ニューズレター


2016.Aug Vol.21

要注意!定期建物賃貸借契約の落とし穴


不動産業界:2016.8.vol.21掲載

私が今度賃貸しようと思っている建物の賃貸借契約は2年間の定期建物賃貸借契約にしようかと思っています。契約の更新が無いことを定めた定期建物賃貸借契約にすると、賃貸期間満了後に更新しないことができますか?


定期建物賃貸借契約においては、当該賃貸借契約の更新が無い旨を定めることができます。そのためには、賃貸人において、あらかじめ、賃貸借契約の更新がなく、賃貸期間満了により当該建物の賃貸借契約が終了することについての書面の交付及び説明をしなければなりません。

このような事前の書面の交付義務と説明義務を果たした上で、更新が無い旨の条項を定めた定期建物賃貸借契約が締結されたなら、これを更新しないこともできるでしょう。


さっそく、「定期建物賃貸借契約書」を用意してみました。賃借人と取り交わす予定の今回の契約書には、賃貸借契約には契約の更新がなく、賃貸期間の満了により終了することが一条項として記載されています。しかも、契約前に賃借人にはこの契約書案を送付して、その内容を検討してもらう予定なのですが、これで、書面交付義務及び説明義務を果たしたことになりますか?


定期建物賃貸借契約をする際、法38条2項に基づき、賃貸人は賃借人に対し、契約の更新がないこと及び期間の満了により建物の賃貸借契約が終了することを記載した書面を、契約書とは別個に交付して説明しなければなりません。 また、法38条2項書面を読み上げただけでは説明義務を果たしたことにはならず、定期建物賃貸借についての内容を相手方が理解できるように分かりやすく伝えねばならないとされています。

さらに詳しく

定期建物賃貸借契約は、通常の建物賃貸借契約と異なり、法26条1項の法定更新の制度及び法28条の更新拒絶に正当事由を求める制度が排除されます(借地借家法(以下、「法」といいます。)38条1項)。そのため、賃貸人が賃貸借契約の終了を申し入れれば、賃貸借期間の経過により、当該賃貸借契約は終了することとなり、賃貸人にとっては使い勝手の良い面もあります。

しかし、賃借人に対しては、当然更新されると思っていた賃貸借契約が更新されないという不利益を被るおそれがあり、そのために、賃貸人に対しては、法38条2項に基づく書面(以下、「法38条2項書面」といいます。)の交付とその説明が義務付けられています。

この点、法38条2項書面について、条文上、契約書と別個独立の書面であるべきか明らかではありませんでしたが、近年、最高裁が「契約書とは別個独立の書面であることを要する」との判断を下したため、今後の実務においては、別個独立の書面による説明書を交付することが望ましいと考えられます(最高裁平成24年9月13日判決)。実務上は、国土交通省HP「定期賃貸住宅標準契約書について」のうち、「定期賃貸住宅契約に付いての説明(借地借家法第38条第2項関係)」において公表されている説明事項等を参考に法定更新による保護を受けないことも追記されることをお勧めします。

また、法38条2項書面の説明義務については、当該書面を読み上げるだけではその義務を果たしたとはいえず、①締結される建物賃貸借契約が、一般的な建物賃貸借契約とは異なる類型の定期建物賃貸借契約であり、その特殊性が法定更新及び更新拒絶に正当事由を求める制度を排除している点にあることを説明し、さらに、②その結果として、当該定期建物賃貸借契約の契約期間の満了によって、確定的に同契約が終了することについて、賃借人が理解してしかるべき程度の説明を行うことが必要となります(東京地裁平成24年3月23日判決)。


最高裁平成24年9月13日判決の事案では、不動産会社が賃借人であり、問題となる賃貸借契約も、事業用の建物を対象としていました。また、賃借人は、事前に賃貸人から賃貸借契約書案の送付を受けてこれを検討しており、今回の賃貸借契約が更新の無い定期建物賃貸借契約であることをあらかじめ了承していたとも捉えられる事案でした。

しかし、最高裁は、賃借人の認識を問わず、形式的、画一的に扱い、法38条2項書面は、契約書とは別個独立の書面であることを要するとの判断を示しました。

なお、仮に、定期建物賃貸借契約のつもりで締結した賃貸借契約が、法38条2項書面の交付義務や説明義務に違反し、定期建物賃貸借契約に該当しないと判断された場合、賃貸期間として約定した期間が経過した後、従前と同一の条件で、期間の定めがない賃貸借契約として更新されることとなります(法26条1項)ので、賃貸借契約締結当時の計画が狂ってしまうことになります。

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