇よりも争いとなりにくいですが、無理やり退職を迫るなど行き過ぎた退職勧奨を行うと、違法な退職強要ととられる可能性があるためご注意ください。
副業によって解雇した場合の退職金の支払いについて
懲戒解雇とするときは、退職金を不支給または減額すると就業規則に設ける会社が多いです。
ただし、懲戒解雇が認められるほど悪質な副業禁止違反であったとしても、退職金を不支給・減額することができるかどうかは、さらに詳しく検討する必要があります。
なぜなら、裁判例では、これまでの長年の勤務の功績を消去する、または減少させるほどの悪質な行為でない限りは、退職金を不支給・減額してはならないと判示しているからです(東京地方裁判所 平成18年5月31日判決参照)。
副業禁止違反を理由とした解雇で、退職金を減額できるケースとしては、競合他社で副業をしていたケース、機密情報の漏えいなどによって実際に本業の会社に損害を与えたことが明らかなケース等が挙げられます。
副業を理由とした解雇でトラブルにならないためにも弁護士にご相談ください
副業を理由とする解雇については法律上多くの注意点が存在します。
例えば、どのような副業であってもすべて解雇するなどシビアな処分を下してしまうと、労働審判や裁判を起こされ、不当解雇として会社側が負けるリスクがあります。そのため、副業を目の敵にしすぎるのは危険です。
不当解雇と判断されぬよう、就業規則に副業禁止を定めるタイミングから適切に対応する必要があります。また、実際に解雇を行う場合は、特に会社側の改善指導歴が重要となります。
労働法務に精通する弁護士であれば、副業を理由とする解雇が認められるための要件や手続き方法、就業規則への規定の仕方などについて適切にご提案・アドバイスすることが可能です。ぜひご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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