単身赴任が原因で離婚することはできるのか
本来、家族は同じ家で暮らすことが望ましいですが、仕事の関係で夫が「単身赴任」をしているご家庭も多いのではないでしょうか。
夫がそばに居られないことから、コミュニケーション不足となり、離婚を考える方もいらっしゃるでしょう。
果たして単身赴任中に離婚することはできるのでしょうか。
単身赴任と似ているのが「別居」です。
どちらも夫婦が住まいを別にする点では同じですが、単身赴任はやむを得ない都合によるものとされ、基本的には別居期間には含まれない扱いとなります。
では単身赴任中に離婚したいと思った場合は、どのように離婚を進めていけばいいのでしょうか。
また、なぜ単身赴任中に離婚したいと思うのでしょうか。
この記事では、「単身赴任での離婚」について解説していきます。
目次
単身赴任で離婚が認められるのか
協議離婚や離婚調停といった、夫婦の話し合いによって双方が離婚に合意できれば、単身赴任であっても離婚することが可能です。
一方、夫婦のどちらかが離婚に合意しない場合は裁判で離婚を争うことになります(離婚裁判)。
しかし、離婚裁判で離婚が認められるためには、以下の5つの法定離婚事由もどれかに当てはまることが条件となります。
【法定離婚事由(民法第770条)】
- 配偶者に不貞行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が重度の精神病に罹り、回復に見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
単身赴任で離婚したい場合、①~④の事由にはあてはまりません。そのため⑤に当てはまるかどうかがポイントとなります。
単身赴任は仕事上の都合であり、やむを得ない事情による別居であることから、基本的には、単身赴任であることだけをもって⑤の事由にあてはまることは難しいです。
では、単身赴任で離婚が認められやすいケースと認められにくいケースを見ていきましょう。
単身赴任で離婚が認められやすいケース
単身赴任中に次のようなことが発生した場合、離婚が認められやすくなります。
- 配偶者が浮気・不倫をしていた(不貞行為)
配偶者が生活費を入れてくれなくなった(悪意の遺棄) など
単身赴任で離婚が認められにくいケース
単身赴任期間が長くても、配偶者が定期的に自宅に戻ってきて夫婦間や子供との交流がある場合や、生活費をきちんと入れている場合などは離婚が認められにくいです。
単身赴任が離婚に繋がる原因
単身赴任が離婚につながる原因には、どのようなものがあるでしょうか。 単身赴任では、夫側に離婚の原因があると思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、単身赴任では配偶者が近くにいないことから、隙が生まれ、離婚原因を作ってしまう場合もあります。
次項から、単身赴任で離婚につながる原因について見ていきましょう。
単身赴任中の浮気
単身赴任中の離婚原因で1番多いのが浮気です。
夫は単身赴任中1人で生活していかなければならないため、開放感や寂しさから浮気をしてしまうケースがあります。また、単身赴任中は開放感があり浮気がバレにくいことも理由の一つです。
浮気をするのは夫だけではありません。妻も夫がいない寂しさから浮気をしてしまうケースがあります。
一人での生活の快適さ
夫も妻も、配偶者の居ない1人での生活が快適に思ってしまう可能性があります。
配偶者が家にいないことで、以下のように好きなように生活することに開放感を覚えるのでしょう。
- 好きなものを好きなだけ食べられる
- 夜遅くまで出歩ける
- 好きなだけ仕事に打ち込める
- 好きなタイミングで家事や育児ができる
その結果、夫が家族の生活に戻ると、配偶者が近くにいることがつらく感じてしまい、離婚の原因になる場合もあります。
金銭感覚の違い
単身赴任では、家族の暮らす家と夫の単身赴任先の家とで生活費が二重でかかることになります。
その際、お互いの金銭感覚に相違が生まれると、すれ違いの元になり得ます。
例えば、夫が生活費をすぐに使ってしまったり、反対に妻が夫の目を盗んで散財しているケースなどが考えられるでしょう。
お互いが納得できないお金の使い方をしていると、離婚の原因になることもあります。
コミュニケーション不足
単身赴任によって物理的に距離が遠くなることで、コミュニケーション不足が生まれ、夫婦のすれ違いが多くなる傾向にあります。
本来、夫婦は楽しかったことやつらいことを共有して支え合っていくことが望ましいとされます。
しかし、コミュニケーション不足になると、夫婦で喜びやつらさを共有することができずに、配偶者が今どんな気持ちでいるか、何に悩んでいるのか分からず、相手への気持ちも離れやすくなってしまいます。
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単身赴任中に離婚する際の流れ
離婚の方法には、以下の3つの方法があります。
このうち、協議離婚、離婚調停は夫婦の合意があればどのような理由でも離婚することができます。
つまり、単身赴任のみが理由でも、双方が合意すれば離婚することができます。
3つの離婚の方法について違いを見ていきましょう。
協議離婚 | 夫婦で話し合い、夫婦の合意のもと離婚する方法。 |
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離婚調停 | 家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、調停委員仲介のもと話し合いで問題の解決を図る方法。離婚には夫婦の合意が必要。 |
離婚裁判 | 離婚調停が不成立の場合に家庭裁判所に離婚訴訟を起こして離婚を求める方法。 裁判官から離婚判決の言い渡しがあって、その判決が確定すると離婚が成立するため、夫婦の合意は不要。 |
単身赴任中に離婚したいと決心した場合、どのような流れで離婚が成立するのでしょうか。
上記の3つの方法には順番があります。次項からは、単身赴任中に離婚する流れについて順番に解説していきます。
①離婚原因となる証拠を集める
配偶者の浮気や経済的DV(生活費を十分渡さないなど)が原因で離婚する場合は、その証拠を集めましょう。
証拠を集めることはとても重要です。配偶者に離婚や慰謝料を認めさせ、言い逃れができないようにするために証拠が必要ですし、裁判に至った場合も証拠を提出することで、配偶者の不法行為が認められ、離婚が認められる可能性が高まります。
浮気や経済的DVの証拠には以下のようなものがあります。
浮気の証拠
- ラブホテルを出入りする写真や動画
- ラブホテルの領収証やクレジットカードの明細
- 肉体関係があったと推測されるメールやLINEのやり取り
配偶者や浮気相手が浮気を自白した録音 など
経済的DVの証拠
- 生活が苦しくなっていることがわかる家計簿
- 生活費を入れてもらえなくなったことが分かる預金通帳
- お金に関する暴言を録音した音声データ
- 経済的DVについて記録した日記 など
証拠については有効なものかどうかの判断が難しい場合もありますし、そもそも証拠をどのように集めればいいか分からないことも多いでしょう。
証拠については弁護士にご相談ください。
②離婚届の入手
離婚届は、市区町村役所の「市民課」や「戸籍課」などで入手できます。窓口で離婚届をもらいたいことを伝えれば、案内してくれるでしょう。
離婚届を提出するのは、居住地や本籍を管轄している役所ですが、離婚届は全国共通の用紙ですので、どこの役所で入手したものでも使用することができます。
役所は基本的に平日の日中にしか開いていませんが、仕事などで役所に行くことが難しい場合は夜間や休日に対応している役所に行ってみましょう。
また、離婚届は役所のホームページからダウンロードが可能です。
離婚届の記入には、以下の点に注意しましょう。
- 離婚届は夫婦本人が、証人欄は証人本人が記載する
- 鉛筆や消えるインクは使用しない
- 日付や生年月日は和暦(平成、令和など)で記入し、HやRなど略字は使わない
- 記入を間違えた場合は、間違えた箇所に二重線を引いて、その横(もしくは上や下)に正しい内容を記入する。その際、訂正印は使用しなくても良い。また、修正ペンや修正液は使わない。
③離婚について話し合う
夫婦で離婚するかどうか、離婚条件などについて話し合い、合意ができれば協議離婚が成立します。
合意できた内容は後から「言った・言わない」のトラブルにならないように離婚協議書や公正証書にまとめましょう。
単身赴任中は対面での話し合いが難しい場合もありますので、電話やメールなどを活用し、協議することが考えられます。
しかし、公正証書を作成する場合は基本的に夫婦そろって公証役場に赴く必要があることに注意しましょう。
また、単身赴任中で協議が難航している場合は、弁護士に相談すれば、代理人として相手方と交渉してくれます。弁護士が交渉することで話し合いがスムーズに進む可能性が高まります。
協議離婚については、以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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④協議離婚が不成立なら離婚調停へ
夫婦間の話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停委員を介して話し合いをします。
調停では、基本的に双方の合意がなければ離婚は成立しません。
単身赴任中の離婚調停で注意したいポイントは、調停の申立て先です。当事者間の合意がなければ、調停は相手の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
つまり、夫が単身赴任をしていて妻が調停を申し立てる場合は、夫の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
そのため、単身赴任先が遠方である場合、調停期日の度に遠くまで足を運ばなければなりません。
調停は月1回程度のペースで、複数回行われるため、申立人にとって交通費など経済的負担がかかってしまいます。
調停を重ね話し合った結果、離婚について合意できれば調停は成立です。裁判所が作成する調停調書を持参し、10日以内に離婚届を役所に提出すれば離婚が成立します。
また、離婚調停においてほぼすべての条件を決めることができたけれど、些細な部分について合意できず、調停が不成立になりそうな場合は、審判離婚に移行します。
審判離婚は、家庭裁判所の裁判官が職権で必要な決定を下して離婚を成立させることです。
調停離婚、審判離婚については、以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
⑤調停でも不成立の場合は離婚裁判を検討する
離婚調停が不成立となり、審判離婚もなされなかった場合、最終的な解決を図るためには離婚裁判を起こすことになります。
裁判では、離婚できるかどうかを決めるのは裁判所であり、夫婦双方の合意は必要ありません。
離婚裁判では法律に基づき、公平な立場で離婚について判断してもらうことができるため、相手が感情だけで離婚を拒否したとしても、法定離婚事由があると認められれば、強制的に離婚が成立します。
しかし、単身赴任は裁判で離婚が認められる事由である法定離婚事由に該当しないため、離婚が認められない可能性が高くなってしまいます。
離婚が認められるのは、不貞行為や悪意の遺棄など法定離婚事由があるか、婚姻関係が破綻していることを証拠とともに主張立証することが重要となります。
離婚裁判については、以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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⑥離婚に合意出来たら
離婚に合意できた後の対応は、どの方法で合意に至ったかによって異なります。
協議離婚
夫婦の話し合いで離婚に合意できた場合は、離婚届に必要事項を記入し、お住いの市区町村または本籍地のある役所に届出ましょう。
その際、本人記入欄は本人が、証人記入欄は証人がそれぞれ記入するようにしましょう。
離婚調停
調停は調停が成立した日が離婚日になります。しかし調停が成立しただけでは、戸籍に離婚の記載がされません。調停の成立日を含めて10日以内に、原則として申立人が夫婦の本籍地または申立人の住所を管轄する役場に、調停調書の謄本と離婚届を提出することで離婚が成立します。
調停離婚では、相手方や証人の欄の記入は不要となります。届出義務者(原則申立人)の署名だけが必要となります。
離婚裁判
- 判決で決着がついた場合
判決確定後10日以内に「判決書謄本」「判決確定証明書」とともに離婚届を提出します。この際、相手方と証人の記入は必要ありません。 - 和解で決着がついた場合
和解成立後10日以内に、「和解調書謄本」とともに離婚届を提出します。この際、相手方と証人の記入は必要ありません。
単身赴任中の浮気の調査方法
夫の行動や言動が怪しいと感じても、決定的な確信がないこともあるでしょう。
ここでは、単身赴任中の浮気の調査方法についてご紹介していきます。
突然会いに行く
単身赴任中の夫は油断していることが多いでしょう。突然来訪してみることで、女性と一緒にいる、不在で所在を聞いてもはっきりとしない、などがあるかもしれません。
この場合、浮気している可能性が高くなります。しかし、頻繁に行っては意味が無いので、浮気の核心が高まってから行動すると良いでしょう。
週末の居場所をチェックする
週末自宅にいない場合は、どこで何をしているのか聞いてみるのも有効です。夫が必死にごまかしている場合、妻には分かってしまうでしょう。
また、スマホの居場所チェックアプリなどの使用も効果的でしょう。
探偵を利用する
どうしても浮気の証拠が出ないけれど、浮気の疑いが晴れない場合は、探偵を利用することも一つの手です。探偵はプロであり、プロの目はごまかせないでしょう。
探偵が調査しても浮気の証拠が出てこない場合は、安心して夫を信じることができるでしょう。
単身赴任の浮気については、以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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単身赴任中の離婚についてよくある質問
単身赴任中の離婚についてよくある質問にお答えしていきます。
単身赴任中に離婚した場合、離婚慰謝料は請求することができますか?
「離婚をする」からといって必ずしも慰謝料を請求できるわけではありません。
離婚の際に支払われる慰謝料は不法行為により夫婦関係が破綻し、相手が精神的苦痛を負った場合に請求できます。
つまり、単身赴任中でも離婚理由に特別なものはなく、双方が離婚に合意した場合は慰謝料を支払ってもらえる可能性は低いでしょう。
しかし、配偶者が単身赴任中に浮気をしたり、生活費を入れてくれなかったりする場合は不貞行為や悪意の遺棄があったとして慰謝料を請求できる可能性があります。
その際、相手が言い逃れ出来ないよう証拠を集めておくことが重要となります。
また、慰謝料をどのくらい請求できるかは、個別の事情によって異なりますので、弁護士にご相談ください。
婚姻費用は単身赴任中でも支払い義務がありますか?
婚姻費用は夫婦の協力・扶助義務によるものであり、単身赴任中でも婚姻関係にある以上、婚姻費用の分担は義務となります。
婚姻費用の金額は夫婦の収入や子供の年齢・人数によって算定表があり、異なります。
算定表に当てはまらないケースもありますので、ご自身のケースで婚姻費用はいくら分担するのか、不明点は弁護士に相談しましょう。
50代で単身赴任が長期化すると熟年離婚の確率は高くなりますか?
50代で単身赴任が長期化するからといって、必ずしも熟年離婚の確立が上がるとは言い切れません。 確かに、50代では子供が成人、独立するなど子育てが一段落し、自分の時間が増えます。
そのため、残りの時間を自分のために使いたいと考える方も多くおり、その結果離婚を選択する方がいないわけではありません。
しかし、夫が単身赴任から戻り家事の大変さを実感し、優しくなったという夫婦もいらっしゃいます。
単身赴任が長期化し、離婚に至るかどうかは、ケースバイケースといえるでしょう。
熟年離婚については、以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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単身赴任中の離婚について詳しく知りたい方は弁護士にご相談ください
単身赴任中は配偶者のことを気にせず、開放的になるため「このまま一人で暮らしたい」と考える方も多くいらっしゃいます。そうなると、必然的に離婚をお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
当事者が離婚に合意すればいいのですが、どちらかが離婚に合意できない場合は調停や裁判といった家庭裁判所の手続きを利用することになるでしょう。
単身赴任は、仕事の事情で仕方のないことですから別居期間としてはみなされません。そのため、裁判で離婚が認められることが難しくなる場合もあります。
単身赴任中での離婚については、私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
私たちは離婚問題・夫婦問題に詳しい弁護士が多数在籍しております。ご相談者様のお気持ちを丁寧にヒアリングし、解決策をご提案させていただきます。
おひとりで悩まず、まずは一度ご相談ください。
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保有資格 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)