ニューズレター


2019.Aug vol.57

思い出の品が水浸しに・・・


不動産業界:2019.8.vol.57掲載

私は、マンションの1階を借りているのですが、ある日、自室のクローゼットの中を見ると、天井から壁にかけて水が大量に染み出していて、その結果、クローゼットに大切に保管していた婚礼家具などの思い出の品が水浸しになってしまっていました。
引越しするかどうかは別にして、台無しになってしまったこれらの品物について、貸主さんに賠償してもらうことはできるのでしょうか。何より思い出の品が台無しになってしまったので、慰謝料も払ってもらいたいと思っています。


漏水によって処分せざるを得なくなってしまった場合は、その処分費用について賠償請求をすることができると考えられます。本件においては、慰謝料についても、賠償請求できる可能性があると考えられます。

さらに詳しく

1 賃貸物件において漏水被害が生じた場合、賃貸人は、賃借人に対し、債務不履行責任、工作物責任、瑕疵担保責任など、さまざまな法律構成に基づき、損害賠償責任を負うことが考えられますが、損害賠償請求が認められる損害の範囲は、漏水に関する賃貸人の債務不履行や建物の瑕疵(=通常有すべき安全性を欠いている状態)によって生じることが相当といえるものに限定されます(民法416条)。

本件についてみると、前提として、漏水によって濡れてしまったとしても、タオルなどで拭き取れば元の状態に戻る程度のものであれば、そもそも損害が生じているとはいえませんので、賠償責任は認められません。一方、漏水によって処分せざるを得ない程度にまで汚損していたといえるのであれば、処分に要した費用は、漏水によって生じることが相当といえるものであるといえますので、損害賠償請求が認められる損害といえると考えられます。

なお、本件とは事案が異なりますが、例えば、処分せざるを得なくて新品に買い替えたいからその購入代金を負担してほしいという場合も考えられます。しかし、損害額の算定は、原則として、経年による価値の減少を考慮して算出される交換価値を基準とし(大連判大正15年5月22日)、損傷時の交換価値と損傷後の交換価値との差額(すなわち「時価」)が損害となります。そのため、この場合に賠償請求が認められる損害というのは、新品の価値相当額ではなく、処分した時点の時価相当額であることになります。

2 次に、物に対する慰謝料請求の可否ですが、「一般的にいって、財産権の侵害を受けた被害者は、原状回復または財産的損害の賠償を受けることによって、精神的苦痛も同時に慰藉されるものと認め得るから、財産権の侵害に基づく精神的損害の賠償を求め得るためには、侵害された財産権が当該被害者にとって特別の主観的、精神的な価値を有し、そのため単に財産的損害の賠償だけではとうてい償い得ない程甚大な精神的苦痛を蒙ったと認めるべき特段の事情がなければならないものと解するを相当とする」と判示した裁判例があります(東京高判昭和41年12月22日)。

このように、物に対する慰謝料は、財産的損害が賠償されればこれによって精神的苦痛も慰謝されたとして、原則、賠償請求が認められないものの、特段の事情があれば例外的に賠償請求が認められると理解されています。

本件についてみると、婚礼家具などの思い出の物品は、相談者様にとって主観的、精神的な価値を有しているといえます。そのため、婚礼家具を処分せざるを得なくなったことで単なる財産的損害の賠償だけでは償えないほど甚大な精神的苦痛を被ったと評価できる可能性があると考えられます。

このように評価できる場合は、慰謝料請求が認められると考えられます。

裁判実務上、物に対する慰謝料の請求は、物の財産的損害の賠償請求とは一線を画すほど、認容されるハードルが高いです。そして、仮に慰謝料請求が認容される場合でも、その金額は必ずしも高いものになるわけではありません。

そのため、このような事案においては、「大事な物を台無しにされたのだから弁償してほしい」という被害者側の意向と裁判によって得られる救済結果との間には一定程度の乖離があると言わざるを得ません。

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