監護権と親権|違いや分ける必要性、決定の際の判断基準など
婚姻中は両親が親権者として子供を育てていきますが、離婚をすると、子供はどちらかが引き取るか決めなければなりません。日本では両親のどちらかを「親権者」と決めなければならないため、子供がいて離婚をする際には「子供はどちらが引き取るか」という問題は争点になりやすいです。
親権の内容は①子供の世話や監護教育②財産上の管理処分の権利義務の2種類がありますが、このうち①を行う権利を「監護権」と言います。本来、監護権は親権の中に含まれますが、親権者と監護権者を分けることができます。
この記事では「監護権」に着目し、「監護権」とは何か、親権と監護権の違いなどについて解説していきます。
目次
親権とは?
「親権」とは、未成年の子供を監護・養育し、財産を管理し、子供の代理人として法律行為をする権利や義務のことで、親権に含まれる権利は以下になります。
【財産管理権】
- 包括的な財産の管理権
- 子供の法律行為に対する同意権(民法5条)
【身上監護権】
身分行為の代理権
子供が身分法上の行為を行うに当たって親の同意・代理権(同法第737条、775条、787条、804条)居所指定権
親が子供の居所を指定する権利(同法第821条)懲戒権
子供に対して親が懲戒・しつけをする権利(同法第822条)職業許可権
子供が職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利(同法第823条)
これらは親の権利であり、子供を保護し肉体的・精神的にも成長させていく親の義務でもあるといえます。
親権については以下で詳しく解説しています。併せてご参考ください。
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監護権とは?
監護権とは親権のうちの「身上監護権」のことをいいます。監護権を取得すると子供とともに生活をし、日常の世話や教育を行うことができます。(民法第820条・監護養育権)
監護権では、民法は上記の監護養育権のほか、次の権利を規定しています。
居所指定権
居所決定権親が子供の居所を指定する権利(同法第821条)懲戒権
子供に対して親が懲戒・しつけをする権利(同法第822条)職業許可権
子供が職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利(同法第823条)
監護権と親権の違い
監護権は親権の中に含まれているため、基本的には親権者が監護権を有します。
監護権者と親権者を分けた場合、親権者(監護権を持たない)と監護権者の違いは以下のとおりです。
監護権者 | 親権者(監護権を持たない) | |
---|---|---|
監護教育権 | 〇 | × |
居所指定権 | 〇 | × |
懲戒権 | 〇 | × |
職業許可権 | 〇 | × |
子供の財産管理権 | × | 〇 |
法律行為の代理権 | × | 〇 |
身分行為の代理権 | × | 〇 |
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監護権と親権は分けることができる
監護権は親権の一部であり、原則として親権者が監護権を行使します。一般的に、親権者と監護権者が同一人物の方が、子供の福祉のために良いとされています。しかしながら、親権者が子供を監護できない事情があるような場合や、親権者ではない方が監護権者として適切であると考えられる場合には、親権者と監護権者を一緒にしないで分けるケースがあります。
例えば、以下のような事情がある場合などに親権者と監護権者を分けることがあります。
- 親権者は父親だが、海外出張で養育ができない
- 財産管理については父親だが、子供が小さいため監護権は母親が持つ方が子供の世話をするうえで都合がいい
分けた場合のメリット・デメリット
親権者と監護権者を分けた場合のメリットとデメリットについて解説していきます。
メリット
親権と監護権を分けた場合のメリットとして、以下のケースが挙げられます。
親権問題の早期解決につながる
親権について話し合いで決まらないと離婚調停や離婚裁判にまでもつれ込み、長い期間争うことになってしまいます。このような場合に、相手に親権(監護権)を譲り、自分が監護権(親権)を持つことで、協議や和解による早期解決ができる可能性があります。子供とつながる安心感
非監護権者は普段子供と生活を共にしません。そのため親としての責任が薄れてしまいがちですが「親権」を持つことで自分も親としての安心感を持てるだけでなく、養育費の不払い率を下げることができます。
デメリット
親権と監護権を分けた場合のデメリットとしては、監護権者から考えると、子供に何かあったような時に「親権者」の同意が必要になることが挙げられます。
例えば、
- 子供が交通事故に遭った時に損害賠償を求める裁判を起こす場合
- 子供の預金口座を作りたい場合
上記のような場合には親権者でないと「財産の管理」「法律行為の同意見」を行使できないので、このようなトラブルに遭った時にスムーズに動けないのはデメリットと言えます。
監護権を分ける際の手続き
親権と監護権を分けるには、離婚する際にどうするのかを決めます。一般的な手続きの流れは以下のとおりです。
- 夫婦で話し合う
- 話し合いで決まらない場合は「離婚調停」を行う
- それでも決まらない場合は「離婚裁判」を行う
離婚裁判までもつれ込んだとしても、裁判所は親権と監護権を分けることに消極的であるため、認められる可能性はほぼありません。できれば①、②で決められることが望ましいでしょう。
①夫婦での話し合い
夫婦で話し合って親権者、監護権者を決める場合は必ず「離婚協議書」を作成しましょう。
「離婚協議書」とは離婚する際に夫婦で決めた約束事をまとめた契約書です。約束違反が認められる場合は裁判で大事な証拠となります。
離婚協議書を作る理由として、離婚届には親権者を記入する欄しかなく、監護権者と親権者が分かれていることが明記されません。そのため、今後のトラブルを防ぐために、離婚協議書で親権と監護権を分けている旨を記載することが重要となります。
話し合いで解決しない場合は離婚調停をすることになります。
②調停の申し立て
監護権と親権が話し合いで決まらない場合は離婚調停に移行します。
「離婚調停」とは、裁判所で調停員の仲介によって当事者間のもめ事を譲歩し合いながら解決を目指す手続きです。
離婚調停を申し立てると、約1ヶ月後に第1回目の話し合いが行われます。そこで同意できなければまた1か月後に、第2回の話し合いが行われます。話し合いの回数は夫婦によって様々ですが、平均的には3~5回程度となります。
③裁判による判決
調停で決まらない場合は離婚裁判をして、離婚後の親権者を決めます。
離婚裁判とは離婚に関する争いを解決するため、公平な第三者である裁判所に訴えを起こし、決着をつける手続きのことで、当事者間に、法的な判断権を持つ裁判官が入る点が特徴です。
調停や裁判での監護権者の判断基準
離婚裁判で、話し合いがまとまらない場合は裁判所が判断を下します。その際の判断基準として、「どちらのもとで生活する方が子供は幸せになれるか」「子供の幸せ」という点から監護権者を決めます。
調停や裁判での監護権者の判断基準は以下のとおりです。
- これまでの子育ての状況
- 今後の子育ての状況
- 子供の年齢
- 子供の意思
監護権の変更について
監護権者に関しては後で変更することもできます。当事者間の話し合いで変更することもできますが、まとまらない場合には家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
なお、調停前にあらかじめ監護権者の変更に合意していたとしても、それだけの理由で家庭裁判所が変更を認めてくれるわけではありません。
変更が認められやすい事情としては以下のようなケースが挙げられます。
- 親権者(監護権者)の育児放棄
- 親権者(監護権者)による虐待
監護権者が監護を怠るとどうなるのか
監護権者が子供の監護を怠ると、児童虐待防止違反や保護責任者遺棄罪などの犯罪が成立する恐れがあり、具体的に以下のケースが挙げられます。
- 幼い子供を放ったまま遊びに出かける
- 子供を出かけた先で置き去りにする
監護権は親の権利であるのと同時に義務です。育児放棄や虐待は、犯罪として刑事罰を科される可能性もあります。
監護権の獲得が難しい場合にすべきこと
監護権が獲得できない場合は、子供に会えなくなるのではないかと悲しい気持ちになることでしょう。そのような場合には「面会交流」を実施しましょう。
面会交流は子供の健やかな成長のためにも大切だと考えられている子供の権利です。相手側が「会わせたくない」と主張しても、子供にとって会わせるべきではない合理的根拠が無ければ基本的には認められません。
また、面会交流について双方が合意すれば、特に決まった方式はなく、会える回数、時間などは自由に決められます。
また、決めたことを守ってもらうためにも、約束事は離婚協議書や公正証書として残しておくと良いでしょう。
面会交流については以下でも詳しく解説しています。併せてご参考ください。
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監護権に関するよくある質問
監護権についてよくある質問に答えていきます。
監護権と親権を分けた場合の子供の戸籍はどうなりますか?
監護権と親権を分けた場合、子供の戸籍は親権者の戸籍に残ります。
例として、婚姻中はA田さんだった夫婦が離婚し、夫が親権者、妻が監護権者になったとします。離婚後は原則として旧姓に戻すことから(戻さず婚姻時の氏を使うこともできます)、妻はB木さんになりました。しかし、一緒に暮らす子供は親権者の戸籍に残るので、子供の苗字はA田のままということになります。
監護権者と親権者はどちらが養育費を払うことになりますか?
親権者と監護権者を分けた場合、子供の養育者は監護権者なので、監護権者は親権者に養育費を請求できます。
これは、監護権者が子供のために食費等を負担しているため、別居している親権者が養育費を支払うことで子供に対する負担を公平にする目的があります。
父親が親権や監護権を獲得することは可能ですか?
父親が親権や監護権を獲得することは可能です。現在日本では離婚した夫婦の約80%は母親が親権を得ています。
しかし、親権を獲得するうえで最も大事なのは「どちらと生活をした方が子供は幸せになれるか」です。
父親が仕事と育児の両立ができ、子供との時間をとり、愛情をもって育てていけるなら父親が親権をとることは可能です。ALGでも父親側で親権や監護権を獲得したケースは多数あります。
監護権のみ獲得していた場合、再婚しても問題ありませんか?
監護権を持つ親が再婚をしても、監護権が親権者にわたることはありません。
しかし、監護する子供と再婚相手を養子縁組させたい場合は、元夫である親権者の許可が必要となり、トラブルになる可能性もあるため注意が必要です。
離婚時の親権・監護権について不安なことがあれば弁護士にご相談ください
離婚の際に「親権」の問題は大きな争いになりやすく、当事者間ではなかなか決められない問題です。通常は、親権と監護権は両親のどちらかが持つことになりますが、事情があれば「親権」と「監護権」を分けることができます。
早く離婚をしてしまいたいからと、親権と監護権を相手に譲ってしまうことはおすすめできません。
しかし、当人同士では話がまとまらないなど、上手に話し合えないこともあるでしょう。そういう時は弁護士にご相談ください。親権、監護権についてわかりやすく説明し、どうするのがベストな選択なのか、一緒に考え早期解決を目指していきます。
親権や監護権を決めるときに大切なのは「自分が子供と暮らしたい気持ち」ではなく「子供の幸せ」です。冷静な話し合いをするためにも私たちにご相談ください。
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保有資格 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)