ニューズレター
2017.Dec Vol.37
不動産業界:2017.12.vol.37掲載
アパートの賃貸をしているのですが、賃借人の一人が自己破産をしてしまいました。今後の賃料の支払いも不安なので、契約を解除することはできますか?
また、自己破産する前の支払われていない賃料を回収することはできますか?
賃借人が破産した事実だけでは、契約を解除することはできません。また、賃貸借契約書に「賃借人が破産・民事再生を申し立てた場合」を賃貸借契約の解除事由として定めている場合でも、破産の事実だけで契約を解除することはできません。
契約を解除するには、賃料の不払いや迷惑行為等の債務不履行の事実をもって契約を解除するほかありません。
また、賃料についてですが、破産開始決定前に生じた賃料債権は、破産債権となり、破産手続の中で配当を受けることにより回収を図ることになります(もっとも、多くの場合、回収できないか、回収できてもわずかです。)。他方、破産開始決定後に生じた賃料債権については、財団債権として随時、支払日が来る度に支払われることになります。
平成16年以前の民法621条は、破産手続の開始により賃料支払いに関する不安が生じた賃貸人を保護する趣旨で、賃借人が破産した場合に、賃貸人に解約申入権を認めていました。しかし、賃借人の保護は、賃貸人が破産手続開始決定後に賃料を支払わなかった場合の債務不履行解除によって十分図られるため、破産法の改正に伴い、賃貸人による解約申入権の規定は廃止されました。したがって、現在は、賃借人の破産の事実のみをもって、賃貸借契約を解除することはできません。
また、賃借人の破産を契約解除事由とする特約がある場合でも、破産のみを理由とする解除は認められないと考えられます。当該特約は、上記のような法改正の趣旨や、賃貸人からの解約を制限する借地借家法28条の趣旨に 反するため無効と考えられるからです。
したがって、賃借人が破産をした場合であっても、賃貸人から契約を解除するには、賃料の不払いや迷惑行為等の他の債務の不履行の事実をもって解除するほかありません。
なお、解除権ではありませんが、賃貸人は、賃借人の破産管財人に対し相当の期間を定めて、賃貸借契約の解除もしくは継続(履行)について選択するように催告をすることができます(破産法53条2項)。催告期間内に破産管財人から回答がない場合には、契約は解除されたものとみなされます(破産法53条2項後文)。
破産者に対する債権は、破産債権と財団債権に大きく分けることができます。財団債権とは、「破産手続によらないで財団債権(破産者の財産)から随時弁済を受けることができる債権」をいいます(破産法2条7号)。他方、破産債権とは、「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないもの」をいいます(破産法2条5号)。
財産債権が、破産手続によらずに随時弁済を受けることができる優先的な債権なのに対して、破産債権は、破産手続において債権の届出をして、配当によって回収をすることになります。
そして、破産手続開始決定前の未払い賃料は、破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権ですので、破産債権になります。したがって、破産手続開始決定前の賃料債権については、破産手続の中で配当によって回収を図ることになります。もっとも、賃料を滞納した上での破産ですので、実際に回収できたとしても僅かになることが多いでしょう。
他方、破産手続開始決定後に発生する賃料は、財団債権になります。(1)で述べたように、破産管財人は賃貸借契約の継続(履行)か解除を選択できるところ、破産管財人が継続(履行)を選択した場合には、履行選択後の賃料債権は財団債権となります(破産法148条1項7号)。また、破産管財人が解除を選択した場合も、破産手続開始後契約終了に至るまでの間に生じた賃料債権については財団債権となり(破産法148条1項8号)、破産手続によることなく随時弁済を受けることができます。