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#再雇用
#労働条件
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
高年齢者雇用安定法の改正により、会社には定年引き上げや廃止、継続雇用制度(再雇用・勤務延長)の導入といった雇用確保措置が求められています。
なかでも活用事例が多いのは「再雇用制度」です。
再雇用制度では新たな条件で労働契約を締結しますが、賃金や業務内容等の条件設定は慎重に検討しなければ無効と判断されるおそれがあります。
本稿では、定年後再雇用における労働条件設定の注意点や会社のとるべき対応について分かりやすく解説します。
目次
定年後再雇用時に労働条件の変更は可能?
定年後再雇用では、賃金や勤務時間等の労働条件を定年前の内容から変更することは可能とされています。
ただし、会社がどんな条件でも自由に決めていいというわけではありません。
もし、賃金が引き下げられるのであれば、業務内容を軽くしたり、責任の範囲を狭くしたりするなど合理的な理由が必要です。仕事内容は変わらないのに賃金だけを激減させるような変更は、法的リスクを伴います。
また、労働条件の変更には、本人の合意の有無が非常に重要です。会社からの一方的な押し付けではなく、本人に丁寧に説明し、十分に理解した上で契約に合意してもらうようにしましょう。
後々のトラブルを防ぐには、労働条件変更の理由説明や、本人の納得を得られるようなプロセスが重要となります。
定年後の再雇用制度とは
定年後の再雇用制度とは、定年を迎えた社員を一度退職させた上で、新たな労働契約を結び直す制度をいいます。高年齢者雇用安定法に定められた「継続雇用制度」の一つとして、多くの会社で導入されています。
再雇用制度では、雇用形態や賃金、勤務時間等の労働条件を変更できるため、柔軟な条件設計が可能です。
定年後は嘱託社員やパート社員へと雇用形態を切り替え、業務負荷に合わせて賃金を見直すケースが多いでしょう。定年制度は正社員を対象としている場合が多く、パートや派遣社員は継続雇用制度の対象外となります。
継続雇用制度には「勤務延長制度」もありますが、こちらは退職させずに雇用を続けるため、労働条件はそのまま引き継がれることが一般的です。
定年後再雇用時の労働条件で注意すべきポイント
再雇用契約を結ぶ際、労働条件については定年前の内容から変更することが一般的です。
変更の対象となりやすい主な労働条件について、注意すべきポイントを確認しておきましょう。
- 雇用形態
- 契約更新期間
- 業務内容
- 賃金・賞与
- 勤務時間
- 有給休暇
- 就業場所
- その他の労働条件
雇用形態
定年後の再雇用では、嘱託社員や有期契約社員、パート・アルバイトなど、会社の実情や本人の希望に応じた雇用形態を設定できます。
定年以降は、本人の体力や健康面などからフルタイムではなく、週3日勤務や短時間勤務等を希望するケースもあります。本人の健康や意向に配慮した働き方を提示できれば、労使双方にとってのメリットになるでしょう。
ただし、雇用形態が変わることで、賞与の有無や福利厚生の適用範囲などが定年前とは大きく変わる場合もあります。
会社側はたんに「嘱託社員になります」と伝えるだけでなく、具体的な待遇の変更点について丁寧に説明し、本人の理解を得ることが不可欠といえます。
契約更新期間
定年後の再雇用では、1年ごとの有期労働契約として更新を繰り返す形式が一般的です。
更新の際に、業務の遂行状況や本人の健康状態を確認し、場合によっては業務内容の変更など柔軟に対応できるようにしておきましょう。
期間満了時に契約を更新しない(雇い止め)ことも可能ですが、この場合には、客観的かつ合理的な理由が必要です。
年齢等を理由とするだけでは不十分であり、更新基準に達していない事実を明確にしなければなりません。
具体的な理由もなく更新を拒否した場合には、無効と判断される可能性があります。
再雇用契約時には、「更新の有無」や「更新の判断基準(勤務成績や健康状態など)」を書面で具体的に明示し、本人へ説明しておきましょう。
定年後再雇用における解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
さらに詳しく定年後に再雇用した従業員を辞めさせることはできる?業務内容
定年後の再雇用では、個々の能力や意欲に応じて業務内容を変更することが可能です。
体力的な負担を考慮して責任や範囲を軽減させるケースが一般的ですが、専門性を活かした高度なプロジェクトへの参加といった責任の重い役割へ移行させることもできます。
ただし、業務内容を変更する際は、業務内容と賃金のバランスに注意しましょう。
責任が重くなったにもかかわらず賃金が据え置き、あるいは責任の軽減以上に賃金が大幅に下がるといった不均衡な条件変更は、不当と判断されるおそれがあります。
なお、業務内容は変更可能ですが、事務職から清掃業に変更するといった業種の変更については、合理的な裁量の範囲を逸脱し、無効と判断される可能性があり注意が必要です。
賃金・賞与
再雇用時の賃金については、定年前の金額ではなく、新たな業務内容や責任の範囲を基準として決定することが可能です。就業規則に賞与なしと規定すれば、賞与を不支給とすることも可能と考えられます。
ただし、賃金や賞与の条件変更には、同一労働同一賃金の観点から変更の合理性が求められます。
業務内容や責任の範囲が定年前と変わらないまま、賃金や賞与が大幅に引き下げとなれば、不当な待遇と判断される可能性もあるでしょう。
定年後であることを理由とした減額は認められやすい傾向にありますが、その減額幅は合理的な範囲に留まります。賃金を引き下げる場合には、その具体的な減額理由を本人に説明できるようにしておきましょう。
勤務時間
定年後の再雇用では、フルタイム勤務だけでなく、本人の希望や体力に合わせて短時間勤務や週3日勤務といった柔軟な働き方を提示することもできます。
ただし、勤務時間を短縮する際には、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件に注意が必要です。
原則として、所定労働時間が正社員の4分の3未満になった場合には、社会保険の被保険者資格を喪失してしまいます。
社会保険加入の有無によって、手取り額や年金受給額が変わるため、トラブルを防止するためにも、変更後の条件による影響は本人へ説明しておくべきでしょう。
なお、企業規模等によっては社会保険の適用拡大に該当する可能性もあります。自社の状況に即した社会保険の加入要件を確認し、本人へ説明しましょう。
有給休暇
定年後の再雇用では、事務手続き上は一度「退職」の形をとるため、有給休暇の付与要件である「6か月以上の継続勤務」についてもリセットされると思われるかもしれません。
しかし、定年後の再雇用は実態として労働関係が途切れていないため、「継続勤務」とみなされ、勤続年数についても通算する必要があります。
つまり、再雇用を機に有給休暇の残日数を消滅させたり、勤続年数をリセットして付与し直してはいけませんので注意しましょう。
ただし、労働条件変更によって所定労働日数が減る場合は、通算の勤続年数に基づいた「比例付与」となり、付与日数が異なる可能性があります。
就業場所
定年後の再雇用時に、就業場所を変更することも可能です。例えば、事務所勤務から工場勤務へ変更するといった条件提示も、業務上の必要性があれば可能と考えられます。
勤務地が変わる場合はその旨を雇用契約書に明記し、本人へ説明した上で同意を得るようにしましょう。
就業場所を変更することによって生じる社員の生活への影響も考慮すべきです。
就業場所の変更によって、通勤時間が長時間に及んだり、家庭の事情への負担増などがあれば、会社は必要な配慮をしなければなりません。
通勤手当の調整や勤務時間の変更など、就業場所の変更を円滑に行うために必要な措置を、本人の要望も踏まえて検討しましょう。
その他の労働条件
定年後の再雇用であっても、一般社員と同様、会社は安全配慮義務や災害補償等の責任を負います。
高齢による健康リスクの高まりを考慮すれば、健康診断の結果に基づいた就業制限等は、より手厚い配慮が求められるといえるでしょう。
通勤手当や住宅手当等の各種手当については、再雇用者を対象とした別規定を設けることも可能です。
ただし、同一労働同一賃金の観点から、通勤手当や精勤手当等の職務内容に直接関係しない手当まで一律に廃止・減額することは不合理と判断されるリスクがあります。
再雇用者向けの就業規則や賃金規定を整備し、不当な格差とならないよう各手当の支給目的は明確にしておきましょう。
定年後再雇用の労働条件で企業がとるべき対応
就業規則を整備する
定年後再雇用の労働条件の根拠として、再雇用者を対象とした就業規則(嘱託社員規程など)を整備しておくことが望ましいといえます。
定年によって契約が終了しても、再雇用時のルールが不明確であれば「定年前の労働条件が継続している」と主張されるリスクを伴います。
賃金体系や賞与の有無、契約更新の基準等を規定し、周知しておけば、労働条件変更の法的根拠を明確にできます。同一労働同一賃金を踏まえて、各種手当の支給・不支給の理由を整理し、減額の根拠を示せるようにしておきましょう。
再雇用者を対象とした労働条件に関する就業規則の定めについては、以下の記載例をご参考ください。
(雇用形態)
第○条 再雇用者の雇用形態は、原則として嘱託社員とする。ただし、業務上の必要性や本人の希望に応じて、協議の上、パートタイマーとすることがある。
(契約期間と更新)
第○条 嘱託社員の契約期間は、原則として1年間とする。
2.契約期間満了後、会社は嘱託社員の業務遂行状況や健康状態等を総合的に勘案した上で、契約更新を行う。
3.契約更新は満65歳に達する年度末を上限とする。
(業務内容および就業場所)
第○条 嘱託社員の業務内容は、定年前の業務経験に基づくが、会社の指示により他の業務に従事し、就業場所を変更することがある。
(就業時間・休日)
第〇条 嘱託社員の1日の勤務時間および休日については、業務上の必要性と本人の希望を勘案して会社が個別に決定する。
(年次有給休暇)
第〇条 年次有給休暇の勤続年数の算定は、正社員として就職したときより通算し、労働基準法の定めに基づき付与する。
(賃金)
第〇条 嘱託社員の賃金は、会社が定める「嘱託社員賃金規程」に基づき決定する。
(賞与)
第〇条 嘱託社員の賞与は、個別に取り決めることとする。
(退職金)
第〇条 嘱託社員が退職した場合は、退職金は支給しない。
(その他)
第〇条 本規程に定めのない事項については、労働基準法その他の法令、正社員就業規則および個別の労働契約によるものとする。
労働者の同意を得る
定年後の再雇用時に賃金や業務内容といった労働条件を変更する場合、その変更に合理性があることはもちろん、本人へ十分に説明し合意を得ることも重要です。
労働条件通知書を交付するだけで済ませるのではなく、本人へ説明の上、労使双方が書面に署名・捺印し、合意の証拠を残しておきましょう。
あとから「そんな話は聞いていない」といったトラブルを未然に防ぐことができます。
説明と同意のプロセスは、再雇用時だけでなく、契約更新や条件変更のたびに行うべきです。
面談時のやりとりや本人の要望、会社の回答や対応等を記録し、保管しておきましょう。
無期転換ルールの適用
無期転換ルールとは、有期労働契約が更新されて通算5年を超えた場合、労働者の申し込みにより期間の定めのない契約(無期雇用)に転換される制度です。
この仕組みは定年後の再雇用者にも適用されるため、1年更新の契約を5回繰り返すと、無期転換の権利が発生してしまいます。
ただし、定年後再雇用者については、「第二種計画認定」という制度が設けられており、会社が都道府県労働局へ認定申請を行うことで、無期転換ルールの対象外にできます。
申請には高年齢者雇用推進者の選任等も必要となるため、不明な点があれば専門家へ相談しましょう。
手続きを怠ると、無期雇用への転換を求められ、人員計画に影響を及ぼすリスクになり得ます。
再雇用開始前には認定の有無を必ず確認しておきましょう。
定年後再雇用の労働条件に関して争われた判例
定年後再雇用時には、賃金条件について争いになるケースがみられます。定年後の賃金が退職前の6割であったことは不適当として争われた、日本空調衛生工事業協会事件をご紹介します。
事件の概要
(令和3年(ワ)5803号・令和5年5月16日・東京地方裁判所・第一審)
管工事業に関する調査や研究を行うY法人で事務局職員として勤務していたXは、63歳で定年退職しました。
その後、嘱託職員として再雇用されましたが、1年の期間満了により退職しています。
Xの定年前の年収が628万3020円であるのに対し、再雇用時の年収は377万600円であり、定年前のおよそ6割の賃金水準となっていました。この賃金の減額幅に対し、定年後は定年退職前の7割とする労使慣行が存在したとして、Xは定年前賃金の6割支給は不当であると主張しY法人を訴えました。
裁判所の判断
再雇用時は定年前の7割の賃金になるという労使慣行の存在について、Xは自身の定年退職前の実例7件のすべてが定年前の賃金の7割で契約されていたことを根拠として主張しています。これに対し裁判所は、Y法人が嘱託再雇用時の賃金設定について職員に対し周知した事実はないと評価しています。
さらに、Xは給与担当だったため再雇用時の賃金情報を知り得たに過ぎず、7例は管理職経験者であったことを踏まえれば、経験や能力を問わず7割とする労使慣行が存在したとは認められないと判示しました。
本事案では「その他の事情」も踏まえれば、定年前の6割の賃金水準が不合理とは認められないとして、Xの請求は棄却されました。
ポイント・解説
裁判所は、定年後の再雇用では長期間の雇用が予定されないことや、公的給付の受給予定も再雇用時の労働条件決定における「その他の事情」として考慮すべきであると示しています。
本事案では、Xの定年前後で、配置部署や勤務時間等の労働条件に変化はなく、責任の範囲も変化は窺われませんでした。一方で、業務の量やその範囲については軽減されています。
また、老齢厚生年金が受給可能であったことや、業務を引き継いだ担当者の賃金が再雇用時のXと同水準であることも「その他の事情」として考慮することが相当とされました。
定年後の賃金設計には、職務内容や責任の程度とのバランスを踏まえることはもちろん、考慮した「その他の事情」についても明確にしておきましょう。
定年後再雇用の労働条件に関するQ&A
定年後の再雇用で賃金引き下げが認められるケースを教えてください。
定年後再雇用における賃金減額は、職務内容や責任の範囲等に変更がある場合は広く認められる傾向があります。
これらが定年前と同程度であっても、定年退職によって退職金や年金、給付金を受給するといった事情があれば、社会通念上相当な範囲の減額であれば認められるでしょう。
概ね定年前の6割〜7割程度への減額が目安とされますが、それ以上の極端な引き下げは不合理とされるリスクがありますので注意が必要です。
再雇用後の業務内容を変えずに役職を外すことはできますか?
可能です。定年後再雇用は、新たな雇用契約を締結するため、業務内容そのものは継続しつつも、管理職としての「指揮命令権」や「管理責任」を解くことはできます。
ただし、役職を外すことで役職手当を廃止するといった賃金の減額に繋がる場合は、責任の軽減という事実と賃金減額のバランスが取れている必要があります。
賃金減額の根拠は明確に説明できるようにしておきましょう。
従業員が同意しない場合、再雇用の労働条件の変更は成立しますか?
労働契約を締結するには、当事者の「合意」が必要であるため、同意がなければ成立しません。
高年齢者雇用安定法は、雇用確保措置を会社に求める制度ではありますが、労働者の希望する労働条件とする義務までは課していません。
会社が提示した条件が、合理的な裁量の範囲での条件変更であるにもかかわらず本人が拒否し続ける場合は、再雇用は不成立となります。
この場合は、再雇用に至らないため、定年退職で雇用契約終了となります。
定年後再雇用の条件提示はいつ行いますか?
条件提示の時期に法的な制限はありません。定年到達の6か月から1年前には制度の周知を行い、再雇用時のルールや退職金などを説明しておくのが理想的でしょう。
定年退職の数ヶ月前には面談を行い、再雇用への意向を確認の上、条件を提示します。
個別の賃金や業務内容等については、退職後の生活設計を考慮し、本人が余裕を持って検討できる面談時期を設定しましょう。
定年の2か月前には最終的な合意を得て、契約書の締結を終えるとスムーズです。
定年後再雇用の労働条件については弁護士にご相談ください
定年後再雇用制度は、たんなる法的義務ではなく、熟練の技術やノウハウを後進へ引き継ぐための重要な人材戦略としても考える必要があります。定年後再雇用を最大限活用するには、社内制度の設計や適切な労働条件の決定、丁寧な個別対応等が不可欠です。
しかし、無期転換ルールや同一労働同一賃金への配慮など、実務上のハードルは高く、対応を誤れば労使トラブルに発展するおそれもあります。
弁護士法人ALGでは、労務問題に豊富な経験をもつ弁護士が在籍しており、法的アドバイスはもちろん、就業規則の見直しや賃金設計など幅広いサポートが可能です。
定年後再雇用の労働条件に少しでもお困りごとがあれば、お気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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