離婚の公正証書とは?メリットや作成方法、記載する内容など
公正証書とは、公証役場で公証人に作成してもらう契約書です。離婚の際、離婚条件を協議により決めて合意書を作成したうえで、公証役場に持ち寄ることで、離婚協議書を公正証書にしてもらえます。
協議離婚の場合は、「離婚協議書」も契約書であることは変わりないので同じような役割を果たしますが、公正証書のほうが、金銭の支払いについて約束を破った際に強制力を持たせることができるので、協議離婚した際は公正証書を作成することをおすすめします。
この記事では「公正証書」に着目し、「公正証書とはなにか」「離婚した際にはなぜ公正証書がいいのか?」といった疑問を解説していきます。離婚される方の参考になれば幸いです。
離婚協議書については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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目次
公正証書とは?メリットとデメリットがある?
協議離婚をする際は、離婚後の約束事を自分たちで決めます。そのため、家庭裁判所で行う調停離婚のように、合意した事項を裁判所が確認し文書化されるものではなく、自分たちで離婚協議書を作成しなければなりません。
ただ、自分たちで作成した離婚協議書は、合意内容を記載した証拠に過ぎず、合意した約束事項を破ったとしても、当然には約束の履行を強制できません。
特に、養育費は何年もかけて多額の金銭を支払うことになるため、何らかの事情で支払いが止まることあります。そのような場合に備えて、離婚協議書を公正証書化しておくと、お金の支払い約束を違反した際に、強制的に支払ってもらうことが可能となります。
では、離婚協議書と公正証書は何が違うのでしょうか。離婚協議書と公正証書の違いには、法的な点で大きく異なります。
慰謝料や養育費の支払いの約束をしたにもかかわらず実際に支払われなくなったとき、強制的に支払わせようとすると、離婚協議書だけでは、あらためて裁判を起こして裁判所の判決が必要になるのに対し、公正証書があれば裁判を起こさずとも相手の給与や預貯金などを差し押さえして、支払いを強制させることができます。
メリット
公正証書を作るメリットとして以下のようなものが挙げられます。
証拠能力が高い
公正証書は公証人が双方の意思を確認し、署名・捺印するためその真性が保たれ、信用性が高くなります。そのため、後で「言ってない」「聞いてない」を防ぐことができます。強制執行ができる
離婚協議書だけで相手に約束を強制的に守らせたいのであれば、どうしても裁判所で裁判手続きを行うしかありません。しかし、公正証書では、裁判をしなくても直ちに強制執行の手続きをとることができます。原本がなくならない
公正証書の原本は、公証役場に原則として20年間保管されます。そのため、紛失や盗難、改ざんなどの心配がありません。
デメリット
公正証書を作るうえでデメリットは以下のとおりです。
作成費用がかかる
公証人に依頼するため、どうしても費用が発生してしまいます。条件で決めた金額が低額であれば5000円ほどで済みますが、取り決めの金額が大きくなると手数料も高額になります。一般的には、夫婦が平等に負担することが多いとされています。作成に手間がかかる
公正証書は公証人が内容を確認、読み上げすることから、公証役場まで足を運ばなければなりません。もちろん、代理人を立てることも可能ですが、その場合は委任状が必要です。相手が公正証書の作成を拒否する可能性がある
相手が支払いをする側だと、公正証書の作成を拒否されてしまうことがあります。また、当初は同意していたとしても公正証書化する直前で、「公正証書なんか作らなくても支払いはしっかりするよ」といったことを言われてしまうこともあるかもしれません。なお、離婚協議書を公正証書化する約束したとしても、「公証役場で離婚協議書を作るから、離婚協議書を作成する必要ない」と思わず、公正証書化する前には、必ず離婚協議書を作成し双方署名押印することをお勧めします。
公正証書の作成の流れと費用について
公正証書作成の流れは以下のとおりです。
夫婦間で話し合い
まずは夫婦間で公正証書に記載する内容について話し合います。離婚公正証書の原案の作成
公証役場で事前協議(相談)
原案ができたら近くの公証役場で作成を依頼します。(メール、電話、FAX可)ここで②で作成した原案を公証人の方に内容が妥当かチェックしてもらいます。事前相談の段階では夫婦のどちらか一方のみで良いでしょう。作成日の予約
公証役場へ訪問
予約当日に夫婦双方(代理人も可)で公証役場に訪問します。本人確認資料等を持参します。離婚公正証書の完成
公証人の面前で離婚公正証書の読み合わせを行い、当事者が署名・捺印します。手数料を支払い、公正証書を受け取りましょう。
公正証書の作成期間には、公証役場に申し込みをしてからおよそ2週間程度かかるとみていた方が良いでしょう。
必要な書類
公正証書を作成する際に必要な書類は以下のとおりです。
戸籍謄本
・公正証書作成後に離婚する場合:家族全員が記載されたもの
・離婚済みの場合:双方の離婚後の戸籍謄本離婚協議書(原案)
不動産の登記簿謄本および固定資産税納税通知書
不動産の所有権を相手方に移す場合に必要となります年金分割のための年金手帳等
年金分割をする場合は、当事者の年金番号を公正証書に記載するため、年金番号がわかる資料が必要ですその他、必要に応じて
・車検証、査定資料
・保険契約者、保健証書
作成にかかる費用
公正証書は公証人に作成してもらう「公文書」です。そのため、無料で作成することはできず、公正証書の作成には手数料が発生します。公正証書にかかる手数料の金額は、「公証人手数料令」によって下表のように定められています。
協議書に記載された合意の金額により、手数料が異なります。法務省令で定める縦書きの証書が4枚(横書きの場合は3枚)を超えると、1枚当たり250円の費用がかかります。
また、年金分割の合意についても公正証書を作成したい場合は、離婚の公正証書手数料とは別に1万1000円の費用が発生します。
慰謝料や財産分与、養育費等の金額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円以上200万円以下 | 7000円 |
200万円以上500万円以下 | 1万1000円 |
500万円以上1,000万円以上 | 1万7000円 |
1,000万円以上3,000万円以下 | 2万3000円 |
3,000万円以上5,000万円以下 | 2万9000円 |
5,000万円以上1億円以下 | 4万3000円 |
1億円以上3億円以下 | 4万3000円に対し、5000万円を超過するごとに1万3000円を加算した額 |
3億円以上10億円以下 | 9万5000円に対し、5000万円を超過するごとに1万1000円を加算した額 |
10億円以上 | 24万9000円に対し、5000万円を超過するごとに8000円を加算した額 |
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公正証書に記載するべき内容
公正証書に記載するべき内容は、後から「言った」「言ってない」が起きないように、原則的には2人で決めたすべてのことを記載するべきです。記載内容には以下のようなものがあります。
- 離婚への合意
- 親権
- 養育費
- 慰謝料
- 財産分与
- 年金分割
- 面会交流
- 連絡先の通知義務
- 清算条項
- 強制執行承諾約款付公正証書作成への合意
次項でひとつずつ詳しく解説していきます。
離婚への合意
夫婦が離婚に合意していることを以下例のように記載します。
例.
(離婚の合意)
第〇条
甲と乙は、協議離婚することに合意し、本公正証書作成後、各自離婚届に署名押印のうえ、乙において速やかに届出をする。
親権
離婚届を提出する際には必ず夫婦のどちらかを「親権者」と決めなければなりません。親権者の記述例は以下のとおりです。
例.
(親権者)
第〇条
甲及び乙は、甲乙間の未成年の子▲▲▲▲(令和〇年〇月〇日生まれ、以下、「丙」)の親権者を乙と定め、乙において監護養育する。
離婚の親権については以下のリンクでも詳しく解説しています。ご参考ください。
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養育費
子を監護している親が子を監護していない親に毎月一定額の養育費を請求することができます。養育費とは、子の成長のために離婚したとしても親として支払っていく当然の費用となります。
主に記載する内容は以下になります。
- 養育費の支払い額
- 支払日
- 支払い期間
- 支払い方法
- 養育費を決めた時と事情が違うときについて
例.(20歳までの場合)
(養育費)
第〇条
甲は、乙に対し、丙の養育費として、令和〇年〇月から令和〇年〇月(丙が20歳に達する日の属する月まで)までの間、1ヶ月金〇万円ずつを支払う義務があることを認め、これを、毎月末日限り、乙の指定する金融機関の預金口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
離婚の養育費については以下のリンクでも詳しく解説しています。ご参考ください。
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慰謝料
夫婦の一方側に離婚になる主な原因があれば原因のある側から他方に対して慰謝料を支払うことになります。
慰謝料について記載しておくべき内容は以下のとおりです。
- 慰謝料の合意
- 支払い金額
- 支払い期日
- 支払い方法
- 一括払いか分割払いか
例.(一括払いの場合)
(慰謝料)
第〇条
甲は、乙に対し、本件離婚による慰謝料として金○○万円の支払い義務があることを認め、これを令和〇年〇月〇日限り、乙の指定する金融機関の預金口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
財産分与
財産分与とは婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げてきた財産を、離婚の際に分配する制度です。
財産分与について記載するべき内容は以下のとおりです。
- 財産分与の対象となる財産
- どの財産をどちらが取得するか
- いつまでに財産分与の支払いをするか
- 一括で払うか、分割で払うか
例.(現金分配、一括払いの場合)
(財産分与)
第〇条
甲は、乙に対し、本件離婚による財産分与として、金〇〇万円の支払い義務があることを認め、これを令和〇年〇月〇日限り、乙の指定する金融機関の預金口座に振り込み入金の方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
離婚の財産分与については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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年金分割
年金分割とは、婚姻期間中に納めた厚生年金、共済年金を離婚時に分配してそれぞれ自分の年金とすることができる制度です。
年金分割をするためには、裁判所を利用しない場合、①公正証書で合意し謄本を提出する方法、②合意書に公証人の認証を受ける方法(私署証書)③当事者双方が年金事務所の窓口に直接して合意書を提出する方法の3つのパターンがあります。
年金分割で記載するべき内容は以下のとおりです。
- 年金分割をするかどうか
- 分割割合
例.
(年金分割)
第〇条
-
甲(第1号改定者)乙(第2号改定者)とは、厚生労働大臣に対し、甲と乙との間の対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求を行い、厚生年金保険法第78条の2第1項の請求すべき按分割合を0.5とすることに合意した。
甲・・・・・・(第1号改定者)
昭和〇〇年〇月〇日生まれ
基礎年金番号・・・・・・
乙・・・・・・(第2号改定者)
昭和〇〇年〇月〇日生まれ
基礎年金番号・・・・・・・ - 乙は、協議離婚の届出後速やかに、厚生労働大臣に対し、前項の請求をする。
離婚の年金分割については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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面会交流
面会交流は離婚後に、子供と同居していない親が子供と面会含む親子としての交流を行うことです。面会は、子供の健全な成長のために不可欠とされており、子供の権利でもあります。
面会交流で記載すべき内容は以下のとおりです。
- 面会の頻度
- 1回当たりの面会時間
- 面会交流の実施方法等
例.
(面会交流)
第〇条
乙は、甲と丙が面会交流することを認める。面会の回数は〇ヶ月に〇回程度で時間は〇時間とする。日時、場所および方法は、丙の情緒の安定と福祉に配慮して、甲と乙とで協議のうえ定める。
面会交流については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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連絡先等の通知義務
離婚後に住所や勤務先などが変更された場合は、相手側に通知することを離婚協議書に記載することがあります。
この記載は養育費を継続的に受け取る側に重要です。養育費の支払いがストップした場合、相手方の連絡先が分からないと請求が難しくなるためです。
例.
(通知義務)
第〇条
- 乙は養育費等の振込先とされている金融機関預金口座、住所・居所又は連絡先(電話番号等)を変更したときは、ただちに書面により甲に通知する。
- 甲乙は、住所・居所又は連絡先(電話番号等)を変更したときは、ただちに相手方に対し、書面により通知する。
清算条項
清算条項とは、離婚協議書に記載した事項以外にはお互い何ら債権債務も有しないと確認し合うための条項です。
つまり、離婚協議書に記載した権利を実現し、義務を果たせば、他に何も請求できず、請求されることもなく、離婚問題は解決されたことを意味します。
例.
(清算条項)
第〇条
- 甲及び乙は、本件離婚に際し、以上をもってすべて解決したものとし、今後、財産分与、慰謝料等名目の如何を問わず、互いに何らの財産上の請求をしない。
- 甲及び乙は、この公正証書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認した。
強制執行承諾約款付公正証書作成への合意
強制執行承諾約款付公正証書とは、この公正証書自体が債務名義となり、公正証書をもって、債務者の財産を差し押さえることができることを意味します。つまり、強制執行を行うためには必要な項目であり、公正証書化した一番の目的ともいえます。
例.
(強制執行承諾)
第〇条
甲は、この公正証書の第〇条、第〇条及び第〇条に記載した債務の履行を遅延したときには、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
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公正証書に書けない内容
公正証書には、法律上無効であること、法律の趣旨や公序良俗に反することについて記載はできません。
例えば、「○○をした場合には、甲の言い値の慰謝料を支払う」「○○をした場合には、親権者としての地位を喪失する」などは典型的に無効な内容です。
離婚時の公正証書についてよくある質問
離婚時の公正証書についてよくある質問に回答していきます。
公正証書は自分で作成することができますか?
弁護士や専門家を入れないで、公証役場とやり取りして公正証書を作ることができるかということであれば、可能です。その場合は、まず離婚協議を行ったうえで、離婚協議書の原案を作成し、公証役場に持ち込むことで夫婦が作った原案をもとに、公証人が公正証書の原案を作成します。夫婦で確認し、問題がなければ公正証書が作成されることになります。
相手が公正証書の作成に合意してくれない場合はどうしたらいいですか?
離婚で定められる養育費などの支払いは、総額で数千万円になることもあります。そのため、支払う側は高額な支払い契約を公正証書に定めることを不安に思っているのかもしれません。
離婚の話し合いを進めていく中で、相手と落ち着いて話し合い、公正証書の作成に同意を得てもらえるような状況を作っていくことが重要です。どうしても相手方が同意しない場合には、家庭裁判所の調停手続きも検討すべきでしょう。なお、公正証書化することを拒否している場合でも、離婚協議書を作成し、署名・押印してもらうことは重要です。
離婚の公正証書はどこで作成すればいいですか?
離婚の公正証書は近くの公証役場で作成できます。公正証書はお互いの合意がないと作成できないので注意しましょう。
夫婦で公正証書に記載する原案を作成し、事前に電話予約をしていくとスムーズです。
協議離婚以外で離婚した場合は公正証書にする必要はありませんか?
離婚が協議離婚以外の「調停離婚」「離婚裁判」であった場合には、公正証書を作る必要は原則としてありません。
なぜなら、調停離婚や離婚裁判の場合には「調停調書」や「判決調書」が公正証書のように法的な効力を持ち、強制執行が可能だからです。
ただし、調停や裁判後、調停内容や判決内容を変更するような特別な事情が生じた場合には、公正証書による合意をすることも有益でしょう。
公正証書の作成に関してわからないことは離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください
離婚を決め、「公正証書」を作成しようと思っても、何から決めたらいいのか、どうやって作成すればいいのか等、悩まれる方も多くいらっしゃると思います。公正証書に関して分からないことは離婚に詳しい弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談することで、公正証書に記載すべき内容や養育費、慰謝料の相場などがわかり、よりスムーズに公正証書の作成に近づけます。
また、元配偶者と揉めてしまった場合には、公証役場に代理人として弁護士が足を運ぶことも可能です。離婚は人生の中でも体力や気力を使う大変なことです。ひとりで悩まず私たちに一度ご相談ください。
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※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
保有資格 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)