ニューズレター


2022.Apr vol.89

賃借人が許せなくて…


不動産業界:2022.4.vol.89掲載

私は、一戸建ての建物を持っているのですが、海外転勤が決まったことに伴い、この建物を貸し出すことにしました。この建物には、備品が沢山あったことから、備品付きで建物を貸し出すことに決め、入居希望者はすぐに見つかりました。その後、半年近く海外で勤務していたのですが、長期休暇ができたことに伴い、日本に帰国した際、この物件の外から様子を伺うと、なんと備品が、建物から屋外に搬出され、野晒しにされていました。荷物を搬出したうえで、鍵を取り換えて、すぐにでも退去してもらいたいのですが、問題ないでしょうか。


鍵の交換は、不法行為に基づく損害賠償責任及び債務不履行に基づく損害賠償責任を追及されることになります。それだけではなく、ご相談者様の行動は、住居侵入罪、窃盗罪、器物損壊罪に該当する可能性があり、入居者様より刑事告訴されかねません。

さらに詳しく

司法手続を経ずに、自らの権利救済を図ることを、自力救済といいます。自力救済は、各人が自らの実力をもって、権利救済を図るという点において、「力こそが正義」という事態を招きかねないことから、原則として違法です。最高裁も、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」にすぎないと判示し、自力救済が認められる範囲を狭く限定しています(最判昭和40年12月7日民集19巻9号2101頁、判時436号37頁)。

賃貸借契約においても、入居者に無断で建物内に立ち入り、賃借人の物を無断で撤去することや、鍵の取り換えを行い、賃借人の使用収益を妨害することは、自力救済に当たり、違法な行為と判断される可能性が高いです。過去の裁判例を見ても、適法な自力救済として認められたのは、賃貸人の撤去要請を無視して、退去済みの賃借人が、警告されたにもかかわらず建物共用部分に2か月以上不要物を放置し続けて、『共用部分に放置された物』を撤去した案件(横浜地判昭和63年2月4日判時1288号116頁)等極めて少数です。

その一方で、賃貸人の無断立ち入りや鍵の一方的な取り換えを、違法な自力救済と判示した裁判例は多数存在します。代表的な裁判例として、浦和地判平成6年4月22日判決があります。この裁判例は、貸室を長期不在にしていた賃借人が、賃貸人に家財道具を廃棄されたことにつき、違法な自力救済行為によって損害を被ったとして、賃貸人に対し不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した事案です。賃貸人は、賃貸借契約書に、『賃借人が賃貸人に無断で1か月以上不在のときは、賃貸人が何らの催告を要せずに、賃貸借契約を解除することができ、建物内に遺留品があった場合には、賃借人は当該遺留品の所有権を放棄し、賃貸人は遺留品を売却することができる』という条項が設けられており、当該条項に基づき、建物内に立ち入り、建物内にあった賃借人の遺留品を全て搬出したうえで処分をしたと反論しました。

裁判所は、前記最高裁判例を引用したうえで、賃貸人の反論について「廃棄処分が本件条項にしたがってなされたからといって直ちに適法であるとはいえない」として、不法行為の成立を認め、廃棄された家財道具の時価、慰謝料、弁護士費用の損害賠償を認めました。

こういった裁判例の傾向から見ても、賃借人に無断で、建物内に立ち入り、荷物を搬出したうえで、鍵の取り換えを行うことは、違法な自力救済に当たり、不法行為に基づく損害賠償請求をなされる可能性が極めて高いです。

このような行為は、違法な自力救済として損害賠償請求を受けるだけでなく、賃貸人が賃借人に対して負う、使用収益させる義務に違反しているとして、債務不履行に基づく損害賠償責任を追及される可能性もあります。加えて、賃貸人が賃借人の言い分を聞かずに、一方的に建物に立ち入ったことは、住居侵入罪(刑法130条前段)に該当する可能性があるだけでなく、賃借人の荷物を賃借人に無断で撤去したことは、窃盗罪(刑法235条)、器物損壊罪(刑法261条)に該当する可能性があります。

「当初の契約内容と違うじゃないか…」と入居者様の身勝手な行動に振り回され、このように思われる賃貸人もおられると思われます。だからと言って、法的手続に基づかない実力行使に出てしまうと、かえって損害賠償責任を追及されかねません。賃料の滞納等、入居者様の身勝手な行動に振り回されている賃貸人は、一度専門的な知見を有している弁護士に相談してみることをお勧めします。

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