ニューズレター
2026.Feb vol.135
不動産業界:2026.2.vol.135掲載
私が所有するアパートの一室から火災が発生しました。原因は、入居者Yさんのタバコの不始末による失火です。
この火災により、Yさんの部屋の壁や床が焼け焦げるなど、大きな被害が出ました。
失火の場合、「重大な過失」がないと損害賠償請求ができないと聞いたことがあるのですが、賃貸人である私は、Yさんに対して修繕費用等の損害賠償を請求することはできるのでしょうか。
Yさんに対して修繕費用等の損害賠償を請求できるものと考えられます。
「重大な過失がないと損害賠償請求できない」というのは、契約関係のない第三者に対して損害賠償請求をする場合の話です。
賃貸人と入居者の間には賃貸借契約関係があるため、「失火責任法」は適用されず、たとえ不注意の程度が軽くても(軽過失であっても)、賃貸借契約違反に基づいて損害賠償請求をすることができます。
賃貸借契約において、入居者は、借りている部屋を契約終了時に返還する義務を負っています。
そして、入居者は「善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」という義務(善管注意義務)を負います(民法400条)。
タバコの不始末などの不注意によって部屋を燃やしてしまうことは、この注意して部屋を管理・保存する義務に違反したことになります。
したがって、タバコの不始末は債務不履行(契約上の義務違反)となり、これによって賃貸人に生じた損害の賠償を請求できます。
ご質問にある「失火の場合は重大な過失がないと請求できない」という話は、「失火ノ責任ニ関スル法律」(失火責任法)のことを指しています。
失火責任法は、失火者に賠償責任を負わせる条件を「重大な過失」に限定していますが、これはあくまで不法行為(民法709条)に関する特例です。つまり、失火者の契約関係のない第三者に対する賠償責任を制限するための法律です。過去の判例(大審院明治45年3月23日判決)においても、「失火責任法は、契約上の債務不履行責任には適用されない」旨が判示され、その後もこの判例は維持されています。
そのため、賃貸人と入居者のような契約関係がある場合には、契約上の債務不履行責任に失火責任法の適用はなく、入居者の過失が「重大な過失」に至らない単なるうっかりミス(軽過失)であっても、賃貸人は契約上の債務不履行責任に基づいて損害賠償を請求することができます。
なお、どのような場合に「重大な過失」が認められるかですが、①寝タバコをしていたケース、②点火したままの石油ストーブに給油を行い、石油ストーブの火がこぼれた石油に着火したケース等が挙げられます。
以上の通り、法的には請求が可能ですが、問題となるのは入居者に賠償金を支払うお金(資力)があるかという点です。火災による損害額は数百万円から数千万円に及ぶこともあり、個人の貯蓄では賄いきれないケースが大半です。
そこで重要になるのが、借家人賠償責任保険です。これは、入居者が火災や水漏れ等で借りている物件に損害を与えてしまった際に、賃貸人に対して負う法律上の賠償責任を補償する保険です。
権利はあるがお金が回収できないという事態を避けるためにも、入居時の契約条件として借家人賠償責任保険への加入を義務付け、その補償額が十分かどうか等を確認しておくことが、賃貸経営のリスク管理として極めて重要です。