ニューズレター


2026.Oct vol.143

賃貸借契約の締結における説明義務違反


不動産業界:2026.10.vol.143掲載

当社は、主に居住用の建物の賃貸経営を行っています。今回入居者との間で賃貸借契約を結ぶこととなった物件(2DK)は、毎年一定の時期になると虫が発生し、毎年駆除を行っている物件です。このことを説明せずに賃貸借契約を締結したところ、入居者が入居日に部屋を確認したところ、すべての部屋に大量の虫の死骸が落ちていました。入居者はご立腹で、このような状況の物件であれば契約しなかった、引っ越し費用等を賠償してほしいと主張しています。

確かに、説明しなかったことに落ち度はありますが、説明義務違反で損害賠償をしなければならないでしょうか。


判例上、賃貸借契約を含む契約の締結にあたっては、契約の締結をするか否かの判断に影響を及ぼすべき情報を提供したり、説明を行ったりする、説明義務が存在します。これを怠ったことにより、相手方に損害が生じた場合には、その説明義務違反から「通常生ずべき損害」について、賠償責任を負わなければならないと判断される可能性があります。

本件では、入居者は「このような状況(虫が大量に発生する状況)であれば、本物件を契約しなかった」と述べていることからすると、賃貸借契約の締結にあたって重要な事項の説明が欠けていたと判断される可能性があります。

そして、それによって入居者が新たな物件に引っ越すために生じた費用等については、貴社が賠償責任を負う可能性があります。

さらに詳しく

1.説明義務について

契約の成立に伴って、契約当事者間には、債権・債務関係が生じます。例えば、賃貸借契約については、賃貸人は賃貸借目的物を貸し渡す義務がありますし、賃借人は、賃料を支払う義務があります。

これらは契約関係が発生したのちの権利義務関係ですが、判例上、契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による損害賠償請求を負いうるとされています(最判平成23年4月22日など参照)。

2.説明義務に違反したことによる賠償責任が認められた例

(東京地判平成31年2月6日)
ここでは、説明義務に違反したとして、損害賠償請求が認められた事案を紹介します。

(1)事案の概要

マンションの居室を借りた原告が、賃貸借契約の締結時に貸主である被告から大規模修繕工事が実施されることの説明がなされなかったことが不法行為に当たるとして損害賠償を求めました。これに対し、被告が原告に対して居室明け渡し日までの約定損害金の支払いを求めた事案です。

(2)裁判所の判断

裁判所は、マンションの賃貸借契約を結ぼうとする者は、賃貸期間中に大規模修繕工事が行われることを知った場合、賃借目的によっては契約を断念して他の物件を選んだり、賃料の減額交渉や入居時期の調整を行ったりするなど、契約内容に影響する意思決定を行う可能性があると指摘しました。そのため、大規模修繕工事が行われるという事実は、契約締結の意思決定に関わる重要な情報であるとし、賃貸人は賃借人に対し、工事が具体的に計画されている場合にはその旨を説明すべき信義則上の義務を負うと判断しました。

その上で、被告らの説明義務違反により、原告は修繕工事の計画を認識した上で契約するかどうかの意思決定を行う機会を奪われ、精神的苦痛を被ったと認定しました。慰謝料の額については、原告が静かな環境を期待して契約したのに工事計画を知り大きなショックを受けたこと、他方で被告が工事を中止したため原告は実際に工事中の居室に住むことはなかったことなど、本件の事情を総合的に考慮し、30万円が相当であると結論付けました。

3.説明義務違反による損害賠償請求のリスクを回避するために

以上のとおり、そのような事情がなければ契約しなかったと判断される事情がある場合、きちんと説明をしておかなければ、後々法的トラブルになることがあります。特に賃貸借契約における説明や告知義務において、代表的なものとしては自殺や事故等による心理的瑕疵に関する説明・告知が挙げられますが、それ以外の事実についても契約締結の判断に影響しうる事項について説明義務は生じ得ます。

賃貸借目的物のマイナスの側面についても、賃借人の意向を踏まえてきちんと契約締結前に説明し、後日の紛争にならないように留意する必要があります。

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