解雇
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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
解雇の意思表示は、適切な手順を踏み、労働者の同意を得られれば撤回できます。
解雇の撤回は、主に解雇後に不当解雇と判断されるリスクが高いと判明した場合や、紛争を回避するために合意退職を目指す場合に検討されます。
解雇は対応を間違えると多額のバックペイの支払いなどにも繋がり、経営に大きなリスクをもたらすおそれがあります。
本稿では、解雇を撤回する際の注意点や復職拒否への対処法など、実務上の手続きについて詳しく解説していきます。
目次
解雇の撤回や会社都合の取り消しはできる?
解雇の撤回とは、会社が解雇の通知を後から取り消し、労働契約を復活させて労働者の復職を求めることを指します。
ただし、一度行った解雇を会社が一方的になかったことにはできません。解雇の意思表示は原則として撤回できず(民法540条2項)、撤回を成立させるには、労働者の同意(復職の意思)が必要です。
会社が自由に解雇を撤回できてしまうと、労働者の地位が非常に不安定となってしまうため、撤回要件として労働者の同意が設けられています。
また、会社が解雇の撤回を申し出ても、以下のようなケースでは撤回が認められない可能性が高いでしょう。
- 謝罪の要求など、条件付きの解雇の撤回
- 解雇の原因となったセクハラやパワハラが解決しておらず、就業環境が改善されていない
- 労働者が復職を拒絶するに足りる客観的な事由がある
企業が解雇の撤回を検討するケースとは?
解雇の撤回が必要となる事情は、会社の状況によって様々ですが、解雇の撤回を検討する主なケースとして以下の例が挙げられます。
- 不当解雇と判断されるリスクがある場合
- 合意による退職で解決を目指す場合
- 労働者の復職意思がないことを見越している場合
不当解雇と判断されるリスクがある場合
解雇の撤回を検討する主な事例として、不当解雇と判断される法的リスクの回避があります。
解雇の有効性は厳格に判断される傾向があり、客観的合理性や社会通念上の相当性が不十分であれば、不当解雇と判断される可能性は高いといえます。
解雇が無効になれば、会社は解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払いや多額の慰謝料請求を負うことになるでしょう。
会社の経済的損失や裁判による紛争の長期化などを考えれば、解雇の撤回を選択するのも1つの経営判断といえます。なお、裁判で不当解雇となった場合は、解雇時点に遡って雇用が継続しているとみなされます。
法的には解雇がなかった状態に戻るため、改めて会社が解雇の撤回手続きをとる必要はありません。
合意による退職で解決を目指す場合
解雇がトラブルに発展しそうな場合には、解雇を撤回し、合意による退職を目指すケースもあります。
不当解雇であると労働者が裁判を起こせば、会社は金銭的負担や多大な労力を負うことになります。
裁判で解雇が無効と判断されれば、事案によっては多額のバックペイが生じ、その額が1000万円を超える可能性も否めません。
合意退職による解決であっても、一定程度の金銭支払いは必要になることが一般的ですが、裁判よりも負担は軽減される傾向にあります。
解雇の撤回を行った上で、合意退職を目指す際には、双方が納得できる条件を交渉しなければなりません。話し合いではなく退職強要となってしまわないよう、対応に注意しましょう。
労働者の復職意思がないことを見越している場合
不当解雇を主張している労働者のすべてが復職を望んでいるわけではなく、金銭的補償だけが目的のケースもあるでしょう。再就職済みであるなど、労働者に復職意思がない場合、解雇を撤回することで交渉を有利に進められる可能性があります。
解雇を撤回し復職を命じても、労働者が正当な理由無く出社しない場合には、撤回後のバックペイの義務を回避できる可能性が高まります。この場合には退職届の提出を求めることも可能でしょう。
ただし、形式的な解雇の撤回とみなされると、撤回自体が無効となるリスクがあります。
そのため、口頭ではなく、具体的な出社日や業務内容を明記した書面を送付し、期限を定めて回答を求めるなど、客観的に証明可能な手順で復職意思を確認することが大切です。
不当解雇を理由に労働者から解雇の撤回を求められた場合は?
労働者から不当解雇を理由に解雇の撤回を求められたとしても、会社はこれを拒否できます。
ただし、撤回に応じない場合、会社は裁判などで解雇の有効性を争うことも想定しなければなりません。
解雇の撤回を拒否するか否かの判断基準は、解雇の有効性が認められる見込みがどの程度あるかでしょう。
十分な勝算が見込めるのであれば、安易に撤回せず解雇の意思を貫くことも適切な経営判断といえます。
特に対象労働者が復職することで、職場環境が著しく悪化するなど会社への悪影響が大きい場合には、撤回せず話し合いによる解決を模索すべきです。
ただし、解雇の有効性判断は極めて専門的であり、判断を誤れば多額の賠償リスクに繋がります。撤回するか争うかの判断に迷う場合は、必ず弁護士へ相談しましょう。
解決金を支払って和解するケースもある
裁判で敗訴した場合、会社はバックペイなど多額の賠償責任を負うだけでなく、労働者の職場復帰も認めなければなりません。これらのリスクを回避するために、解決金を支払って和解するケースもあります。
和解を選択するメリットには、紛争の早期解決や、労働者の復職阻止という目的の達成が挙げられます。
また、労働者にとっても一定の金銭を早期に得られるため、再就職活動に専念できるメリットがあります。
解決金の相場は事案によって異なりますが、長期間に及ぶ裁判では、金銭面だけでなく時間的・精神的コストも大きくなります。敗訴のリスクを踏まえれば、和解の選択も合理的な判断ともいえるでしょう。
解雇を撤回する際の手続き
解雇を撤回し、労働者に復職を求める際の手続きの流れは以下のとおりです。
- 解雇の撤回を決定する
- 労働者へ解雇の撤回を通知する
- 労働者の同意を得る
- 復職準備・就業環境整備
解雇の撤回は、解雇の有効性や無効のリスクを精査し、社内で決定を共有します。
解雇の撤回を通知する際は、後日の紛争を防ぐためにも必ず書面で行いましょう。
通知書には、撤回の事実だけでなく、出社日や復職後の業務内容などを具体的に記載します。
解雇の撤回は会社が一方的に行うことはできないため、必ず労働者の同意を得ましょう。
同意を確認した上で、復職準備を進めます。解雇の原因がハラスメントなどであった場合には、配置転換の検討やハラスメント防止策を講じるなども必要です。
解雇を撤回する際に注意すべきポイント
解雇撤回に伴い復職条件を提示する
解雇を撤回して労働者に復職を求める場合、復職条件は会社が一方的に決定して通知していいものではありません。
解雇前の労働条件で復職させることが原則ですが、復職後の業務内容や配属先、労働条件などについては労働者の納得を得られるよう、十分に話し合い、不安解消に努めましょう。
なお、解雇前の労働条件を下回るような復職条件は原則として認められていません。
解雇を撤回した場合、労働契約上は解雇が無かったときと同様の雇用状態が継続していると判断されます。
そのため、解雇の撤回を機に合理的な理由も無く、賃金の減額や役職の引き下げといった不利益な条件変更を行うことはできません。
もし、労働者に不利な復職条件を会社が一方的に課した場合には、解雇の撤回効力が否定されるおそれがありますので、注意しましょう。
解雇期間中の給与の補償について従業員と話し合う
解雇を撤回する際は、解雇期間中の給与についても労働者と話し合いましょう。
解雇の撤回によって、解雇期間中も雇用が継続しているとみなされるため、この期間について会社は賃金を支払う必要があります(バックペイ)。
賃金を精算する際は、通常の給与と同様に源泉所得税、住民税、本人負担分の社会保険料や雇用保険料の控除を行わなければなりません。
すでに解雇予告手当や退職金を支払っている場合は、それらと相殺するか、返還を求めるかといった調整も必要です。
なお、有効に解雇を撤回したにもかかわらず、労働者が正当な理由無く出社を拒否した場合には、その後の賃金支払いは不要です。
出社拒否が続く場合は、新たな業務命令違反として解雇事由に該当する可能性もあります。
解雇撤回後の金銭については合意書を作成する
解雇の撤回に伴う金銭的な清算対応については、後のトラブルを防止するためにも必ず合意書を作成し、書面で取り決めておきましょう。口頭による約束は「金額が違う」「手当が含まれていない」などの二次的なトラブルを引き起こすおそれがあります。
合意書には、解雇期間中のバックペイの支払額を記載し、支払日や控除する社会保険料などの内訳も併せて明記します。支払済みの解雇予告手当や退職金の返還もしくは相殺方法についても記載しておきましょう。
社会保険・雇用保険などの手続きを行う
解雇の際、会社は労働者の健康保険や厚生年金保険、雇用保険などの資格喪失手続きを行っています。
解雇を撤回する際は、これらの保険についても遡って資格を回復させなければなりません。
社会保険は管轄の年金事務所もしくは組合へ取消届を提出しましょう。
解雇撤回の事実を示す合意書などの書類を求められることもあります。
雇用保険についてはハローワークで手続きしますが、すでに労働者が失業給付などを受給していた場合には、給付金の返還などの調整が必要になる可能性もあります。
遡って保険資格を回復させた場合には、その期間の保険料の納付が必要です。
本人負担分の保険料については、バックペイと相殺するなど徴収方法を労働者と話し合いましょう。
解雇を撤回しても慰謝料の支払いを命じられるケースがある
解雇を撤回し、バックペイを支払ったとしても、解雇に関するすべての法的責任が無くなるわけではありません。解雇に至るまでのプロセスや態様が著しく不当であった場合には、別途、慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。
慰謝料の支払いが発生するのは、十分な調査や弁明の機会を与えない強引な解雇やハラスメントの隠蔽、労働者の健康に悪影響を与えるなどのケースが考えられます。
解雇を撤回したとしても、労働者が被った精神的苦痛まで無くなるわけではありません。
撤回したのだから損害賠償責任はないはずだという理屈は通用しないということを念頭に置いておきましょう。
解雇を撤回された労働者が復職を拒否する場合の対処法
解雇を撤回しても、労働者が感情的な反発や不信感から復職を拒否するケースは少なくありません。
出社するよう業務命令を発令しても拒否するのであれば、まずは話し合いの機会を設けましょう。
拒否の理由が「ハラスメントの不安がある」などと明らかになれば、復職条件の改善も可能になります。
それでもなお、復職を拒否する場合は、無理に雇用を継続するのではなく合意退職(退職勧奨)の検討が必要になるでしょう。
業務命令違反として再度の解雇を検討するケースもありますが、解雇のハードルは高いため、まずは合意による解決を目指すのが現実的です。
一定の解決金などの条件を提示し、双方が納得する形で労働契約を終了させられれば、将来的な紛争リスクを回避することに繋がります。
解雇の撤回に関して争われた判例
事件の概要
(令和6年(ネ)2738号・令和6年12月24日・東京高等裁判所・控訴審・K’sエステート事件)
居住用不動産の売買及び仲介を営むY社に営業職として勤務していたXは、歩合給の変更や歩合給の帰属、営業車の使用可否などを巡ってY社代表と対立状態にありました。
その後、Y社はXに給与の減額を告げ、嫌なら退職するよう迫りました。
Xがこれを拒否したところ、Y社は解雇を通知しました。
Xは、本件解雇は違法で無効であると主張し、これを受けてY社は解雇を撤回。撤回後は所属支社ではなく本社に出勤となること、懲戒手続きを開始することをXへ通知しました。
Xは通知受領後、Y社に対して復職条件の質問や要望を行い、労務提供には至りませんでした。
裁判所の判断
裁判所は、本件解雇は解雇権を濫用したものとして、違法無効と判断しました。
その上で、解雇撤回後の不就労について、復職後の条件や職場環境が明らかになるまでの期間に関してはY社に帰責性があるとして未払い賃金の支払いを命じました。
一方、Y社がXの求めに応じて復職後の条件やその根拠を明示し、職場環境への配慮を示した後はY社に帰責性があるとは認められないと結論づけています。
判断の理由としては、Y社がハラスメント防止の誓約を結んだことや懲戒手続きの停止を示したことなど、職場環境への相当の配慮を示したことが挙げられました。
就労の受領拒絶が改善しているのに対して、XはY社の提示に対して具体的な指摘をせず、期限内に就労意思を明らかにしなかったため、その後の不就労に未払い賃金は認められないとしました。
ポイント・解説
本事案は、解雇撤回後のバックペイの支払い義務がいつまで続くかという点に対する指針といえます。
本事案では、単に「撤回した」と伝えるだけでは不十分であり、復職に向けた環境整備がどれだけ行われているかが判断のポイントとなりました。
具体的には、ハラスメント防止の誓約や懲戒手続きの猶予などを会社が実施している点が評価されています。
改善を実施しているにもかかわらず、労働者が具体的な改善要求を行わずに出社拒否を続けた場合には、その時点で会社は不就労に対する責任を免れると考えられます。
この時点以降は会社に賃金支払い義務は発生しないため、未払い賃金も限定的となります。
解雇撤回時には、復職条件を具体的に書面で示し、回答期限を設け、就労意思を客観的に確認できる体制を整えておきましょう。
解雇の撤回に関するQ&A
業績悪化を理由に解雇した場合でも解雇の撤回を求められることはありますか?
業績悪化に伴う整理解雇であっても、解雇の撤回を求められる可能性は十分あります。
整理解雇を有効とするには「整理解雇の4要件」をすべて満たす必要があります。
もし、役員報酬の削減や新規採用の停止といった解雇回避努力が尽くされていなければ整理解雇としては不適当といえます。
そのほか、人選の合理性や適切な手続きを経ていないなどがあれば不当解雇となる可能性が高く、解雇の撤回を強く迫られることになるでしょう。
解雇の予告を撤回することはできますか?
解雇予告も通常の解雇と同様、会社が一方的に撤回することはできません。
手続き上の違いとしては、解雇予告は将来の解雇を予告する通知であるため、予告期間中に同意を得て撤回することができれば、労働契約は途切れること無くそのまま継続可能となります。
そのため、解雇撤回時とは違い、バックペイの支払いや社会保険の資格回復手続き、金銭の精算対応などの手続きが発生しません。
解雇の撤回や取り消しの判断などについては弁護士にご相談ください
解雇の撤回は単なる事務手続きではありません。
一度行った解雇の意思表示を撤回する場合、対応を誤れば新たなトラブルに繋がる可能性もあります。
解雇の撤回判断が不適切であれば、バックペイの支払いや復職による職場環境のさらなる悪化など、様々な影響が考えられます。解雇の撤回判断は極めて慎重に行うべきでしょう。
弁護士法人ALGには、数多くの労働問題を解決してきた豊富な実績があり、解雇の有効性判断や撤回時の合意書作成、復職拒否の交渉など幅広いサポートが可能です。
解雇の撤回には、複雑な法的判断が必要となります。
少しでも疑問があれば、まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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