ニューズレター
2024.Aug vol.117
不動産業界:2024.8.vol.117掲載
私は、雑居ビルのオーナーで、テナントに貸しています。
とある賃借人とは、契約期間5年間の定期借家契約を締結していましたが、期間満了後現在約1年が経過しているにもかかわらず、賃借人はテナントを使用し続け、賃料も支払われています。
期間満了後、使用継続を黙認してきましたが、やはり契約どおりに出て行ってもらいたいと考えています。
今からその賃借人に対して明け渡しを求めることはできるのでしょうか。
なお、法律の決まりどおりに終了通知は送っています。
定期借家契約は、契約で定められた期間が満了することによって終了します。
もっとも、契約終了後も賃借人による建物の使用が継続し、また賃料も支払われ続け、これに対して賃貸人が明確に異議を述べなかったような場合には、新たに黙示の賃貸借契約が成立すると判断される可能性があります。
以下、詳しくみていきましょう。
定期借家契約は、契約期間の満了によって当然に終了し、“更新”という概念はありません。そのため、当事者間の合意に基づき再契約がなされない限りは、期間満了に伴い、賃借人は賃貸人に対して物件を明け渡す必要があります。
なお、契約期間が1年以上の定期借家契約においては、賃貸人は、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、賃借人に対して期間の満了により契約が終了する旨の通知をする必要があり、これを怠ると、期間満了時の契約の終了を賃借人に対抗することはできません(借地借家法38条6項)。
本件では、適切に終了通知自体は行っているものの、期間満了後の使用継続を黙認してしまったとのことですが、この場合の契約の帰趨はどうなるのでしょうか。
本件と類似の事案において裁判例は、適法な終了通知がなされた場合には、期間満了によって定期借家契約は終了するという原則を示しつつ、終了通知をした場合であったとしても「賃貸人がいつでも明渡請求できるとすることは、建物を使用継続する賃借人の地位をいたずらに不安定にするものであって、定期借家制度がそのような運用を予定しているとは解し難い」とし、「期間満了後も賃借人が建物の使用を継続し、賃貸人も異議なく賃料を受領しているような場合には、黙示的に新たな普通賃貸借契約が締結されたものと解すべき」と判示しました(東京地判平成29年11月22日)。
この事案では、期間満了後、賃貸人は約2年8ヶ月もの間、賃借人による使用継続に異議を述べずに賃料を受領し続けていたという事情がありました。
裁判所はこのような賃貸人が退去手続を進めずにいる状況と使用継続に対する賃借人の信頼を保護しようという観点のバランスを図り、黙示的に新たに普通賃貸借契約が成立するという旨判示したものと考えられます。
もっとも、同裁判例はあくまで事例判断であり、同じようなケースでも個別事情によって判断が分かれているようです。
判断において重視されているのは、①賃貸人が異議を述べずに賃料を受領していたか、②期間満了後どれくらいの期間が経過しているかという2点であると考えられます。
<賃貸人がとるべき対応は?>
定期借家契約の終了後、黙示の普通賃貸借契約が成立してしまうとなると、契約を終了させることが難しくなり、賃借人に出て行ってほしい賃貸人にとっては重大な不利益が生じることとなってしまいます。
したがって、定期借家契約の期間満了時には、“期間が満了したからもう安心だ”などと油断せず、きっちりと明け渡しを求めていくことが重要です。