あまり聞きなれない「審判離婚」とは?利用されるケース・流れ・調停との違い
家庭裁判所で行う離婚手続きのひとつに、“審判離婚”があります。
これまで離婚について調べていた方は、どこかでこの言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。
離婚の審判は、調停手続きの流れの延長で行われることがありますが、実際に行われるケースはほとんどありません。
2019年の政府の統計によると、すべての離婚のうち審判離婚が占める割合はわずか約0.6%となっています。
本記事では審判離婚の概要に加え、審判離婚の手続きの流れや審判を行うメリット・デメリットなどについて解説していきます。
目次
審判離婚とは
審判離婚とは、離婚調停においてほぼすべての条件を決めることができたけれど、些細なことが原因で調停が不成立となりそうな場合に、家庭裁判所の裁判官が、職権で必要な決定を下して成立させる離婚のことです。
離婚調停が不成立になってしまうと、当事者は次の段階に進むには再び二人で話し合うか、裁判を起こすしかありません。
ほぼ合意に至っているにもかかわらず裁判を起こすことになると、余計な労力や費用がかかって当事者の負担が大きくなってしまいます。
そのような事態を避ける目的で、裁判官は調停委員の意見を聴き、夫婦の一切の事情を考慮したうえで、問題解決のために審判を下すことができるのです。この手続きを「調停に代わる審判」といいます。
協議離婚・調停離婚・裁判離婚との違い
離婚方法には、審判離婚の他に協議離婚・調停離婚・裁判離婚があります。
それぞれの概要や特徴を以下の表にまとめました。
協議離婚 | 当事者同士の話し合いによって成立する離婚。日本における離婚の約90%はこの方法が採られている。 |
---|---|
調停離婚 | 家庭裁判所の調停手続きを踏んで成立する離婚。 調停では当事者同士は直接顔を合わせることがなく、調停委員を介して話し合いが行われる。 |
審判離婚 | “調停に代わる審判”によって成立する離婚。 |
裁判離婚 | 裁判上の手続きにより成立する離婚。 裁判官が離婚の是非や離婚条件について判断を下して成立する「判決離婚」の他に、「和解離婚」や「認諾離婚」がある。裁判は調停が不成立となったり、審判に異議申立てがなされたりした場合にのみ申し立てることができる。 |
審判離婚以外の離婚方法についてより詳しく知りたい方は、以下のページも参照してください。
合わせて読みたい関連記事
離婚審判では「異議申立て」が可能
審判の内容に不服があれば、当事者は異議を申し立てることができます。
審判には裁判の確定判決と同じ法的効力がありますが、当事者のどちらか一方が異議申立てをすると、その効力は失われます。
離婚の審判があまり利用されない理由のひとつとして、裁判官による決定を当事者が簡単に覆すことができるからということも考えられます。
ただ、審判の内容は調停案から大きく逸れることはないため、実際に異議申立てが行われることはほとんどありません。
異議申立てを行う場合は、審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に、家庭裁判所に対して異議申立書と審判書の謄本を提出します。
その際、申立書に特に理由を記載する必要はありません。2週間の期限を過ぎると審判は効力を有することになるので、書類を郵送する際は十分気を付けましょう。
審判離婚はどんなときに利用される?
それでは、実際に審判が利用されるのは、どのようなケースなのでしょうか。以下にいくつか例を挙げたので、参考にしてください。
- 離婚には合意しており、ほとんどの離婚条件も決めることができたが、慰謝料の数万単位の調整などで意見の対立がある場合
- 調停で相手の要望ばかり受け入れるような形で離婚条件のほとんどが決まってしまい、心情的に納得がいかなかったり、体裁が悪いと感じたりして合意できない場合
- 健康上の理由などで調停に出席するのが難しくなった場合
- 早急に離婚問題を解決しないと、未成年の子供に不利益が生じるおそれがある場合
- 当事者双方が審判を望んでいる場合
- 当事者の一方が外国籍で、協議離婚や調停離婚だと自国の法律では離婚したとみなされない可能性がある場合
離婚のご相談受付
来所法律相談30分無料
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
審判離婚の手続きの流れ
ここからは、審判離婚の手続きの流れを説明します。
審判離婚が成立するまでには、大きく分けて次の3つの段階があります。
- ①離婚調停を申し立てる
- ②裁判所による審判確定
- ③審判確定後、10日以内に離婚届を提出
それぞれの段階について、以下で確認していきましょう。
①離婚調停を申し立てる
離婚の審判は、調停を不成立として終了させてしまうと、不利益が大きいと裁判官が判断した場合に移行する手続きです。
そのため、まずは離婚調停を申し立てて、調停委員を交えて当事者間で話し合いを行う必要があります。
次のページでは、離婚調停の申立て方法や手続きの流れ、実際の調停で聞かれる内容などについて詳しく解説していますので、ぜひ参照なさってください。
合わせて読みたい関連記事
調停をせずに審判を申し立てることは可能?
「調停に代わる審判」は、裁判官の職権で行われるものであり、当事者が申し立てて利用できる制度ではありません。
当事者が審判を希望するのであれば、その旨を調停委員に伝えることはできますが、あくまでも審判に移行するか判断するのは裁判官です。
②裁判所による審判確定
審判では、裁判官がそれまで調停を担当してきた調停委員から意見を聴取し、当事者双方の言い分やその他一切の事情を踏まえたうえで、揉めている条件について決定を下します。
この際、当事者間の衡平(条件のつり合いが取れていること)についても十分配慮されます。
審判が下されると、当事者双方にその内容が記載された審判書が送付されます。当事者が審判書を受け取った日の翌日から、異議申立てがなされることなく2週間が経過すると、その審判は確定します。
③審判確定後、10日以内に離婚届を提出
審判が確定したら、自動的に戸籍にも離婚が成立したことが反映されるわけではありません。
そのため、当事者の一方(通常は調停の申立人)が、自分で役所に行って離婚の手続きをする必要があります。
審判が確定した日を含めて10日以内に、離婚届やその他の必要書類を役所の戸籍係に提出しましょう。
書類に不備・不足がなければ、戸籍には審判離婚の記載がなされて、手続き終了となります。
手続きに必要な書類
審判離婚の手続きで、役所に提出する必要がある書類を下表にまとめました。
なお、提出先は手続きをする人の本籍地または所在地の市区町村役場となります。
離婚届 | 相手方の署名・押印および証人欄の記載は不要。 |
---|---|
審判書謄本 | 審判書原本の内容をすべて写した書類。 審判をした家庭裁判所にて取得可能。1ページあたり収入印紙150円が必要。 |
審判確定証明書 | 審判が確定していることを証明する書類。 審判をした家庭裁判所にて取得可能。1通あたり収入印紙150円が必要。 |
戸籍謄本 | 本籍地以外の役所に届け出る場合のみ必要。 |
審判離婚が成立するまでの期間は?
審判離婚が成立するまでの期間は、ケースバイケースなので一概には言えません。
そもそも離婚調停が、1ヶ月~1ヶ月半に1回というペースで行われ、大体3回程度で調停成立・不成立の結論に至ります。
つまり、調停だけでも平均して3ヶ月~5ヶ月程度の期間を要するということです。
そこからさらに審判に移行することになるので、最低でも調停申立てから審判確定まで半年程度はかかると考えてよいでしょう。
審判離婚にかかる費用
離婚の審判がなされる前には、調停を申し立てる必要があります。そのため、審判離婚にかかる費用は、調停離婚にかかる費用とほぼ同じになります。
収入印紙 | 調停の申立て費用として、収入印紙1200円分が必要。 審判に移行する際に追加費用はかからない。 |
---|---|
郵便切手代 | 連絡用に必要となるが、詳細は家庭裁判所に問い合わせる。 審判に移行すると、調停申立て時に納めた分の切手では不足することが多いため、追加分を求められる。 |
弁護士に依頼した場合 | 相談料・着手金・成功報酬・日当・交通費などがかかる。 争点が離婚の可否のみの場合、相場は40万~70万円程度。その他の離婚条件の調整も必要になれば、さらに高額になる。 |
離婚のご相談受付
来所法律相談30分無料
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
審判離婚を行うメリット・デメリット
これまで説明した内容を踏まえて、離婚の審判を行うメリットとデメリットについて、以下にまとめました。
メリット
- 裁判官により、当事者双方の衡平が考慮された審判が下される。
- 結論が出るまで調停を続ける必要がなくなるため、迅速な問題解決が期待できる。
- 離婚裁判を回避できるため、余計な時間や費用をかけずに済むうえ、精神的な負担も軽減できる。
- 感情面での対立が原因で離婚の合意に至ることができない場合であっても、「裁判官が判断したことに従った」という体裁がとれるため、双方が納得しやすい。
- 審判が確定すると、裁判の確定判決と同じ効力が発生する。
デメリット
- 自分が審判内容に納得していても、相手が異議申立てをすれば審判は無効となる。
- 裁判官が審判を下すため、自分の主張通りの結果が得られない可能性がある。
審判離婚に関するQ&A
審判離婚をした場合、離婚日はいつになりますか?
審判離婚の離婚日は、“審判が確定した日”になります。
審判が確定するのは、当事者が審判の告知を受けた日の翌日から数えて2週間が経過した日になります。
審判が確定した後は、離婚届を役所に提出することになりますが、協議離婚の場合のように離婚届が受理された日が離婚日となるわけではないので、その点は覚えておきましょう。
審判で取り決められた約束が守られない場合はどうしたらいいですか?
確定した審判には、裁判の確定判決と同じ効力があります。
そのため、審判で取り決めた約束が守られない場合は、裁判所に強制執行を申し立てることができます。
強制執行には、直接強制と間接強制の2種類があります。
直接強制は、慰謝料や養育費などが取り決め通りに支払われない場合に利用される手続きで、相手の財産を差し押さえて、強制的に取り立てることができます。
一方、間接強制は、相手に間接強制金を支払わせることで、約束を守るよう心理的なプレッシャーをかける手続きです。
これは、面会交流が実現されない場合などに利用されることが多いです。
審判離婚で分からないことがあれば、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください
審判離婚はマイナーな離婚方法であるため、手続きの流れの中で、どのような対処をとるのが適当なのか判断に迷うことも多いかと思います。
調停がなかなか合意に至らない場合、裁判官に審判を下してもらうことによるメリットは確かにあります。
ただ、告知された審判内容をそのまま確定させるか、異議申立てを行うかという決断は、2週間という短い期間に行わなければなりません。
審判離婚について分からないことがある場合は、早めに弁護士に相談してください。弁護士はあなたが不利にならないよう、法的なアドバイスをすることができます。
調停の段階からご相談いただいても構いませんし、審判に異議申立てをして裁判に進むつもりであれば、なおさら弁護士の力を借りて確実に対処することをお勧めします。
離婚のご相談受付
来所法律相談30分無料
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
保有資格 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)